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岡山県内の地神碑分類

地神碑について

 岡山県では県下のほぼ全域で地神を祀っている様子をみることができる。それらの多くは江戸時代頃に修験者や陰陽師が伝えとされる、庄屋などの有力者が建立した石造物である。建立の時期については江戸時代の天明頃に始まり、最近の物では平成に入ってから建立されたと思われる新しいものまである。最も建立されたとされる時期は天保期で、天保の飢饉を受けてのことだと思われる。
 基本的には地区にある社日講ごとに建立されている。

地神の祭

 地神碑の祭は社日に行われる。社日は春分と秋分に最も近い戊の日で、農家にとっては種蒔きの日と稲刈りの日の目安となる。この日の朝に地神碑の前で神事が行われ、地神碑に地神を祀る御札が括り付けられる。また、この社日には地神様が頭を出すので土いじりをしてはいけないなどといい、畑に入ることを忌む風もある。
 地神は農業に関係が深い神で、他地域での田の神と同じような存在である。そのため宅地化などで農業従事者が地区から減る、神事を主導していた修験者・陰陽師が居なくなるなど様々な理由で社日のことが忘れられてしまったところは多い。神事を主導する人物は明治に入ってから修験者や陰陽師へと変わった。

地神碑の分類

 地神碑の形態は岡山県内だけでも様々なものがある。私が現地で確認したものはほんの一部に過ぎず、多様な形態を資料で確認できる。ここでは取り敢えず現地で確認済みの物の分類を試みた。
 まずは加工石を用いたもの。この加工石は切り出した状態から成形した石を指し、一面のみを均した石などは含まない。

 そして自然石型のもの。これは切り出したり採取した時の石の外形を保っているものを示す。

人工石

五角柱五神名地神塔

吉永町三股

 五角柱に整形した石に正面から時計回りに「天照皇太神」「大己貴命」「少彦名命」「埴安媛命」「倉稲魂命」と彫っている。順番や表記などには揺れがあり一定していない。
 これ以外の五神名を記した地神塔も資料に見えている。

黄土色の五角形が五角柱地神塔

 分布は地図からわかるように備前地域に偏っている。

 天明元年に大江匡弼によって書かれた「神仙霊章春秋社日醮儀」にこの形が示されている。

『(神仙霊章)春秋社日醮儀』(京都大学附属図書館所蔵)部分

 ここでは天照皇太神が北面するように、また周りに土手を作るように書かれているが、北面するように作られたものは少なく、土手を有する物はまだ確認できていない。

五角柱堅牢地神と五帝龍王

倉敷市本町

 五角柱に正面から時計回りに「堅牢地神 黄龍王」「赤龍王」「青龍王」「黒龍王」「白龍王」と記している。これら五帝龍王は中国神話に出てくる盤古大王の子どもである。盤古大王は土公祭文などと共に備中神楽の題材になった。そこでは五郎王子として陰陽五行説を説明するものとなっており、中国神話のものからかなり改変されている。この神楽には仲裁役として「修者堅牢神」という神が登場する。この地神塔に関して言えば盤古大王の伝説は「簠簋内伝」に記されたものを参考にした陰陽師による指導があったと思われる。
 分布は倉敷市や鴨方町に数えるほどしかない。

五角柱堅牢地神

岡山市北区高松原古才

 五角柱の正面に「奉勧請堅牢地神鎮座」右側に「天保辛卯年」左側に「下新平中」とある。残りの面はなにも記されていない。日蓮宗の影響下で建立されたものとみられる。
 分布は岡山市北区。

五神名石祠

 石祠の奥に五角柱五神名地神塔と同じ神を記したもの。
 分布は高梁市。

自然石

地神碑

総社市原

 1mから2mほどの自然石に「地神」と大きく彫ったもの。五角柱よりもこちらの方が古いように思われがちだが実際はそうとは限らない。地神の字体には様々な物がある。 

茶色い三角形が地神碑

 分布は備中国の領域と重なっている。

総社市原

 地天の種子である梵字の「パラ」を刻んだものもある。

岡山市北区首部
総社市八代

 堅牢地神や地神尊天と刻んだものもある。これらは地神碑の領域と五角柱五神名地神塔の領域の中間地点に分布しているように思われる。

地水二神・地水両神

岡山市北区延友

 自然石に「地水二神」や「地水両神」「地神水神」などと刻んでいる。水神を別で祀る石碑も多く見かける。多くは横に題目石が置かれており、日蓮宗との関係が深いと思われる。

オレンジの丸が地水二神の碑

 分布は岡山駅より西から中庄駅より東の間に集中している。ここは備前法華の影響が強く残る地域で、題目石も多く見かける。

題目つき地神碑

岡山市北区花尻

 「南無妙法蓮華経」の題目の下に「堅牢地神」と彫っている。左側には「五穀豊穣村中安穏」右側には「天保十三年寅壬拾二月十日」とある。見て取れる通り日蓮宗の僧侶などが主導して建立されたと考えられる。岡山県内で見かける題目石の多くは題目の下に「日蓮大士」や「法界萬霊」などと彫られている。

赤い三角形が題目付き地神碑

 分布は部分的で類例も数えるほどしかない。

刻銘なし自然石

 刻銘なしの自然石を地神としている場合がある。しかしこれが田の神的性格を持った地神であるかについては疑問が持たれ、地主神として祀られていたものの可能性が高い。地主神はその土地の持ち主的あるいはその土地に居つく神的存在として祀られているもので、土地を使わせてもらうときに祀るなどする。丁寧に扱わないと不幸があるとも言われ、厳しい神であるとするところが多い。この地主神は社日の田の神的性格を持った地神よりも昔から信仰されていたものであるようだ。