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2021年10月

読んだ本の数:11冊

■狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)
新潮文庫の100冊に入ってると聞いてから狙っていた1冊。誰もが知ってる?知る人ぞ知る?ラヴクラフト。名前しかしらないのもオタクの名折れかと、妙な気張りをもって読んだ結果。
恐るべき空想力。これがラヴクラフトか。
頻出する特定のモチーフ、事象、イメージは、作者の頭にこびりついて離れない「恐怖」だったのかしら。微に入り細を穿つ描写の数々。繰り返し繰り返し空想されて、もはや見える段階だったのではないかと推測される。そのためか、作品中で、対象は執拗な仄めかしのうちに幾度も幾度も語られる。それはもう、「いい加減はっきりおっしゃいよ!」と机をたたきたくなるほど。中編のこのじりじりした感じがすきなひとにはたまらないのかと思うが、断然短篇がおもしろかった。敢えてはっきりさせないでぶっつり切れる作りが効果的に働いている。
タイムリーに、【日本人にはクトゥルーは怖くない】といったタイトルのネット記事を見かけた(が中身は読んでいない)。確かに怖さで面白がる作品ではないか。例えば、頭を洗っている最中に大いなる種族とかショゴスのことを思い出しても、目を開けるのが嫌だとは思うまい。
読了日:10月05日 著者:H・P・ラヴクラフト(南條竹則訳)
https://bookmeter.com/books/16977857


■ミンネのかけら――ムーミン谷へとつづく道
ムーミン物語の翻訳で知られる著者が出会ってきた世界や人に触れるエッセイ。
著者については『ヴェイユの言葉(みすず書房)』を読んだ時に、「あら、ムーミンの人が翻訳してる」と思ったのだったが、それどころではなかった。むしろ、ヴェイユが出発点だったのだ。
行ったことのない行けるはずもなかった80年代のパリへ。いまでこそ、ムーミン物語もフィンランドも大好きと言いふらしているけれど、その当時には認識すらしていなかった90年代のヤンソンのアトリエへ。筆者の筆によって軽快に運ばれていく、わたし自身の目と耳と肌。そうして、この読書はまた私のミンネのかけらになる。
わたしも境界が好き。
人と人が対峙するときに発揮されるものすごいエネルギーに感動してしまう。勇気と決意をもって進んだ人にだけ許される至高のときだ。
堀江敏幸による『重力と恩寵』をもじった帯文がまたにくいこと。
読了日:10月08日 著者:冨原 眞弓
https://bookmeter.com/books/16499347


■星の王子さま (新潮文庫)
11歳で初めて読んで以来なんども読んでいる作品。
すっと入ってくる好きな訳だった。文末の処理とか口調とか。感情を抑制した淡い文体ゆえに、いっそう露わに迫ってくるなにものかがある。バラと王子様がものすごく男女だ!という発見。なるほど、こう読めるのか。
訳違いを何冊も持っていて、何冊か読んで、やっぱり内藤濯が最初にして至高では?とずっと思っていた=訳違いを読む意味を見いだせていなかった。ところが、この河野万里子訳はものがたりの新しい面を見せてくれた。
『君をのせて(天空の城ラピュタ)』はこの作品へのはっきりしたオマージュだなあ、と今更ながら腑に落ちもした。
読了日:10月09日 著者:サン=テグジュペリ(河野万里子訳)
https://bookmeter.com/books/555804


■ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)
古き良きアメリカが「古き良き」になり始めた頃に、そのあおりを大きめに食らった地域でおきた事件のものがたり。
映画をみたはずだけれど何一つ思い出せない。本当は見ていないのかもしれないと疑いたくなる。偶然立ち寄った書店の平積みは縁。
掴みどころのなさが幾重にも入れ子構造になっていて、決して掴めない、姉妹の死の「本当の理由」、姉妹の存在、あのころの世界。
男の子はいつだっておばかさんで、女の子はいつだって現実と生きている。美しくソフトフォーカスされた過去に、いつまでもこだわる元男の子たち。一方で、女の子たちは総じて冷静だ。元女の子たちは自分の今の現実を生きているし、五人姉妹も極めて冷静に自殺した。
でも、読者にみえるのは白日夢みたいにきれいな姉妹の虚像で、面倒くさいのであっち側へいきたいような気になってしまう。
読了日:10月13日 著者:ジェフリー ユージェニデス(佐々田雅子訳)
https://bookmeter.com/books/57727


■本は読めないものだから心配するな (ちくま文庫)
どういう本?と聞かれて、一言でこういう本、とは説明しがたい。
とにかく膝を打つ箇所、マークする箇所が多すぎて、歯磨きしながら読むことはできなかった。打ちのめされ、励まされ、目を開かれ、勇気づけられ、静かなのに激しい読書体験。本と対峙した時のつながり、広がり、底の知れなさ、そんなものが言葉に【翻訳】されて、余すところなく詰め込んである。この高揚感!本と言葉とその世界を愛する人へ「必読の書だよ!」と自信をもってお勧めしたい。
以下、うわあ!となったなかでも特にうわあうわあ!となった箇所を引用。詳細は省く。
『詩は万人によって作られなくてはならない(ロートレアモン)』『教養と生存』『ドキュメンタリーとは「地球上のあらゆる生きものが甘受せざるをえない重力を写すもの」』『物語は、重力を無化する権限を持っている』『声の花と眠る書物』
読了日:10月16日 著者:管 啓次郎
https://bookmeter.com/books/18414094


■芸者―苦闘の半生涯 (平凡社ライブラリー)
物心ついたときには子守りとして他人の家に抱えられ、親の顔も自分の名前さえも知らなかったという女性の回顧録。
じつは再読。高校生のころ、市立図書館で借りた本。うすぼんやりそうかなーと期待を込めて古書店で注文したら、やっぱりそうだった。
こんなに悲しいできごとが重なる人というのがいるのだろうか。それともこのころは日本中がまあこんなもん、だったのだろうか。いまひとつ実感としてはつかめていない。ともかく、打たれたときにそれでも生きられる人間とそうでない人間がいるその差はなんなのか。そうでない人間はいったんそこでピリオドを打てるのだとしたら、生きられる人間は全部背負わなくてはならないのか。
……なんていうこれはペンが勝手に走っている。前向きとは言わないまでも、もっとフラットな気持ちで読んでいた。
読了日:10月18日 著者:増田 小夜
https://bookmeter.com/books/470153


■四谷区花園町
【電子書籍】
舞台は太平洋戦争前~現代。エロ雑誌ライターが主人公。
登場人物の性格付けがめちゃくちゃ好み。絵も好き。ヒロインのアキちゃんのかわいさたるや。ぶんぶん手を振るコマでわたしも恋に落ちた。
読了日:10月18日 著者:高浜 寛
https://bookmeter.com/books/7414637


■高丘親王航海記 IV (ビームコミックス)
【電子書籍】
徹頭徹尾妖しく美しく。命をまっとうした親王だ。
読了日:10月24日 著者:近藤 ようこ
https://bookmeter.com/books/18808099


■悪童日記 (ハヤカワepi文庫)
おそるべき双子たち、とでも言いたい。「おそるべき」は「恐るべき」よりもっといろんな意味で。双子「たち」ではないかも。
休憩の必要がないくらい、つぎつぎ次を読みたくなる面白い本だった!本好き仲間に絶賛している人が多くいるのも大いに納得した。自分もその仲間にはいろう。
双子に、うすら寒いような空おそろしさを感じながら、同時に拍手喝采したい。双子と自分は別の存在であることを理解しながら、双子の目を通して世界をみたように思う。
おかあさんの退場のあっけなさの放つ印象のつよさ。そのあっけなさにむしろ、作りものがたりらしからぬ現実感を覚える。それから、テンプレートみたいな性質をもった某国将校。いまここで「テンプレート」とおもうのは、これまでにそのような性質を帯びた類似のキャラクターを少なからずみてきたせいだと思うが、さてそれは、「彼ら」が実際に「テンプレート」的な存在だったからなのかどうか。
三部作だそうで、つづく二作も気になるよね。気になる。読み始めて読み終えた日は偶然にも作者の誕生日だった、という興奮する余談。
読了日:10月30日 著者:アゴタ クリストフ(堀茂樹訳)
https://bookmeter.com/books/553408


■美淑女戦隊 オバサンジャー 困った姑・夫を浄化する!?
【電子書籍】
SNSで紹介されていてつい読んだ。SNSでウケるネタ以上のものではないかな~。
これに限らず、みんな似たような不満の中をずっとぐるぐるしてるんだよね…
読了日:10月31日 著者:グラハム子
https://bookmeter.com/books/18591858


■3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス)
【電子書籍】
謎に包まれた宗谷のヒトらしい一面が。おお。そして、たまちゃんはとっても好きなタイプのキャラクター。
この漫画は、ここぞというときにぱっと飛び降りられる勇気(もしくは蛮行)を尊いものとしてずっと描かれている。そうとばかりはいかないのが現実だものね。尊いことを過たず選びとっていく主人公たちの姿には、勇気づけられるよりも打ちのめされてしまう。
読了日:10月31日 著者:羽海野 チカ
https://bookmeter.com/books/18408758


【打ちのめされる】がキーワードとなった月でした。