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2021年2月

読んだ本の数:6冊

■アヒル命名会議
Twitterで見た、本人演出・出演のPR動画がすごくかわいくて手に取る(その前に、韓国同世代作家の作品がアツいらしいことが気になっていたからこそね)。
風通しがいいな、というのが第一。閉じた世界を切り取っていても、とても開けている印象。内面で葛藤しながら、きちんと世界とやりあっているかんじ。日本人作家、自己との対話しかしてなくない!?と思ってしまったのである。持ち味と強みがちがうということだけど。注目が集まっている理由はこのあたりにあるのかもねと。
あと、読みながら脳内に結ばれる像が、似ているところもあるけど、やっぱり日本ではないのだということ。脳内で像を結ぶ人々の姿は結構似てるけど、おお、これはちがうねえ!ということが単純におもしろい。
『82年生まれ~』あたりも必読なんだろな。
読了日:02月06日 著者:イ・ラン
https://bookmeter.com/books/16856611

■民主主義を救え!
「ポピュリズムの台頭ヤバいぞ」を基本に展開されるこれからの民主主義に関する論考。識者・関係者にとって、トランプ大統領の誕生というのが、いかに衝撃的な出来事だったのかが見て取れる。トランプ政権が終焉を迎えたタイミングで読んだので、ふり返ってみてこその面白さがあった。面白がっちゃまずいかな。
日本では「まだ」ポピュリズムによる危機が実体化してないかもしれないが……というようなことが日本版序文とそれに関連して訳者あとがきで言われているのだけど、いやまって、そもそも日本の民主主義って欧米が考える成功モデルの民主主義にちかづけたことがあったのかな?そもそも極めてポピュリズム基調の民主主義なのではないのかな??と、ゾッとした。
ところ、日本はむしろ権威主義による危機では?という指摘をとあるところでもらい、なるほどなあたしかに。ポピュリズムって具体的なすがたがいまいちわからない。
読了日:02月11日 著者:ヤシャ モンク
https://bookmeter.com/books/14208252

■尾崎翠集成〈上〉 (ちくま文庫)
自らの欲求の強さ・深さというのは、ときに、自分でも気づかないくらい甚だしいことがあって。尾崎翠は自分にとってそういう作家だったんだなとわかった。
『第七官界彷徨』だけ読んでいて、大分衝撃を受けたことは覚えている。うそでしょ!?という気持ちだけが強く残っていて、でもその当時手軽に手に入るほかの作品が市場になかったのよね。くやしいなあと思いつつ仕方ないので寝かせておいたわけだけれど、昨年、別の用事で入った都会の書店にて発見。折に触れ思い出していたわけでもないのにいてもたってもいられず購入。深いところに引っかかっていたんだなあ。
自分はただの趣味の文章書きでただのオタクでただの本好きだけど、作品の向こうにいる尾崎翠自身に共鳴してる気がする。残酷ながら「このまま死ぬのならむごいものだねえ」が一層輝いてみえるのだ。
読了日:02月11日 著者:尾崎 翠
https://bookmeter.com/books/531337

■アンソロジー おやつ
食べ物について振り返るとき、どうしてこうせつなさばかり浮かび上がってくるのか。食べることと生きていることが固く結び付いているからだろうか。そして書き手の、食べ物に対する態度ひとつで、こちらの見方も変わってしまいそう。
古川緑波のエッセイによると、明治末期の東京にはすでにびっくりするくらいいろいろな洋菓子があったんだなあ。その頃東京じゃない場所でいきてたはずの曾祖母さんは、そんなことを知ってただろうか。実際の生活の手触りは、あっという間に消えてしまう。
読了後、おかきを食べたくなって買いに走った。セブンイレブンのPBおかきだけどね。
読了日:02月14日 著者:阿川佐 和子,阿部 艶子,江國 香織,尾辻 克彦,開高 健,角田 光代,木皿 泉,久住 昌之,久保田 万太郎,幸田 文
https://bookmeter.com/books/7920495

■一杯のおいしい紅茶-ジョージ・オーウェルのエッセイ (中公文庫)
オーウェルの、「あの」ジョージ・オーウェルのエッセイ!
『一九八四』『動物農場』を間接話法とすれば、こちらは直接話法。そりゃ興味ありますとも。地に足のついた、とってもまともな、良識のある人だ。紅茶やパブや庭や街の植物を楽しみ慈しむ姿の見える文章を、親しみ深く読めた。
第二次大戦直後の英国のひとびとの生活が読み取れる点でもおもしろい一冊。戦勝国側とはいえズタボロのその様に、嘆息す。戦争なんかよせよせ。
読了日:02月19日 著者:ジョージ・オーウェル
https://bookmeter.com/books/16288613

■切腹考
「切腹をみたことがある」って、三島由紀夫のことだろうかとぼんやりおもいつつ。さにあらず。
性癖というものは事程左様に広く深い…というのはただの話の枕であって、森鴎外のリズムにいって、マーマイトに象徴される他人のような同志のような人間の交流があって、日本の酷薄さに気づいたかと思えば『阿部茶事談』の抄訳になり、結局何かというと、生きることと死ぬことをずっとずーっと考えているのである。常に、これまでが今ここに集約されて生きている。この今もいつか先で集約されるのか。
読了日:02月28日 著者:伊藤 比呂美
https://bookmeter.com/books/11532900

今月のおすすめは、『一杯のおいしい紅茶』。
コロナの閉塞感と戦後の先行き不安とがリンクして、感慨深い。それでも季節は移り変わるし、美しいものはやっぱり美しく、たいせつなものは目にみえなくてもわすれちゃだめだ。