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怪獣着ぐるみリョナ

夜に先輩に呼び出されて、バイト先の倉庫にやってきた。
バイト先というのはヒーローショーの事務所だ。

倉庫に入ると、ヒーローや宇宙人や怪獣の着ぐるみが吊るされている。
もう夜遅いので事務所にも倉庫にも人の気配がない。
先輩、と声をかけながら倉庫の中を探して回っていると、着ぐるみの一つが動いて通路に出てきた。
死ぬほど驚いたが、先輩が僕を驚かそうとしたんだと思った。

怪獣に声をかけると、怪獣は先輩の声で真剣な雰囲気でこたえた。
ヒーローの着ぐるみを着て、自分と戦って倒してほしい。

全然話が見えない。
少しずつ話を聞きだしたところ、先輩は小さいころからヒーローに殺される怪獣に性的な興奮を覚えていたそうだ。
特にヒーローの切断攻撃で、頸をはねられたいらしい。

なるほど。
先輩の着ている怪獣は、今週廃棄予定の着ぐるみだ。
着ぐるみを廃棄する際には、切り刻んで捨てる決まりがある。

つまり、怪獣になって頸をはねられるには絶好のタイミングだ。

先輩のフェチには自分も心当たりがあった。
僕はヒーローのやられシーンが大好きなのだ。
僕は先輩にわかりましたと言って、ヒーローに着替えた。

ヒーローになって対峙する先輩から着ぐるみ越しにも興奮と緊張が伝わってくる。
打ち合わせはしてないので、簡単な立ち回りで怪獣を追い詰める。
強いキックが怪獣のみぞおちに入り、ぐぇっとうめき声とともに怪獣がうずくまる。

怪獣がよろよろと立ち上がる隙をついて、チョップを怪獣の頭部に放つ。
チョップとともにあらかじめ切って軽くとめてあった怪獣の頭部が飛んでいった。

頭部を切断された瞬間に、怪獣はビクンと身体をふるわせた。
すぐに、よろよろと頭なしで数歩いくが、バランスを崩してうつぶせに倒れた。
怪獣は倒れてもなお、手足をかいてもがき苦しんでいた。

しばらく怪獣の苦しむところを見ていたが、ヒーローはアドリブで怪獣の腹を蹴った。
うっという声は聞こえたが、まだもがき苦しむ演技をしている。
怪獣の着ぐるみは分厚いので、これくらいなら痛くないはずだ。

ヒーローは、そのあとも怪獣の腹に何回も蹴りを入れた。
怪獣ははじめのころはビクンと大きくリアクションをとっていたが、だんだん死が近づいていまは痙攣するだけになってしまった。

そろそろかと、ヒーローは怪獣の頸の断面をぎゅうっと踏みつけた。
怪獣は踏みつけるヒーローの足をどけようとしているのか、ぷるぷるしている手を弱々しく持ち上げた。
ヒーローは足でグリっと断面を踏みつけると、怪獣は全身に力をみなぎらせ身体をのけぞらせる。
すぐにその力がゆっくりと抜けていき、こと切れた。

ヒーローを脱いで椅子に座っていると、怪獣の死体が起き上がった。
どうだったかと聞いたら、怪獣の中の先輩がありがとうと答えた。

よかった、断面を踏みつけるとき絶対に先輩の頭を踏みつけていたけど、気にしてないみたいだ。

僕はもしよかったらもう一回別のやつと戦わないかと持ちかけてみた。
先輩は、戸惑いながらいいのかと聞いた。
僕はヒーローやられが大好きだけど、目の前で怪獣が生でやられているのを見るのも良いと思いはじめていた。
僕はいいからと答えると、先輩の怪獣の首を再びくっつけてあげてから、別の着ぐるみに入った。

僕が次に入ったのは、鳥の怪獣の着ぐるみだった。
この鳥怪獣は、ヒーローを倒したこともある怪獣でかなり強い設定だ。
鳥怪獣が先輩の前に現れると、先輩怪獣は明らかに興奮した様子で立ち向かってきた。

鳥怪獣は先輩怪獣を軽くあしらうと、簡単に転んだ。
実際にこの怪獣たちの実力差はこんなものだろう。

転んでじたばたしている先輩怪獣にまたがると、鳥怪獣は勢いよくくちばしを振り下ろした。
くちばしは先輩怪獣の身体に食い込んだ。
鳥怪獣はくちばしを振りかぶっては振りおろし、先輩怪獣をメッタ刺しにしていく。
先輩怪獣はなすすべなく、どんどんボロボロに弱っていく。

何回もくちばしを突き立てられながら、何とか這いずって逃げようとする先輩怪獣。
すかさず、鳥怪獣は先輩怪獣の首に翼をまわすと鳥怪獣は先輩怪獣の首にくちばしを深々と突き立て、頭部をもぎ取った。

先輩怪獣は座った形になり手足を振りまわして暴れる。
背後の鳥怪獣はもぎ取った頭部を放り投げ、勝利を確信したのか雄叫びを上げている。
だんだん先輩怪獣の動きは弱まり、ひくひくと弱々しく痙攣するようになった。

鳥怪獣ほとんど死んでいる先輩怪獣の頸の断面にくちばしを突き立て、グリグリとそこの肉をむさぼりはじめた。
先輩怪獣はくちばしが突き立てられるごとに身体を硬直させた。
たまに脊髄に突き刺さったように、身体をピンと仰け反らせる。
鳥怪獣はそのすべてを無視して頸の肉を喰っている。

先輩怪獣が動かなくなり、鳥怪獣が満足すると、鳥怪獣は先輩怪獣の背中の上に立って勝利の雄叫びを上げ、去っていった。

鳥怪獣を脱いで先輩を待っていると、余韻に浸っていたであろう先輩怪獣はもそもそと立ち上がった。
楽しかったか聞くと、着ぐるみの中で頷いたようだ。

またこっそりやりましょうと言うと、先輩は戸惑いながらいいのかと聞いてきた。
僕は自分も怪獣が目の前でなすすべなく死んでいくところに興奮してたと打ち明けた。

こうして僕らはたまにこっそり秘密の特訓をする仲になった。



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