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【地歴日記 #6】 副部長、古代文字ヒエログリフについて語る。

こんにちは!

海城中高地歴研の副部長です。今回ヒエログリフについてまとめました。見ていきましょう!!


THE・古代文字 ヒエログリフ

ヒエログリフとは、古代エジプトで使われていた文字で、紀元前3000年前から紀元400年ぐらい(日本だと縄文時代から古墳時代前期)まで使われていました。

言語の中でも特に古い(最古の言語はメソポタミアで誕生したという説が有力)ものです。

実は古代エジプトで使われていた文字(言語そのものは同じ、漢字・ひらがな・カタカナみたいな感じ)は3種類あります。


①「ヒエログリフ」(遺跡に書かれているやつ)


②「ヒエラティック」(神官文字)(日常生活で使いやすくするために崩した字)

③「デモティック」(民衆文字)(②をもっと崩した字)

(※便宜上この文章ではこの3つを総称して「ヒエログリフ」と表記します)


この画像にでている文字を見るだけでお分かりだと思いますが、アルファベットやひらがな・カタカナとは比べ物にならないほどの膨大な記号が書かれています。

そのため古代エジプトで読み書きができる人は、長期間の訓練を受けた選ばれし者しかいませんでした(ちなみにこの選抜は一般公募したらしい)。


ヒエログリフ消滅

紀元前332年にアレクサンドロス大王によってエジプトが占領されたことによって、ギリシア人がエジプトに定住するようになりました。

そうすると段々とギリシア語とエジプト語が混ざっていき「コプト語」という言語になりました。コプト語に取って代わられたヒエログリフは徐々に消滅の道を歩き始めました。

また、エジプトでキリスト教が広まるにつれて、「異教徒の文化だ!」と言って、ヒエログリフの文書や、碑文をかたっぱしから壊しまくったこともあり、一度ヒエログリフは完全に消滅してしまいました。


ヒエログリフ復活

消滅から1000年ほど経ち15世紀前半から(日本だと応仁の乱あたり)、ヨーロッパでヒエログリフブームが巻き起こります。

理由としては、古代の歴史家のエジプトに関する本が多数発見されたり、エジプトに旅行する人が増え、ヒエログリフが記された碑文が多数持ち帰られたりしたことが挙げられます。その中でも最大の理由が、14~16世紀の文化であるルネサンス(昔の文化を復活させよう!!という文化)の影響を受けたというものでしょう。


しかし、この時代のヒエログリフの解釈は、現代から見たらトンチンカンなものでした。

イエズス会(ザビエルが入ってたやつ)のキルヒャーという学者が発表した辞書では、数文字のヒエログリフの意味を「聖なるオシリスの恵みは、聖なる儀式と一団の霊によって招来されるべきものであり、その目的はナイルの恵みを得ることにある」と説明しています(実際は「アプリエス」という人名)。

なぜ、このような勘違いがうまれてしまうのか。それは当時のヒエログリフの理解が大前提から間違っていたからです。



ヒエログリフという言語

ヨーロッパでは長い間、ヒエログリフを「表意文字」だと勘違いしていたのです。

文字には、「表意文字」と「表音文字」があります。ひらがなと漢字を例にとって説明しましょう。




「ち」と書いたときにこの「ち」には固有の意味はありません。この文字をポンと見せられても、意味はわかりません。しかし、日本語がわかる人にはこれを「chi」と発音することができます。つまりこの「ち」という文字は意味では無く「chi」という音を表しています。このような文字を「表音文字」と言います。




対してこの「血」という文字は、この「血」に固有の意味があります。「血」という文字を単体で表示するだけで日本語がわかる人には「血液」という意味だと理解することができます。
ですが「それはちがう」を「それは血がう」と書いた時、意味が通じなくなりますね。つまり「血」は「chi」という音を表すのでは無く、「血液」という意味を表す文字だとわかります。このような文字を「表意文字」と言います。(ちなみに漢字は現在確認されている文字の中で唯一の表意文字です)


𓅓

例えばこのヒエログリフは「フクロウ」をもとにした文字ですがこれは「フクロウ」では無く「m」を表す文字です。このようにヒエログリフは一見、表意文字のように見えますが、実は表音文字なのです。(ただし一部表意文字として使うことのあるヒエログリフも確認されています)



ロゼッタストーン

 そんなこんなで、全く解読の見通しがたたなかったヒエログリフでしたが、1799年から状況がひっくり返る大発見がありました。「ロゼッタストーン」と呼ばれる石碑で、上から順番に同じ意味の文章がヒエログリフ・デモティック・ギリシャ文字で書かれています。    

この石の何がすごいのかというと、一番下のギリシャ語は簡単に読めます。それと意味が同じ文章が上二つに記されているということは、この石はヒエログリフとギリシャ語の対応表になります。するとヒエログリフが簡単に読めてしまうのです。

しかし、障害は多数ありました。まず画像を見てもらえばわかるようにロゼッタストーンは大きく損傷しています。一番下(ギリシャ語)の部分は、左下の部分が削れており、真ん中(デモティック)は右端が損傷、一番上(ヒエログリフ)に至っては全体の半分が完全に無くなっています。

もう一つの理由は、先ほども述べたヒエログリフを「表意文字」だと勘違いしていたことです。キルヒャーの辞書の影響は大きくて、ヒエログリフが解読される寸前まであの解釈が正しいと思われていました。



ロゼッタストーンは、ナポレオンがエジプトを侵略した時に、軍隊と一緒に歴史家・科学者などの知識人を送り込んで、エジプトを調査させた時に発見されました。
学者達はすぐさまフランス本土に持ち帰ろうとしましたが、残念なことに、進撃するイギリス軍によってフランス軍が駆逐されそうになったので、フランスの学者はロゼッタストーンをアレクサンドリア(エジプトの都市)に移送しました。

しかし、フランスが降伏すると、イギリスはこの貴重な史料を本国の博物館(大英博物館です)に送り、現在でも展示されています。



解読されたヒエログリフ

 ロゼッタストーンを得ても人類はまだ、ヒエログリフを読むことはできませんでした。しかし、この古代文字は2人の天才によって謎を解かれます。

1人目は、トーマス・ヤング。イギリスが生んだ天才で、10ヶ国語を操り、眼球に関する大発見(焦点を合わしているのは水晶体であることなど)をした後、目繋がりで光学の研究を始めて一連の発見をし、ピアノの調律法である「ヤング音律」を発表しました。


そんな彼が「暇つぶし」で始めたのがヒエログリフ解読です。彼はロゼッタストーンのループで囲まれた部分に注目し、その内容を「プトレマイオス」という人名だと予想し、人名ならギリシャ語でもエジプト語でも発音が同じはずだ、という理論のもとにヒエログリフの音価を調べました。

そして彼が調べたヒエログリフの約半分に正しい音価を与えました。やったこと自体は「プトレマイオス」というヒエログリフを解読しただけですが、はじめて「ヒエログリフに音をあてる」という解法にたどり着きました。しかしヤングはここで解読をやめてしまいました。
彼もまた「表意文字」だと考えており、自分の発見したことは「外国の名前のみ表音文字として用いる」と解釈しました。



ヤングの功績を引き継いだのがフランスのヒエログリフ狂、ジャン=フランソワ・シャンポリオンです。彼は10歳の頃にヒエログリフに取り憑かれ、その人生をヒエログリフ解読に捧げる決意をしました。

エジプトに関する論文を発表、17歳で教授になりヒエログリフ解読のために10カ国後をマスターし(天才は言語を覚えたがるみたいです)コプト語(古代ギリシャ語とエジプト語が混じったやつ)も覚えました。彼はヤングが解読したヒエログリフを用いて、ヤングと同じく「人名・地名はギリシャ語でもエジプト語でも読み方が同じ」というのを利用してさらに数個のヒエログリフを解読しました。


そしてシャンポリオンは、外国の名前が登場してこない、古い文章を手に入れ、先ほどの「外国の名前のみ表音文字として用いる」という理論を覆しました。シャンポリオンはその文章中に出てくる

「𓇳-𓄠-𓋿-𓋿」

というファラオ(エジプトの王様)の名前に注目しました。これまでの解読で最後の「𓋿𓋿」がsを表すことは知っていたのでこれは「?-?-s -s」と読むと分かりました。


ここで天才は閃きました。最初の「𓇳」は表音文字では無く、太陽の絵で「太陽」という意味を表す「表意文字」ではないかと。ならば、コプト語の太陽を表す「ra」と読むのではないかと。するとこの人名は「ra-?-s -s」

だとわかり、これに当てはまる名前のファラオは「ラムセス」しかない!となりました。

事実だけ見るならば、彼は「𓇳」=「ra」「𓄠」=「m」というヒエログリフを発見しただけですが、この発見でヒエログリフの様々な法則がわかりました


① ヒエログリフは表音文字であるということ

   やっと正解にたどり着きました。

② しかし、たまに表意文字も使用される

   「太陽」という言葉はそのまま太陽の絵(さっきの「𓇳」)で表されます

③ 古代エジプト語はコプト語と関係していること

     実際に他のヒエログリフでも確認されました

④ たまに母音を省略する

     「s-s」と書いて「セス」と読む理由です。



これらの大発見により、シャンポリオン自身も、彼の死後もヒエログリフは解読されていき、今ではほぼ全てのヒエログリフが読める状態となっています。

このことによって、古代エジプトが残したファラオの歴史がわかるようになり、言語学でも、3000年間で、1つの言語がいかに進化したのかを知れるようになりました。



ということで今回は以上です。

最後まで見てくださりありがとうございました。




今回の参考文献

・サイモン・シン『暗号解読』新潮社2007
他にも「エニグマ」や「線文字b」などが載っています!
・C.Hゴードン『古代文字の謎』社会思想社1979
古代文字ならなんでもござれ!


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