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うみいろノートNo.4 街並み

学生時代の数年間、吉祥寺にある学校に通っていた。武蔵野の緑を色濃く残す街は東京とは思えないほど自然が多く、四季の移り変わりを近くで感じることのできる貴重な場所。

友人たちと学校帰りによく食べ歩きをしたサンロード商店街。先輩に誘われ、怪しげな空気が充満するハモニカ横丁で初めてお酒を飲んだ。雪がちらつく中、好きな人に初めて告白した井の頭公園。今でも僕の背中を押してくれる思い出には吉祥寺の街並みが寄り添っていた。

先週の日曜日、秋風が吹く吉祥寺に行ってみた。もうどれくらいぶりだろう。アルバムの一つになりかけていた街の空気は何ら変わっていなかった。笑顔が自然とこぼれる。

数年ぶりに歩くサンロード商店街。まだこの店あるんだ。こんな店できたんだ。複雑に交差する今を映し出す街の移り変わり。
よく立ち寄っていた、たい焼き屋に顔を見せてみる。いつも値引きしてくれたおばちゃんと久しぶりに言葉を交わす。
「あら! 元気にしてたの?」
「おかげさまで。おばちゃん、あんこ一つ!」

やっぱり安くしてくれたホクホクのたい焼き片手に再び歩き出す。おばちゃんに言われた「あのお友達たちとまた来てよ」の言葉に、僕はあいつらの顔を思い出した。勉強も遊びも、いつも一緒にいたあいつらも、今は社会の風を浴びながら生きてるんだろうな。今頃どうしてるんだろう。元気にしてるかな。

日和に恵まれた井の頭公園は紅葉色の枯れ葉を降らせながら来訪者を快く迎えてくれる。スワンボートに乗る親子、ランニングしている若者、ベンチに座り静かな時間を過ごす老夫婦。それぞれが想い想いに自然と向き合う。大切な人や自分と向き合う。僕みたいに思い出に向き合っている人もいるかもしれない。

夕陽が傾き始め、前々から約束していた友人と飲みに行く。そう、初めてお酒の味を知ったハモニカ横丁に。怪しく光る提灯が夜の深い場所へ導いてくれる灯篭のようでもある。顔なじみの飲み屋で乾杯し、あの頃と同じ肴を口にしながら、やっぱり何も変わらないように話す。


変わらないものはないはずなんだと思う半分、この街の時間だけは変わってほしくないとわがままに願う。「ありがとう」も「ごめんね」も「頑張ろう」も「好きだよ」も、全てこの街で経験したからこそ、安らげる場所なんだろうな。

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