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GOLDEN SISTERS
ゴールデンシスターズ シナリオ風#
18歳の沙羅は、いきなり男性に抱きしめられた。というより、沙羅のアタマが、勢いよく見知らぬ男性の胸に当たったと言った方が正解だ。沙羅は、その相手がタチバナ悠生であることがすぐにはわからなかった。
しかし、痩せていて身体はそれほど大きくはないが、しっかりとした骨格と、視線を隠すように伸ばした前髪が特徴的な若い男性がタチバナ悠生であることに気が付くと、沙羅は呼吸が止まりそうになるくらい驚いた。
タチバナ悠生は20代半ばの年齢だったが、ロック少年がそのままオトナになったような屈託のない人柄とクールというよりナイーブな感性で、女子高校生を中心に人気があった。
沙羅 「タチバナさん・・・?」
タチバナ 「だれ?」
沙羅 「沙羅です。真野沙羅です」
タチバナ 「まやさら・・・だれ?」
沙羅 「ゴメンナサイ、私、真野沙羅といって、今日のオーディションに四国、愛媛県から来ました」
タチバナ悠生は、自分の手が沙羅の腕を掴んでいることに気がつき、ゆっくりとその腕を放した。
タチバナ 「そうなんだ、また会えるといいね」
それが沙羅とタチバナ悠生との最初の出会いだった。
タチバナ悠生は、ヴォーカリスト、ギタリストで1990年代、日本国内の音楽シーンを席巻していた。しかし、突然、謎の死を遂げ、その早すぎる死ゆえに今も伝説のロッカーとして世間で語り継がれている。また、彼の楽曲のいくつかは、今も名曲として巷に流れ若いミュージシャンにも歌い継がれていた。
今日は、タチバナ悠生が所属する、というより彼のセールスで立ち上げた音楽レーベル会社のオーディション日だった。
オーディション会場の待合室。
書類審査を通過した50人くらいの女性たちに混じって、沙羅も椅子に腰掛けている。
「ヤッタァ!」
沙羅は、椅子に腰掛けたまま思わず両手両足を広げて、その場で小さくひとりで歓声を上げた。沙羅は、タチバナ悠生と偶然に出会えたこと、突発的な事故には違いないが彼に抱きしめられた事によろこびや興奮を隠すことはできなかった。
沙羅の突拍子もないような振る舞いにも、これからオーディションを受ける周りの少女たちは無関心だった。
その夜、銀座。
夕方から降り始めた雨と、日曜日の8時過ぎということもあって、人通りはまばらだった。
ドアベルの音が鳴り響いて扉が開くと、そこは10名ほどのカウンター席が用意されたショットバーだった。木製の重厚なカウンターテーブルと革張りの椅子、落ち着いた間接照明はどこか古びていたが、都会の喧騒とは無縁の世界のようにも感じる。
銀座の片隅にある古びたショットバーを訪れたのは、沙羅だった。
「いらっしゃいませ」
バーの主人と思しきアイロンでプレスされた真っ白なワイシャツを着た老紳士が、カウンターの中から、この店には到底似つかわしくない客人を迎えた。
沙羅のほかに店の客は、入口に1番近いカウンター席の端で何やら書き物をしている中年男性だけだった。男性は、あまりにも若い少女の来店に目をバチクリと瞬かせてから、次に思わず主人に目を向けた。
主人の髪はきちんと整髪されているが、分量は減って抜け落ちていた。おそらく古希はとうに過ぎた年齢に違いなかった。
主人 「いらっしゃい」
主人は、優しい笑顔で、あらためて客人を迎えた。
沙羅 「こんばんは、はじめまして真野沙羅です」
主人 「工藤と言います。話しは、笠井澄子さんから伺っていますよ。さあ、お掛けになってください」
主人は、沙羅にカウンターのいちばん奥の席を勧めた。
工藤 「今夜は、少し肌寒い・・・」 工藤が、独り言のように呟いた。
沙羅 「はい、外は、雨脚も少し強まってきたみたいです」
工藤 「スミちゃんは元気かな?」
沙羅 「はい、とても」
つづく
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