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うみいろノートNo.9 日本語

文章を書く人間として、文章を読む人間として嬉しくなる瞬間、それは日本語の繊細さ、美しさに惹かれる瞬間だ。


物心つく頃から当たり前に読み書きや耳にする日本語の良さにようやく気づいたのは、大学の文学部で日本語学の講義を取った時だった。
近代文学を専攻することを決めてはいたが、せっかく文学部に入ったのだから言語系の講義も取ってみようかなと気軽に履修することを決めたおかげで、日本語で書かれた日本文学作品への愛着がより強くなったことを未だに鮮明に思い出せる。


元々日本語は漢語の影響を受けており、むしろ漢語がそのまま日本語として定着してもおかしくなかった。しかし、書く文字としては漢語は定着したが、話し言葉は漢語と古代から存在していた原日本語の音や文法があまりにもかけ離れていたため、独自の発展を遂げていった。つまり、当時の日本人の知恵が日本語を育てた結果、今日の日本語が形作られてきたといえる。


そんな日本語は日本人の奥ゆかしさを表す言葉も多い。
例えば、夜明け前のうす暗い時間帯を表す「彼は誰どき(かはたれどき)」。明け方に愛する人を待っていて、その人と一緒にいるところを他人に見られないかなと心配している様子からできた言葉だ。
ほかにも、新緑の香りを運ぶ爽やかな風を表現した「風薫る(かぜかおる)」。一瞬の刹那を玉の響きに例えた「玉響(たまゆら)」。
どれも情景が浮かんでくる。自然に身を任せるかのように、不思議なほど、すっと心の内に溶け込んでくるような感覚。


日本語の成り立ちは未だその全容が解明されたわけではない。
複雑に形成されてきた日本文化や歴史の中で多くの先人たちが話し合い、考え、吟味してきたんだから、その意図を咀嚼し理解することはかなり高い壁なのかもしれない。
でも、そんな日本語に惹かれ、国内外を問わず研究している人たちがたくさんいる。そんな日本語に魅了され、今この瞬間も世界中の人たちが学んでいる。僕はそうした光景を見るだけで幸せな気持ちになる。


受け手の想像を掻き立てる言葉。主張だけでなく、受け手に解釈を委ねる言葉。
そんな言葉を紡げる喜びを忘れずに、日本語の美しさを一人でも多くの人たちに伝えたい。その一端を担えるなら、僕は迷わず一生物を書いていきたいと思う。

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