不倫にまつわるエトセトラ②
〜SIDE B〜
火遊びの代償は高くついた
ほんの軽い気持ちだった。
妻が妊娠し僕にキツく当たるようになった。もちろん妻の事を充分に労っていた。よく行っていた飲み会も断り毎日早く帰っていた。
今日くらいストレスを発散したい。そんな風に思って妻がご両親と出産に向けた準備品を買いに行くため実家に帰ったタイミングで僕は久々に行きつけのBARに行ったのだ。
このBARは時々飲む時に使っていた。客も少ないしゆっくり一人で飲むにはちょうどいい落ち着いた店だ。
カウンターには先客がいたが僕は離れたところに座ってビールとスモークチーズを頼む。
しばらくして酔いが回ってきた。一人で飲みたいなんて思っていたくせに酔いが回った僕は無性に誰かと話したい気分になった。マスターに声をかけてカウンターの先客に1杯お酒をご馳走する。
話し相手になってくれれば誰でもよかったのだが驚いたことにカウンターの先客は美人だ。正直妻よりも大人っぽくてスタイルもいい。声をかけ少し僕の話を聞いてもらうことにする。
女性は酔いが回っていたのか座った目で僕の話を聞いていた。口数は少なかった。僕の身の上話を一通り聞いてもらう。もちろん妻が妊娠していて最近冷たいなんて愚痴も2度と会う事はないだろうと思い話してしまった。淡々と聞いていた彼女が言葉を発する。
「へぇ…奥さん妊娠中なんだ。」
そう言った後彼女は耳元で僕にあるお願いを囁いた。美しい彼女にあっという間に虜になってしまった僕はそのお願いを聞くことにした。
それからは外回り中に携帯が鳴ると彼女の家に行くのが定番になっていた。バレるかもしれないという不安がまた僕を興奮させる。何より妻に相手にされていなかった僕は彼女に惚れていた。
今日も本能のままに彼女を貪る…そんな時だった。
彼女の寝室のドアが空いた。男が鬼の形相で立っている。
服を着せられた後リビングに僕は呼び出された。
「終わった…」
そう思った僕は旦那さんへ精一杯の謝罪をする。こうなった以上今できる誠意を見せるしかなかった。言い訳は絶対に通用しない。旦那さんは淡々としていた。僕に後日連絡すると伝え僕は家に帰された。
家に帰ると妻に
「お帰り。今日仕事忙しかったの?なんか疲れてない?」
と言われた。
「あぁ。ちょっと得意先でトラブルがあって…」
とだけ言って食欲がない事を伝えてシャワーを浴び布団に入る。当然だが一睡も出来ずに朝を迎えた。
翌日、妻が家にいるため仕事を休むわけにもいかず僕は会社に行った。眠気は全く無かったが身体が重い。ATMに行って自分の独身時代の貯金を確認する。恐らくこの金額では足りないだろうと思いながら連絡を待つしか無かった。
しばらく経ってから見覚えのない番号から連絡が来る。
相手は大方予想していたがやはり彼女の旦那だった。
もう一度謝罪をする。いよいよ慰謝料の連絡だ。そう考えていた。ところが要求は異なる物だった。
今日は妻のために急いで帰ったほうがいいと言う要求。嫌な予感がして僕は上司に妻の体調が良くないと伝えて急いで通勤用の車に乗る。エンジンをかけると同時に妻に電話をかける。出ない。
とにかく僕は急いで走り出し妻に電話をかけ続けた。3回ほどかけた頃だろうか。ようやく妻から折り返しが入る。
「もしもし?どうしたの?」
良かった…妻は無事だ。
「いや、今日早く帰れることになって今帰ってるところなんだ。急に帰ったら悪いと思って。」
「え?そうなの?どうしよう何も用意してないんだけど」
「いや、ごめんごめん。オレが急に帰るなんて言ったから。あ、そうそう。今日家に何か届かなかった?」
「いや、何も届いてないけど。なんか頼んだの?」
良かった。僕の思い過ごしだ。
「いや、ちょっとね。もし何か届いても置き配にしておいてくれるかな?」
「わかった。あと何分くらいで着きそう?」
「うーん。夕方で混んでるからなぁ30分くらいかな」
「わかった。待ってる」
一先ず安心して車を飛ばす。車は高速に入っていた。スピードメーターを確認した時に車のパネルにアラートが出ていることに気づく。今まで電話に夢中で気づかなかった。なんのアラートかわからなかった。考えている時間はない。僕は家路を急ぐ。
いよいよ最寄りインターの出口に入ろうかと言う時にアラートの内容をようやく理解する。ブレーキが故障して効かないのだ。
何度もふむがスピードは一向に下がらない。とにかくアクセルを離しギアを下げる。車はゆっくりと減速していったが一気にはスピードを抑えきれず前の車に追突しそうになる。慌ててハンドルを切った僕の車はガードレールに衝突した。
もの凄い音と共にエアバッグが飛び出す。強烈な痛みが肋骨に来る。首や背中も痛い…痛みを堪えて車を降りる。事故を目撃した運転手が心配そうに駆け寄ってくる。僕は救急車の連絡をお願いした。そうか。これが旦那さんの報復だったんだ。もしかすると殺すつもりだったのかもしれない。良かった。妻と子供を残してまだ死ねない…
そう思った矢先鼓膜が破れんばかりの大きな音と共に僕の意識は無くなった
火遊びの代償は高くつく
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