不倫にまつわるエトセトラ⑦

〜SIDE M〜

「失礼ですがお名前は?」

「田中誠です。」

「ご職業は?」

「バーテンダーです。見ての通り。」

店に私服の警察官が2人やってきた。
どうやら昨日近所で起こった爆破事件を調べているらしい。容姿の整った男の写真を見せられる。

「この方に見覚えは?」

「昔はよく来てました。最近はあまり見なくなりましたね」

じゃあこの人は?
今度は女性の写真だ。

「この人…今見せた人の奥さんですよね?最近は見ないですけど時々旦那さんとうちの店に来てましたよ」

「ほかに誰かと来てませんでした?」

先輩らしき刑事が鋭い目つきで聞いてくる

「あーそういえば1度だけ…カウンターで他の男に声をかけられてました」

「他の男…もしかしてこの人?」

刑事はもう1人の男の写真を見せる

「あー。この人です。うちの店には時々来てました。でもこの人も…最近きたのはいつだったかなぁ」

刑事2人は目を合わせた。

「なるほど。ありがとうございます。」

どうやら納得した様子だった。

あと3人ほど確認をお願いできますか?と刑事に頼まれる。面倒になって営業時間中なので…と断ろうと思ったが客はいなかった。
まぁ…いつものことなのだが。

1人目は帽子をかぶった男の写真。

2人目は50代くらいだろうか…貫禄のある男性の写真

3人目は長髪の男の写真。怖い顔だ。

「あー…この人とこの人。最近見ましたよ」

僕は2人の男を指差す。

刑事は食い入るように聞く

「なにか話をしてませんでしたか?」

僕は彼らの会話を思い出していた…


僕はBARを経営している。祖父が所持していた物件を少しだけ改装してオープンさせた。テナントが今まで全然入らなかったのも頷ける。
駅からも少し離れておりBARに向く物件ではなかった。

僕は昼間はFXなどで生計を立てている。祖父が持っていたマンションに住んでいるので生活には困ってない。このBARは単なる趣味の一環で始めた。
単なる趣味なので利益はどうでもよかった。駅から離れていることで不思議な客が良く来る。この趣味をしてて1番楽しいのはそんな少し変わった人間模様が見れるところだ。

少し前にいた突然カウンターの男客に絡み同じ話を延々とする泥酔女や

冴えない男に女が突然耳打ちしたかと思ったら2人で腕を組んで帰って行ったりと

とにかく変わった客が来ることが多かった。

この間は男2人組の客が来た。
この手の店に男2人で来るのは非常に珍しい。同性愛者かとも疑ったがそれにしては歳が離れ過ぎている。

飲み物を置いた僕はこの不思議な客が気になって仕事をするふりをして耳を傾けていた。

「そうですか。やはり先生のところにも」

「ああ…まさかボイスレコーダーを持ってたなんて…」

なんの話だろうか。先生…もしかして作家と編集者か何かだろうか。

「今どの程度まで進んでます?」

若い方が話す。

「言われた通りのものはもうできてるんだ。」

年配の男はそう答えていた。やはり小説でも書いているのだろう。

「先生…これ僕らまずいですよね?」

「ああ、非常にまずい」

どうやらこの二人は何かまずい状況にあるようだ。小説でまずい状況…なんだろうかピンとこない。

「このままいうことを聞いても奴の思う壺ですよ。あの野郎…」

「確かにそうだ。でも…どうする?」

どうやら話し合いの答えがなかなか出ないらしい。思う壺…

「実はとある提案が…」

若い男が年配の方に耳打ちする

「え?でもそんなことをしたら…」

「物は僕が届けます。先生は…家には…」

「わ、わかった。」

所々聞き取れなかったがどうやら話はまとまったようだ。

「じゃあ。先生。完成したら連絡を」

そう言って男たちは帰って行った。
これは僕の推理だが年配な方は有名な作家。もう1人の男は編集者。もしかしてゴーストライターか何かがいるんじゃなかろうか。思った以上に作品が売れて真相をバラすと脅されているとか?

やっぱり変わった客がよく来る。本当にこの仕事はやめられない。なんて考えていた。


「田中さん?」
刑事に話しかけられて我に帰る。

「というような会話をしてましたよ。なんか有名な作家さんなんでしょ?編集者っぽい人と打ち合わせをしてましたけど。」

刑事2人は目を合わせる。

「マスターありがとう。今度飲みに来るよ。ここは落ち着いてていい店だ」

納得した様子でお礼を言って彼らは店を出た。何か今の会話に重要なヒントがあったのだろうか…僕にはわからなかった。ちょうどよく客が入ってきたため僕は接客に戻った。

数日後、爆破事件の容疑者が逮捕されたとネットニュースで流れた。ひとしきり読んだ。容疑者の写真はうちの店に来たことのある人だった。それで刑事さんが来たのか…

…僕はまた為替の動きに目を移し仕事に戻った。


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