不倫にまつわるエトセトラ③
〜SIDE A〜
夕方のニュースでは高速の大きな事故と郊外の住宅の火災のニュースが流れている。僕はそれを見ながら笑い転げていた。
こんなにうまくいくとは。出来過ぎだ。僕は持っている。そう思うと笑いが止まらなかった。
大切な家族を失いもう何も怖いものは無かった。いずれ警察が僕を逮捕しに来るだろう。もういいんだ。僕の人生なんて終わったようなもんなんだから。
こうなることも予想して僕は会社を辞めた。重役は皆驚いていたが大丈夫だろう。
妻の異変には気づいていた。仕事が忙しくなかなか帰れなかったが帰ってきてもスマホで何かしている事が多くなりこっそり覗いたタンスには見たこともない派手な下着がたくさん入っていた。
運良くお金を手に入れてしまった僕はお金で解決する事をやめ僕の普通の生活を壊した奴の幸せを壊す計画を練っていた。何ども言うが僕は不倫が大嫌いだった。
本当に僕は持っている。いじめられている時もこっそり携帯のボイスメモの録音をしていた。先生に聞かせるためだ。
先生は聞いてくれたが「盗聴なんてしてはいけない」と的外れな説教をしてきた。いじめられる側にも原因があるとまでのたまう始末。ボイスメモのスイッチを押しておいて良かった。
ガソリンスタンドの社員は僕の身体にご丁寧にいじめの痕跡を残してくれた。
今の世の中金さえあればほとんどの事は可能だ。興信所を使って僕をいじめてきた奴らのその後を調べてもらった。
まずは中学の時のあいつ。少し前に会社をリストラされ今は宅配業者で働いている
そして元担任は化学の先生
ガソリンスタンドの社員はガソリンスタンドをやめ車の整備工をしていた。
話は至って簡単だ。爆弾の作り方なんていうものはインターネットを調べれば簡単に出てくる。材料となる薬品は担任に手配してもらった。
奴の大切な妻が待つ自宅に宅配業者を装った中学の時のあいつが爆弾を届ける。
奴が車で会社に通勤していることも僕は知っていた。車は浮気現場に飛び込んだ時に写真を撮っておいた。
朝、奴が出社し外回りに行ったタイミングで整備工に通勤の車のブレーキを細工してもらった。車の中に衝突などの衝撃で変形すると爆発する爆弾を入れてもらった。
後は僕が奴の携帯に電話をかけて焦って帰らせる。焦ればアラートランプに気づかない可能性が高いと考えた。
別に殺さなくても良かった。奴の車が事故を起こさないかもしれない。宅急便は奥様が不在で玄関に置きっぱなしになるかもしれない。それでも爆発があれば「いつか殺されるかもしれない」とここから先長い不安に悩まされる。それが本当の狙いだった。爆発物を爆発させるくらいであれば逮捕はされるかもしれないがイタズラで済まされる可能性も高い。それな奴には言ってないもう一つの秘密がある。それを使ってもいい。僕のように不幸になってもらうまで復讐の連鎖は終わらない。
色々な経験をしてようやく普通の人生になりかけた途端このザマだ。こと人生に於いてはとことん持っていないということがわかった。
一息ついて警察がいつ来てもいいようにと僕は自室のテレビを消し身辺整理を始める。
…が、リビングに降りた時に違和感に気づいた。
「あなた。お帰り。」
妻の手には包丁が握られている
「どうやって中に?」
「どうやってって普通に鍵が空いてたわよ?」
そう言って妻は不気味に笑う。
「よせ。やめろ」
妻はゆっくりと近づいてくる。
「そうだ!ちょっと買い忘れがあったからスーパーに行ってくるわ。今日はカレーよ。悪いけどお鍋を見ててくれる?」
そう言って妻は包丁を置き玄関を出る。
キッチンでは圧力鍋がコトコト音を立てていた。
「ふぅー。」と一息ついた。殺されるかと思った。考えすぎだ。
そして冷静になってある事に気づく。そもそも浮気した妻はこの家にずっとのうのうと住んでいたのだ。
腹が立った僕はキッチンの圧力鍋を止めるために近づく。その時だった。
もの凄い音と共に身体中に何か熱いものが飛んでくる。その瞬間僕の世界から音は消え、視界は真っ暗になった。
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