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ヒッチハイクしていたら宗教勧誘された話

大学時代、夏に友人と2人で東北をヒッチハイクで周った時のこと。

いつもは30分程度スケッチブックを掲げていれば、誰かしらが拾ってくれていたのだが、その日は台風の影響でバケツをひっくり返したような大雨が降っていた。
雨で視界が悪いことに加え、僕達のいた所は車通りの少ない郊外だった。
これは絶体絶命だな~、なんて話をしていたら、1台の車が僕達の少し先に停車した。
歓喜の雄叫びを上げ車までダッシュし、ありがとうございます!と言いながら車を確認したところ、中年の女性2人組がにこやかに僕たちを受け入れてくれた。
芸能人でいうと、運転手の方は「榊原郁恵」さんを少し劣化させたような、上品で気の良いおばさんという感じ、助手席の方は女芸人の「ゆいP」が少し年を取ったような、豊満でにこやかな感じだ。

聞いたところ、彼女達の目的地と僕達の進行方向は合っていなかったのだが、とにかく市街地まで移動したかったので、乗せてもらうことにした。

雑談をしながら車を走らせること約10分。「体も冷えたでしょう」と郁恵の提案でカフェに行くことになった。
そのカフェでホットコーヒーで体を温め、東北の人は優しいな~なんて思っていると、ゆいPに次の予定を聞かれた。
僕達としてはある程度市街地まで出れたし、これ以上進む必要もなかったので、この辺で解散させてもらうつもりだった。
その旨を伝えると、ゆいPの方から「とてもいい場所がある」と言われた。

何となく怪しい雰囲気を感じ取ったが、助けてもらった恩義があるので話を聞いたところ、彼女達はとある宗教団体の一員だった。(直接そう言われた訳ではないが宗教新聞を目の前に広げられながら説明された)
話の内容はよく覚えていないが、何でもこの世で感じる苦しみは全て仕組まれたもので、教えを信じることで救われるという事だった。
あと近い将来、中国によるジェノサイド侵攻があるとも言っていた。

やばいと思いつつ、「ほお~」とか「へえ~」とか適当な相槌を打っていたところ、郁恵から「そうだ!この後、近くで集まりがあるから来ない?もっと深く勉強できるよ。」とお誘いを受けた。
次に用がないのはバレていたし、優しくされて何だか断りづらかった僕達は、「話を聞くだけなら」と付いていくことになった。

施設はカフェから車で3分くらいの距離にあった。今考えれば彼女達の思惑通りだったのだろう。
施設内は公民館のような普通の作りだったが、普通と違うのはやたらでかい畳の広間がある事と、そこによく分からん銅像が設置されている事と、20名弱の30代~50代の男女が正座している事くらいだった。
そして銅像前にはリーダー格っぽい、和装をした50代くらいの女性がこちらに背を向け鎮座していた。

聞くと、いつもは賑わっているが、読経の前なので皆集中しているとの事。
早く帰してくれないかな~怖いな~と友人と目配せをしていると、郁恵から台本と数珠の様なものを渡された。
何でも、僕達もその読教に参加することになっているらしい。いつの間に。

もうこうなったらやるしかない。僕達も他の人と同じように正座をした。
リーダー格の女性が木魚的なものを叩き、リズムを取り始めた。
それに合わせ、皆がお教を読み上げる。
「始めは意味が分からなくてもいいから、とりあえず皆に合わせて読んで」
と事前に言われていたので、僕達も読経についていく。
時間は15分程度だったが、やたら長く感じた。
最後は何か合図がある訳でなく、いつの間にか終了した。
無事終えられた事に少し安堵し、早く帰してもらおうと思った時に、
リーダー格の女がこちらを振り返り一言放った。





「それでは、◯◯様、▢▢様、ご入信おめでとうございます。」

周りは、少し控えめな、上品な拍手をしていた。
僕と友人はコメントを求められたので、とりあえず「ありがとうございます」「頑張ります」とか言っておいた。(今だにこの回答の正解が分からない)

もちろん僕達は入信したいなんて一言も言っていない。
そもそもさっき知ったばかりで、この団体の事をよく分かっていない。
不思議なことに、驚きや怒りを超えて、ちょっと面白くなっていた。

その後だが、僕達の地元の関西にも団体の支部があるようで、そこに連絡しておくと言われ、その日は無事解散した。
(この施設に着いた時に氏名や住所、電話番号のメモを書かされたが、全部嘘を書いた。身分証の提示を求められたが、ヒッチハイクなので持っていないとか謎の理由で頑なにごまかして良かった。)

後から調べると、まあまあの会員数を誇る宗教団体だったが、こうやって無理やり増やしてるからというのもあるのだろう。

補足として、僕は別に宗教に悪い偏見はないし、当然だが個人の信条の自由がある。だが、無知な人間を強制加入させるのは如何なものかと思う。

まあ無理やりまとめるが、恩義につけ込まれて何かに誘われた時は、断る勇気も必要だという話でした。

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