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うみいろノートNo.19 手紙

メールやSNSが発展した昨今、手紙を書く機会なんてすっかりなくなってしまった。

「拝啓」から始まる文章。相手だけを想うひと時。
そんな映画を先日観た。今年初の映画鑑賞として選んだ岩井俊二監督の「ラストレター」。

作中のやり取りには必ず手紙があった。手紙という名のラブレター。
何度も何度も考えて、何度も何度も書き直して、赤裸々な想いを文章に託す。
受け手はどんな感情で書かれたのかを、その筆跡で感じ取る。
書き手の想いが乗った文字だからこそ、時をも越えて届くものがある。

この映画を見て、ある手紙を読み返した。
中学時代にもらった手紙。今までの人生で一度だけ届いたラブレター。
教室で隣の席だった彼女とは、感性も、笑いのツボも、いつも話していた話題も、奇跡的に合っていた。
それなのに、当時の僕は違う人を好きになり、その手紙が届く直前にその人と付き合うことになった。
彼女とは次第に疎遠になり、話す機会も減っていった。いつしか僕らは他人同士になっていた。

中学を卒業後、彼女とは一度だけ再会したことがある。
大学の卒業式。懐かしい声で名前を呼ばれ、後ろを振り返ると彼女がいた。
見間違いかと思ったが、まぎれもなく彼女だった。同じ大学に進学し、同じキャンパスで学んでいたとは思わなかった。その最後の日に会うなんて、大人びた彼女の顔を見るまでは絶対に信じなかっただろう。
華やかな袴に身を包み、多くの友人たちに囲まれていた彼女に何も言えず、大した会話もできなかった。そして、僕は視界の片隅で輝く彼女の指輪を直視できなかった。

再会した夜、思い切ってスマートフォンを開き彼女の名前を探す。
アドレス帳の最後のページで、当時僕らは携帯電話を持っていなかったことをようやく思い出す。

思い出の中の彼女は楽しそうに笑っている。
もし彼女にラストレターを書くとしたら、僕は何を書くのだろう。
手元にある彼女からの手紙は、時を越えて、変わらない笑顔で語りかけてくる。

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