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「ブッダという男ー初期仏典を読みとく」

 ブッダ(釈尊)観が一変する衝撃の一冊を読みました。12月10日に発売された「ブッダという男―初期仏典を読みとく」(清水俊史著、ちくま新書)。

 初期仏典に登場するブッダは、空中浮揚や瞬間移動をしたなど、現代人の感覚では信じがたい神話的記述に満ちた形で描かれています。そういった神話的要素を取り除き、歴史的人物としてのブッダ像を浮き彫りにしていくというのが、中村元博士をはじめとする近年の仏教学者の仕事だったと思います。

 歴史的人物のブッダは、迷信や呪術、さらには業や輪廻を否定。また、階級差別や男女差別を批判した徹底した平和主義者、平等主義者と考えられて来ました。私も中村博士の著書などを読み、そう信じてきました。

 ところが、仏教学者である著者の清水氏は、こういったブッダ像を真っ向から否定。本当のブッダは暴力を肯定し、女性を蔑視するなど差別を容認し、階級差別も肯定していた―。

 近年の仏教学は神話的装飾を排除することで、歴史的人物としての実像を描こうとしたはずが、実像からはかけ離れ、現代人が現代人の感覚で描き出した「解釈上のブッダ」像が信じられてしまっているというのです。

 本書を読めば分かると思いますが、膨大な量がある初期仏典を読み解いた上での清水氏の主張には、説得力があり、私がこれまで愛読してきた仏教学者たちの著作を具体的に挙げた上で、批判をしています。

 私は仏教を信仰するというよりも、人生の大きな指針と考えている一人です。現在の価値観を揺さぶられたと言っても大げさではないでしょう。

 かと言って仏教が「ダメな教え」だとは私は考えません。清水氏も著書の中で同趣旨のことを言っていますが、現代的な感覚で、平和と平等を希求する「あるべき仏教」を指針とするのは、間違ったことではないと思います。ただし、それは本来のブッダ、仏教の姿を認識した上であるべきでしょう。

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