ドラマ『幸色のワンルーム』は放送中止されるべきなのか、ネットでいちばんわかりやすく解説してみた。
ある誘拐犯罪を描いたマンガ『幸色のワンルーム』ドラマ化について批判が湧き上がっているので、ぼくの意見をなるべくわかりやすくQ&Aの形式で記してみました。ご参考になれば幸いです。
・『幸色のワンルーム』って犯罪を美化した内容なんでしょ? 大丈夫?
犯罪者を格好よく、美しく描き、「犯罪を美化した」と受け取れるフィクションはいくらでもあります。『ルパン三世』とか『DEATH NOTE』などが有名です。
最近では是枝監督の『万引き家族』も話題になっています。『幸色のワンルーム』を否定するなら、これらの作品を否定しなければならないのではないでしょうか。
実質的に犯罪を扱った創作はほとんど不可能になるかと思います。
たとえば、いじめは自殺者も出している深刻な犯罪ですが、『ドラえもん』はジャイアンとのび太を仲良く描くことによって、ジャイアンによる暴力を美化しているということはできるでしょう。
それでは、『ドラえもん』の放送を禁止するべきでしょうか?
・『幸色のワンルーム』から影響を受けて犯罪者が増えるんじゃないの?
そういった事実を示すデータは何もありません。『ルパン三世 カリオストロの城』も、泥棒が少女をさらって救いだす話ですが、寡聞にしてかの作品の影響を受けて誘拐犯が増えたとは聞き及びません。
・でも、女子中学生や高校生は影響を受けて誘拐にあこがれるんじゃないの?
創作のなかの誘拐にあこがれることと、現実に誘拐されたいと思うことは別問題です。
仮に現実に誘拐されたいと思う子供が出現するとしても、それは作品ではなく、そういう現実と創作の区別がつかない夢見がちな子供のほうを何とかしなければならないでしょう。
「現実とマンガは違う」、「大人の親切めかした言葉にだまされてはならない」といった教育が必要だと感じます。そうしなければ、たとえ誘拐を描いた作品がなくても性犯罪や誘拐犯罪の被害に遭う子供は出現するでしょう。
・でも、『幸色のワンルーム』って朝霞市女子中学生監禁事件の直後にマンガ化した作品なんでしょ? ひどい!
「直後」というのは誤解です。警察が同事件の犯人を逮捕したのが2014年3月31日。『幸色のワンルーム』の原形となるマンガがネットに発表されたのが同年9月20日。約半年のタイムラグがあります。
・だけど、『幸色のワンルーム』って事件から影響を受けたんでしょ? やっぱりひどい!
作者は関連を否定しています。しかし、もちろん、だからといって影響がなかったといい切ることはできません。ぼく個人はおそらく影響はあっただろうと思っています。
というか、発表時期を考えると、事件から直接影響を受けたというより、「犯人と被害者は恋愛関係にあった」などと妄想する二次加害言説からアイディアを得た可能性のほうが高いとは言えるでしょう。確証がない憶測ではありますが。
・やっぱり影響を受けているんじゃん! ドラマを放送中止にしなくちゃ!
まあまあ、落ち着いて考えてみてください。この場合、重要なのは、「作品のなかに事件の被害者をモデルにしたとわかる描写があるかどうか」です。
はっきりとそれがあり、なおかつ事件をあまりにも実際と違うように描いていたならたしかに批判は当然でしょう。ぼくもそれは人権侵害にあたる可能性があると考えます。
しかし、「影響を受けた(だろうと思われる)」とはいっても、それは物語を作る際の最初のインスピレーションを事件に関連する幾多の妄想から得たであろうというだけのことであって、作品のなかにモデルを特定できる箇所はありません。
「この作品は被害者の人権を侵害している」と語る人たちも、具体的にどこがどう事件を連想させるのか、指摘することはできないようです。
当然です。この物語は「少女の誘拐事件」という一点を除いて、特定の事件とは似ていないのですから。
・そうはいっても、被害者少女への二次加害が増える可能性はあるでしょ?
可能性はありますね。しかし、それらは創作物の内容を本気で信じ込んで、二次加害言説をたれ流す愚か者を責めるべきです。
たとえば『相棒』のドラマを見て「警察組織は腐敗している!」といいだす愚か者がいるとして、それは『相棒』の責任で、『相棒』を放送禁止にするべきでしょうか。
どう考えても違うでしょう。悪いのは現実と創作の区別がつかないその愚か者です。そういう人をこそ批判するべきだと思います。
・とはいえ、犯人や二次加害者と同種の妄想を楽しんだらそういう人たちと同罪だよね?
この記事のご意見ですね。
http://rainbowflag.hatenablog.com/entry/2018/06/03/204703
ぼくはそうは思いません。なぜなら、『幸色のワンルーム』の読者はフィクションとして割り切って作品を楽しんでいるに過ぎないからです。
「フィクションなのだから何でも免罪される」ということではありませんよ。フィクションであっても特定個人の人権を侵害したら責任を追及されるべきです。
しかし、作品のなかにそのような個所がなく、ただ、「どこか二次加害者の妄想と似ている」、「そこから着想を得たと思しい」というだけのことなら、それは人権侵害ではありません。
いじめ加害者であるジャイアンと被害者であるのび太が仲良くしている『ドラえもん』を楽しんで読んだら、現実のいじめ加害者や、いじめ肯定論者と同罪ということになるでしょうか。ぼくはならないと思います。
そのような作品はつまらない、くだらない、気持ち悪い、と感じる人はいるでしょうが、それは個人の評価なので自由です。しかし、「誘拐された少女が見たら傷つくはずだ」などといういい方はおかしいと思います。
彼女がじっさいにそう発言したわけではなく、また、「一切だれも傷つけない」創作物、あるいは情報などそもそも存在しないでしょうから。
・でも、こんな設定の作品、気持ち悪いし、とにかく気に入らない!
それは個人の自由です。作品の内容を批判することは、それが正当であるかどうかはともかく言論の自由の範疇ですから。
しかし、作品の発表を止めようとすることはそれとはまったく異なる行為でしょう。ぜひ、冷静に考えて判断されることをお奨めします。
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