本当の”好き”はどこにあるのか
「本当は漫画を描くことが好きじゃないんじゃないか」
漫画を描き始めて10年目の秋、その言葉が頭を駆け巡り、悩み苦しんでいた。
2021年は、ほとんど漫画を描いていなかった。その事実に目を向けてしまった瞬間から、私の頭は混沌と化した。
仮に「漫画を描くことは好きじゃない」と自分の中で認めてしまえば、この10年間が無駄になってしまう。そんな恐怖を抱きながら、自分と向き合っていた。
描くことは好きじゃないということを認めたくない一心で、幼少の頃からの記憶と感情を遡ったのが、9ヶ月ほど前のこと。
今は、漫画を描くのが楽しくてたまらない。
時間があれば描いている。疲れは明日への氣力を奪うことなく、充実感を与えてくれる。これが夢中というやつだろう。
悩んでいた時期が嘘のようだ。
本当に好きなことへ取り組んでいるときのエネルギーの強さを、漫画を描き始めて10年を過ぎた今、ようやく実感している。
ここまでの好きを実感できるようになったのは、自分の”好き”がどこにあるのかを、見つけることができたからだ。
漫画を描くことを完全に楽しめなくなった昨年、
本当に漫画を描くことを楽しんでいた時期はあったのか、あったとしたら、それはどんな時だったのか、
記憶を遡りに遡った。
遡ってわかったのが、本当に漫画を描くことを楽しんでいた時期は、13歳と26歳の頃ということ。
初めてまともな漫画を描いたのが13歳の頃だった。当時はただただ無邪氣に、自分の描きたいものを描いていた。
以降は徐々に漫画を描かなくなっていったが、
20歳の頃に初めて出版社に漫画を持ち込み、編集の方から名刺をもらったことをきっかけに、本格的に漫画家を志した。
26歳まで出版社に通い、思うような結果を残せず、
漫画家の夢を諦めようか悩んでいた時期に全身全霊で漫画を1作仕上げ、
27歳になるとSNSで漫画を発信する方向に路線を変更した。
そして30歳の秋には、冒頭の言葉に悩み苦しむこととなる。
記憶を遡って感じたことは、描くことを楽しめなくなっていった原因は、”自分以外の何かのために描いていたから”ということ。
出版社に通っていたときも、SNSで漫画を発信していたときも、本当に描きたいものは描いていなかった。
13歳の頃は無邪氣に表現を楽しんでいたのに対し、
出版社に通っていた21〜25歳の頃は、編集部が開催する漫画コンテストの賞を取るために漫画を描いていた。
また、SNSで漫画を発信していた27〜29歳の頃は、いいねやリツイートを獲得するために漫画を描いていた。
今を除いて最も描くことを楽しんでいたのが26歳の頃だ。
出版社に通っても結果が出せず、まだSNSで活動するという選択肢も自分の中になく、夢を諦めようか悩んでいた時期だ。
そんな時期に描いた漫画は、漫画賞を受賞することにもそこまでこだわっておらず、数字を取るということもまだ知らず、
自分の心に刺さる、自分が読みたい漫画を、夢中になって描いていた。
振り返ればその頃が、今を除いて漫画を描くことをいちばん楽しんでいた時期だった。
しかしながら当時の自分は、今ほど精神が育まれておらず、心の声に耳を傾けることをしていなかった。
漫画を描くことの中でも、”自分が読みたい漫画を描くことが好き”ということに、氣がつくことができなかった。
一通り経験した今は実感できる。
”漫画を描くことが好き”の中に、無数の選択肢が混在していることを。
本当に好きなことは、好きなことを通じたいくつかの経験をしないとわからないものだ。
近しい話で先日、”Voicyで唯一聴いてて役に立たないチャンネル”を自称している ろりラジ のパーソナリティ、しんたろーたりーさんが、「好きなことは動詞で語れよ!」というタイトルで配信をしていた。
好きなことは、名詞ではなく動詞で考える。
例えば、「サッカーが好き」と考えるのではなく、「サッカーでパスを出すのが好き」と考える。そう考えることで、好きなことを細分化できる。
と。
彼も、しゃべることは得意だが、人前に出てしゃべるのはそんなに得意ではないらしい。
首がもげるほど頷けた。
私は、自分が読みたい漫画を描いていくことにした。
「そんなんで漫画家になれるのか」というような、批判の声もいただいた。
おっしゃる通り。だがまぁ、仕方がない。他のことを描き続けると心が枯れてしまうのだから。
人生でいちばん描くこと楽しめている今は、賞や数字を獲得することは少しも考えたくはない。
いずれ壁にはぶち当たるだろうが、その辺りのバランスは描きながら見つけていこうと思う。
好きなことでこんなにも苦しむことになるとは、13歳の頃の私は思ってもみないだろう。まして、20歳の頃の自分も、26歳の頃の自分もそんなことを思ってはいない。
この結論に至るまで、本格的に漫画を描き始めてから10年、人生ベースでいうと30年かかっている。我ながらなかなかの鈍感力だ。
でも、遅いということはないだろう。
いつだって氣づいてからがスタートだ。
31歳を迎える今年、本当の好きを見つけることができた今年、漫画描き1年目のつもりで、新しいスタートを切っていく。
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