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工業簿記~器が簿記で、中身が原価計算Ⅰ工業簿記とは何か

①工業簿記とは何か

 日商簿記検定3級は商業簿記だけですが、2級には工業簿記が加わります。商業簿記については、内容こそ難しくなりますが、3級の延長線上で学習を進めることができます。
 しかし、工業簿記については、少しかじってみた方は、工業簿記は何か勝手が違うと感じると思います。簿記という「器」は共通しているのですが、「中身」が大きくことなるためです。商業簿記の「中身」は、ほとんどが企業外部の取引先との「外部取引」がメインです。
 これに対して、工業簿記の「中身」は、原価計算です。つまり、「器」の簿記は共通していても「中身」の原価計算は、3級ではまったく学習していない新たな分野です。商業の場合は、基本的に仕入値を基に容易に売上原価を算出できます。例えば、1,000円で仕入れたシャツであれば、1,000円以上で売ればもうけが出ることが分かりますし、売値と仕入値の差額が売上総利益、つまり粗利益になります。
 しかし、製造業の場合、原料の布はいくら、裁断、縫製の機械の減価償却費がいくら、働く人たちの賃金・給料がいくらということは分かっても、製品であるシャツ1枚にいくらかかっているかは、計算しないと分かりません。例えば、売値をいくらにすればよいかも、それでもうけが出るかどうかも分からないということになります。
 したがって、原価計算というのは、製造業における原価、つまり製造原価を計算することを意味します。そして、工業簿記では、「内部取引」の記帳がほとんどです。そのため、商業簿記では出てこない記帳対象がたくさん出てきます。工業簿記は、「器」として簿記を使うところは商業簿記と同じですが、「中身」は大きく異なることを意識しましょう。

②まずは「中身」の話、原価要素

 まずは、原価計算の第一歩、原価要素について説明します。原価計算では、原価をまず次の3つに分類します。ここでは、シャツ工場を前提に説明します。

材料費 シャツの原料の布など
労務費 働く人たちの賃金・給料
経費 その他 裁断、縫製の機械の減価償却費

 この3つの要素が「加工」によって製品となります。モノとカネの対流として表したものが下図です。

 ここで注意しなければならないのは、「材料費」は、原材料という形のある物であることが多いのに対して、「労務費」は人の労働力、「経費」は裁断、縫製の機械の減価償却費というように形のあるものではありません。そこで、「モノ」としています。
 製品については、形のある物である場合もありますし、無形のサービスである場合もあるので、「モノ」としています。

 材料費労務費経費の3要素を出発点として、製品の原価を計算するのが原価計算です。3要素の「調達」については、「外部取引」ですが、3要素により「加工」して製品に至るまでのプロセスは「内部取引」です。原価計算は、本来、簿記上で計算する必要はありません。しかし、それを簿記上で行うのが工業簿記です。

③「器」の話、工業簿記固有の勘定「仕掛品」と「製品」


 「仕掛品」と「製品」は、勘定の名前です。「仕掛品」勘定には、工場の製造工程に投入された「モノ」が借方記入されます。そして完成された「モノ」が製品倉庫に運び込まれた際、「仕掛品」勘定では貸方記入されます。まず、受け入れ側について原材料を例にして説明します。
 外部から調達された原材料が、材料倉庫に運び込まれたとします。それは、「材料」勘定に借方記入されます。そして、加工のために工場に運び込まれた「モノ」については、「材料」勘定では貸方記入される一方、「仕掛品」勘定に借方記入されます。「仕掛品」というのは、製造工程上にあるもの、つまり、作りかけのモノを意味します。

 そして、製造工程に投入されたモノが加工され、完成して製品となったものは製品倉庫に運び込まれ、「仕掛品」勘定では貸方記入される一方、「製品」勘定に借方記入されます。

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