もしかして、あなたはスリだったの?
マントンからニースに帰る列車だった。
午後3時45分ごろの各駅停車のゆったりとした車内。進行方向を正面にした2人掛けのシートの背もたれの中央には腕を差し込むぐらいの幅があった。窓側に1人で掛けていたわたしのうしろに黒いジャンパーに黒のズボンの男が座った。気づくと、わたしが着ていたウインドブレーカーの左のポケットに手が伸びていたような気がした。
わたしが何かを察知したのか無意識にポケットのほうに頭を動かしかけたとき、さっと手が引いていく動きを見た気がした。それでぞっとした。