音ニモマケズ

昨年末に自転車を買った。
一目惚れしたドロップハンドルのミニベロだ。
ミニベロとは小径車と呼ばれるタイヤ直径が20インチ前後のかわいらしい自転車。
巷で流行っているシェアサイクル的な自転車もミニベロと呼べると思う。

この自転車で5年ぶりに自分の足で外に出た。
外に出るのが怖くなってから、時間がかかったような一瞬のような。
今でも怖い。
でも、自転車があれば怖い瞬間も一瞬で過ぎ去る…はずだ。

毎日20kmくらいは走っていると思う。
雨には負けるので雨の日は走らない。

出かけた先の公園でボール遊びをする。
勿論ひとりで。

ヘトヘトになる。
帰ろうとすると当たり前のようにお腹が何かを要求している。

自転車に乗っている時、頭の中では音楽がかかっていて、それに合わせて自分も歌ったりする。
ある日の帰り道、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」をラップ調にして口ずさんでいた。
雨ニモマケズは4歳の頃に暗唱して今でも憶えている。

"一日玄米四号ト、味噌ト、少シノ野菜ヲ食ベ"

質素な食事内容だが、帰り道の自分には致命傷だ。
まさに自己飯テロ。

昔から、美味しそうな場面の音は記憶に残ることが多い。
雨ニモマケズの質素な食事内容も、そんな記憶に重なって空腹時の自分にトドメを刺しにきた。

"此処ニ、疲レタ我在レバ、行ツテ食事ヲ分ケ与ヘ"

なんて都合よくは行かない。
記憶の音をラップで口ずさみ、胃袋がハミングを始めてしまった。

流石の宮沢賢治だって、こんな音には堪えられないだろう。
きっとそうに違いない。

ぼくはあんまり学ばないので、こんなことを今後も繰り返す。
いつかその辺で倒れてるかもしれないので、その時は拾ってあげてください。
お礼に、お腹がハミングしてくれるまで遊びます。
そして、また負ける。

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