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GOLDEN SISTERS

ゴールデンシスターズ 第3話

工藤 「スミちゃんは、元気かな?」

沙羅 「ええ、とても」

工藤 「三十年ぶりくらいになるかな?スミちゃんから連絡があったのは」

沙羅 「澄子さんとは、どういったお知り合いなのですか?」

工藤は、レコードプレーヤーのターンテーブルに、LONG PLAYING 盤のアルバムを1枚置いた。静かにレコード針を降ろすと、アナログ的なわずかなノイズが振動し、短いイントロからエラ・フィッツジェラルドの曲が店内に響いた。

工藤 「昔ね、昔、いっしょに音楽をやっていた。スミちゃんがヴォーカルで、ぼくはドラマーだったね」

沙羅 「澄子さんが歌を・・・? 歌手だったんですか?」

工藤 「昔ね、昔、神戸では少し名の知れたクラブで歌っていたんだ。お客が楽しめそうな音楽をジャンル気にせず、演ってたなぁ。ジャズ、ブルース、ポップスや歌謡曲とかね。スミちゃんは、小さなカラダを楽器のように振るわせて歌ってたよなぁ」

工藤 「ジャスミンティーしかないけど、、よかったら飲みなさい」

工藤は、湯気が立ち上がるポットから中国茶器にあるようなカップに熱いお茶を注いだ。

沙羅は、カップに唇を近づける。ジャスミンの香りと緑茶葉のフレーバーに緊張感がスゥーととけて行くようだった。カップをソーサーに戻すと、沙羅は思わず涙ぐんでしまった。

沙羅 「工藤さん、わたし、とても感動しています。澄子さんが、シンガーだったなんて」

工藤は、老眼鏡の上から上目づかいのまま、優しく微笑んだ。

沙羅 「工藤さんは、東京の方なのですか?」

工藤 「ぼくは九州出身でね、大分県の生まれ。ミュージシャンになりたくて高校卒業後、上京したんだ。知り合いの紹介で、神戸のクラブで演奏するようになって、スミちゃんと出会ったんだ」

沙羅 「お伺いしてよいですか? 澄子さんとは、恋人同士のご関係・・・だった?」

工藤 「いやぁ、それはどうかな?友達以上の関係ではあったけれど、恋人と呼べる関係でもなかった。クラブとの契約が終わると、ぼくは東京へ戻ったし、スミちゃんは・・・郷里で縁談話があると言ってたな。それから半年後くらいに、結婚したって電話があったと思う」


店の客 「マスター、お会計頼むよ」

工藤 「ありがとう。傘がないなら、入口に客の忘れ物であるから、好きなの持っていきなよ」

店の客 「そうさせてもらう」

店の客は、沙羅を見てすぐ目をそらしたが、二度見して工藤に尋ねた。

店の客 「アルバイトの子?」

工藤は可笑そうに笑って、手を振った。店の客は、もっともだという顔で出て行った。

工藤 「さて、今夜は店じまいにしよう。駅まで送って行くけど、ホテルは近いのかな?」

沙羅 「東京駅の近くです。明日の早朝、新幹線で帰ります。今日は、いろいろなことがありすぎて、眠れそうにないみたいです」

工藤 「ところで、オーディションはどうだった?」

沙羅 「オーディションは・・・どちらでもいいんです。目的はかなったし、最高の思い出ができました」

工藤 「それでは、スミちゃんが残念がると思うな」

沙羅 「えっ?」

工藤 「スミちゃんが三十年ぶりに連絡してきたのには、それ相当の理由があると思っていた。あなたと会って、ぼくはその理由が分かった気がする」

沙羅 「わけ、ですか?」

工藤 「また会えるのを楽しみにしているよ」

                          つづく

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