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「裸の大地 第一部 狩りと漂泊」

  遅くなりましたが、探検家・作家の角幡唯介さんの「裸の大地 第一部 狩りと漂泊」(集英社)を読みました。

チベットの未踏地域に単独で挑んだ「空白の五マイル」で注目を浴びてから12年。地球上からはすでに地図上の空白地帯がほぼなくなったことを体で知っている角幡さんの探検は、深い思索の上での行動の連続だ。太陽が昇らない時季の北極に挑んだ「極夜行」は、その中での代表作と言えるだろう。

そして今回は、犬を引き連れての狩りと漂泊。麝香牛や兎などを狩りながらの氷原での行動には、探検には不可欠なはずの「目的地」がない。著者はこの旅で「物の見方が一変した」という。

それはどうやら「到達者」から「狩猟者」への視点の変化によって見えて来たらしい。簡単に極地へ行けない私たちが想像するのは、容易いことではない。しかし、同じ会社でも営業から経理に部署が変われば職場の風景は違って見えて来るはずだ。それが極地においては、比較にならぬほどダイナミックな変化をもたらすということのようだ。

角幡さんは、狩猟をすることによって、「目的地」を目指していた頃の旅では分からなかった「土地との調和」をおぼえるようになったという。

井筒俊彦の「意識と本質」やハイデガーの著作を読み込んで来た角幡さんが行きついた境地は、大地と自己が一体化していく「万里一空」ということなのだろうか。非常に東洋思想的な示唆に富んでいると感じる。

「地理上の空白地帯」がなくなったことは、世界中の探検家が感じているはずのことだ。是非本書は英語版に翻訳して、現代の探検について考える海外の人々にも読んで欲しい。

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