「"ゲーム音楽"の完成形の一つ」を「Aleph-0」に見た(1.2万文字弱)


1:初めに

そもそもにして2019年の11月というこの時期に、何故今更3年前のBOFUの優勝曲について書こうとしているのかと聞かれたら―――生憎な事に今の自分はやや苦笑いしか返せそうにない。


ちょっと前から予想はついていた事項がドンピシャで来ていたとはいえ――何処かやるせない気持ちから生じた八つ当たりが、こうして冗長染みた文章を書き始める原因の一つであることは自分自身が理解している。

だが、このタイミングだからこそ、自分が3年と少し前に受けた「これまでのゲーム人生の中での最大級の衝撃」を思考・感情整理も兼ねて明確に記しておこうとも思い直したのだ。

当時の自分もツイッターで延々と呻いていたが、時間を置いた今だからこそ見えてくるものもあるだろうし、何よりも今から1年3月前に「Aleph-0」のロング版が発表されたのもある。

後は最後に幾ら「この時の衝撃は絶対に一生忘れない」と思っていても、願っていても、祈っていても、デジタル媒体と違ってアナログな人間の思いは時と共に消耗され、変化するものだから。


2:ℵ-0

未練たらたらな序文になってしまったが、本題を進めさせてもらおう。

「Aleph-0」はBMSというKONAMI社の「beatmania」の同人クローン音楽ゲームで発表された作品であり、毎年1度行われている一番大規模のBMS大会において最大の得点を確保して優勝した曲だ。

BMSについての事細かな歴史や権利関係などについては今回は割愛させて貰おう。これから自分が話す上において重要な事項はBMSは「beatmania」の"クローンゲーム"であるが、―――KONAMIからの暗黙の了解という名の"お目こぼし"を受けて20年以上もの間インターネットのアンダーグラウンド上で愛され続けているという事だ。

では、この「Aleph-0」が一体どのような作品であるのか。YoutubeにおいてBGA(一般にいうPV)の製作者本人がアップロードした動画がある。こちらを鑑賞して欲しい。ただ、初めにハッキリ言ってしまおう。この作品は決して一般人受けする曲調でも映像でもない。

そもそもこの作品のテーマ自体が特殊なものだ。以下が最初に発表されたページであり、ここのコメントのところに短く記されてある通りだ。



"音の無い世界の音楽"



一見ごく僅かな語句の中で矛盾しているようにもみえるが、自分は断言したい。この作品は「音の無い世界の音楽」を表現しきっている、と。

では、それはどのようになのか……と、更に説明する前にもう一つ言わせてほしい。先ほど挙げたBGAでは「Aleph-0」は完成されてない。実に歯が浮いた言い回しになるが、是非「Aleph-0」という作品の真の姿の一端を見て頂きたい。

音楽ゲームを語るにおいては欠かせない譜面、画面配置,エフェクト。これ等の音楽ゲームのUIをまるまる演出として内包し、悍ましいまでの没入感作り上げているのだ。


開幕から事細かに変化していくBPM表記。

曲が新たな展開に一瞬だけ停止した際に事細かに変化していく小節線。


極めつけは曲・BGA・譜面―――これらが三位一体となって恐ろしいまでに精密な同期を魅せる。


例えば(この譜面はアナザー譜面であるが)1:46前後で曲がブレイクした際に、コンボが繋がったままの状態であればコンボ数は999だ。ノート数は3桁の上限で数秒停止し、数字とフラクタル図形のみの異次元染みた空間の中に入っていくと同時に4桁の世界へと没入していく。

その他にも最後のノートは曲とBGAの最後の盛り上がりに合わせるかのようにゆっくりと降ってき、綺麗に押すと同時に曲名と製作者の文字がクローズアップされた後にフェードアウトしていく。


「Aleph-0」は実際に譜面をプレイすることで、この世界を体感できると同時に一つの作品として完成すると思っている。


2-1:製作過程

同梱されている公式譜面は難易度毎に4種類+1種類存在するが、どれも手の入り組んでいる譜面だ。以下のページは先ほどの動画で使用されているアナザー譜面であるが、一目見ただけで気の遠くなるような作業が行われていることは感覚的にわかるだろう。

特に序盤や終盤での目まぐるしく変化するBPM表記はBMSプレイヤーに存在しているバグを「わざと」用いていられている。この手段、間違いなく商業の音ゲーでは到底できる訳がない。商業ではなく、同人だからこそできる技だ。


それに何よりも一番恐ろしいことはこの作品が特殊な工程で作られた事だ。

一般的にムービーorジャケットが付くタイプの音楽ゲームの曲は

1、(商業ならば)各運営からのオーダー

2、曲の作成

3、ジャケット・BGA(ムービー)の作成

4、譜面の作成(3と並行作成の場合も多い)

というフローチャートで行われている。無論、途中で変更されたり3と4が並行して行われたり、曲が完成されてもどんどんブラッシュアップされて若干変更されていったり等はあるが、大まかにはこういう手順を踏まえている。

例えば、ここにAleph-0と同大会で3位に入賞した「CO5M1C R4ILR0AD」という作品がある。

こちらの作品のBGAを作成をしたShuto氏によるBGAメイキングが公開されている。「どういう手順で音楽ゲームの映像作品が仕上がっていくのか」「単にどうやって映像が作られていくのか」等を知りたい方に興味深い内容となっているので是非ともご覧になって頂きたい。

さて、話が戻るが一般的には上のように作成されていく。時折、ジャケットやムービーが出来上がってから曲が作成されることもあるが、こういう場合は何かしらのイベントテイストになっていることが多い。Beatmania ⅡDXでは11作目のREDのCORE ARENAというイベントでBGA(ムービー)⇒曲という手順で4作品が作られた。

では、今回のAleph-0はどうなのかというと、

1、曲の作成

2、譜面の作成

3、作られた譜面を渡した上でBGAの依頼

という形で行われている。そう、譜面が作成されてからBGAは作られた。

ムービーの展開に合わせて譜面に要素をされることは汎用的な手法となっているが、譜面全体そのものをムービーと同期させる製作手段はあまりにも空前絶後だ。少なくとも自分はこのケース以外では知らない。

作曲者のLeaFさんがこの曲を作成するにあたり、過去に何度も何度も共にBMS作品を作り上げ、曲の一番の理解者とも述べているBGA作家のOptieさんにBGAの作成を依頼したのは当然の事だろう。

「先に譜面が作成されている」

「『不可能』を表現して欲しい」

いや、もしかしたらOptieさん以外に上記のオーダーを誰も頼めないという前提条件の下から作り始めたのかもしれない。そんなオーダーを頼めるのは1人だけだと、そう思って作られたのかもしれない。


事実、数学の集合論において無限集合を意味する単語が題名に付けられている曲に対し、Optieさんは「フラクタル図形とそれを構成する数式」を大きく取り上げた。

LeaFさんは大会で寄せられた感想の返答で「何も意味を持たない、何も想像できない、何一つ連想させない、そんな曲と映像を目指しました。」と述べている。また、テーマの一つは「ゼロと無限」であるとも述べていた。

ゼロと無限。一つの極で収縮するか極限へ発散するか。この相反する2要素は自然科学の寸法では表裏一体として取り扱われる内容である。


このテーマに対し、フラクタル図形をモチーフとして取り上げられたのは、Optieさんが自然科学やプログラムへの理解・興味も有していたからだろう。

フラクタル図形は、図形の1要素が図形全体と相似関係になっているものだ。幾らでも進むことができる反面、幾ら進んでも前に見える景色は一向に変化しない。Aleph-0では、徐々にBGMが上がっていく大変印象深いところである。

このような数学の専門用語に対し、同じように数学で用いられる概念を持ち込んだのは間違いなく100点満点の解答に他ならない。


2-2:ジャンル名

題名に触れ直したところから、ジャンル名やテーマの主題に移ろう。Aleph-0という曲調自体はAmbient系のハードコアだ。かといってゲーム内で表示されるジャンル名で、必ずしもハードコアとも明記しないのが””音ゲー””という特殊な界隈である。

Ryu☆氏やkors_k氏のように「beatmania」を通じてクラブミュージックやダンスミュージックを知ってもらいたいという思いから、実在するジャンル名だけを付ける音楽ゲームの作曲者も確かにいる。(以下ソース記事)

例えばbeatmania ⅡDXで不動のラスボスとして名高い「冥」はピアノとシンセが中心のドラムンベースを基調とした曲調であるが、ゲーム内でのジャンル名は「HUMAN SEQUENCER」だ。全然音楽とは関係ない。
今でこそ廃止されてしまったがポップンミュージックではこの傾向は極めて強く、実質曲名が2つあるといっても過言ではない。

では、「Aleph-0」のジャンル名は何であるかになるが、


MUSIC


音楽という一つの芸術作品から派生・分類分けしていくのではなく、ただただ音楽とだけ表現している。「音の無い世界の音楽」というテーマ性をより強調させている。

言うまでもないが、音楽は音を用いて表現を行う芸術作品だ。

なので、元の曲よりも音数を減らしてしまえば作品の性質は大幅に変わってしまう。――では、その音数の減らし方を意図的にしてしまえばどうなるのだろうか?

BMSというゲームは上から振ってくるノートを押すことで、対応する音が鳴り響く仕様になっている(ことが多い)。事実ノート数が多くなりがちな高難易度の曲ではやたら音数が多くなっている。音楽としてだけではなく、ゲームという側面上仕方がないのだ。


逆に言えば、譜面をプレイすることで初めて音を鳴り響かせられる。


譜面をプレイしないで、放置しているだけでは背後の微かな音しか鳴り響かない。それこそ「音の無い世界」となる。その世界の中に音を響き渡る手段としてBMSというフォーマットでは「ゲーム」が存在している。


プレイヤーが自らの手で介入することによって、曲として初めて成立できる。これはまさに「音楽ゲーム」でしかなしえられない。


「それなら演奏でもよいじゃないか」ともなるかもしれないが、使用されている音源をそっくりそのまま準備出来るのかという問題が浮上する。それこそ単なるピアノ協奏曲ならば(演奏者によって幾ばくか変化はするが)完全な再現としては可能だ。

しかし、デジタルミュージックだとこうはいかない。無料音源のみで作成された曲も幾ばくかあるのは事実だ。実際、Aleph-0コンビが過去に作成して代表曲の1つとなっている「Calamity Fortune」では無料音源のみで作成されている。

だが、有料音源が用いられている曲の方が圧倒的に多い。そうすると、「作曲者から直のデータを貰う」以外では―――音楽ゲームでしか完全な再現はできえない。だからこそ、繰り返しになるが、


「Aleph-0」という作品は「音楽ゲーム」延いては「ゲーム音楽」でしか成立ない特異性を孕んでいる。


2-3:変幻自在

ここで先ほど譜面は全部で5種類同梱されていると述べたが、敢えて「4種類+1種類」と表現した理由について触れていきたい。「Aleph-0」の公式譜面は公開された当初は「NORMAL~INSANE」までの4種類であり、それから幾ばく経った後に「BEGINNER譜面」が発表されたのだ。

BEGINNER譜面は一般的に「NORMAL譜面よりも更に簡単」という位置づけにされる。なので、全体的にノート数が非常に少ないのも音楽ゲーム界隈では常識だ。

実際、Aleph-0のBEGINNER譜面もノートの配置だけで言うならば、例に漏れず簡易的な譜面ではあった。だが、このような譜面を誰が予想したのだろうか。途中で譜面がスクロールバックをしたり、オートで図形を描いたりするのも十分異色だが

オートプレイであっても、ゲージが100%に到達しない。

ゲージ制を採用している音楽ゲームではTOTAL値というものが存在する。これは全てのノートを完璧に押し切った際、どれだけのゲージ量が割合で回復するかを指す。

そう、BEGINNER譜面ではこの値が極端に低く設定されているのだ。参考までに上に挙げたANOTHER譜面のTOTAL値は521となっているが、

BEGINEER譜面ではANOTHER譜面の約7.5分の1である70しか設定されておらず、その上に判定がとても厳しくなっている。下手すればAnother譜面よりも難しいと感じる人も多いだろう。

それにNORMAL譜面以上と違って音数がわざと抑えられており、何処か物寂しく感じられる。何も押さずに放置した際に流れていそうなバックグラウンドの音が印象的になるだけだ。

初めて目の当たりにした当時の自分にとっては衝撃だった。あの「前衛的でとがっていたAleph-0」が「何処か物寂しくも感じられるAleph-0」に変化するとは思わなかったのだ。過去に発表された曲を作曲者本人がセルフアレンジすることは少なくは無いし、この「Aleph-0」のように難易度が変わることに音源が変わる曲も過去に多く存在している。


ここから暫くは閑話休題だ。興味が無い方は飛ばして頂きたい。

beatmania ⅡDXではこのような難易度毎に変化する曲はそこそこ見受けられる。例えば、「era」、「Spica」に「murmur twins」等では難易度ごとにノートに対応している音が変化して難しくなればなるほど音数が増えていき、「Scripted Connection⇒」ではそもそも1つの曲が難易度によって分割されており実質6分の長い曲となっている。

前者は音楽ゲームの低難易度譜面でありがちな「歯抜けの音が多い為に、プレイの満足感が少ない」という問題へのカバー。後者はそれこそゲームシステムを逆手に取った、音楽ゲームならではの一種の演出だ。自分はこの曲の存在を知った際に作曲者のTatsh氏への発想力に脱帽した。

実際、後者が与えた影響はかなり大きい。この曲の後にも難易度を変える事で曲が繋がるようにするTatsh氏の曲は幾つか現れている。そして、難易度どころかSP/DPというプレイモードを跨って曲を繋げる「仮想空間の旅人たち」には更に驚かされた。既に黎明期で発表されていた「era」のようにSPとDPで音源が大きく異なる曲は存在していた。

だが、SP/DPという2つのモードで跨って繋げるという発想は自分の中でありそうでなかったのだ。

そして、後程にLEGGENDARIAというANOTHERよりも更に難しい「裏譜面」がこの「仮想空間の旅人たち」に追加された際はSPの側ではDPの音源が、DPの側ではSPの音源が遊べるようになった。単純な高難易度のみならず、この曲ならではの手法が用いられていて実にお見事。


今年の8月。Rootageの稼働も終盤を迎え始めた時に「Scripted Connection ⇒」を大きくリスペクトしたと考えられる「GENE」が隠し曲として登場した。

この曲は「旧作の特定バージョンをテーマとした楽曲を出す」というⅡDXではおなじみの「特定の条件を満たすと最後のステージでのみプレイできる曲が増える」というARC SCOREのものだ。このイベントでは最後から2番目に追加された曲であるが、正直な所自分は最後に追加された曲よりも一番ARC SCOREらしい曲と思っている。

此方は曲どころかBGAも難易度毎に事細かに変化しているのが特徴である。その他に、別名義や公式の曲コメント等といった随所に「HAPPY SKY」という作品への""オマージュ""が散りばめられ、両者のHAPPY SKYへの愛を強く感じられた。

「その楽曲が内包している作品性として印象深いRootage曲を挙げろ」と言われたら自分は2曲即答するが、その内の片方はこの曲だ。その位印象深く、素晴らしい作品である。


さて、ここで本題に戻ろう。


自分が「Aleph-0」のBEGINNER譜面と出会った時、他の難易度によって音源が変わる曲から受けた印象とは全く違った。

確かにBEGINNER譜面であるために音数が制限されているのは事実だが、これほどまでに印象が百八十度変化したのは想定外だったのだ。余りにも印象的であった終盤付近のブレイクコア染みた破壊音は全く聞こえず、厳かな空間で静かにピアノが演奏されるかのような雰囲気へ変化した。

かといって、完全に別曲に感じられたのかというと間違いなく「Aleph-0」の系譜であるのも事実であった。絶妙に計算されつくされたバランスがそこにはあった。

2年近く経った後に、このBEGINNER譜面で使われた部分はLeaFさんの1st solo Albumの「Aleph-0」のlong音源の一部分であることが分かった。

BOFU2016の終了時点にAlbumの告知が行われ、その際にAleph-0がlong化される旨も既に出ていた。long音源の先出しの一環だったのだろう。


ただ、この譜面が後から公開された当時の空気が余りにも印象深いのだ。


2-4:Underground Atmosphere

初めに述べた通りに、この曲はBOFU2016という大会で優勝をした。Aleph-0は得点を付けられる評価期間の中盤から並み居る曲を差し置いて独走状態となっていた。……これだけ書くとある意味では別段可笑しくはないのでは、事細かに書き表そう。

初めに、このBOFU2016で正式にエントリーされた曲は何と608。同様の大会は2017年以降も続いているが、2019年の現在においても100曲以上の差を出して歴代1位の曲数である。始まる前は優勝争いが激戦になると予想され、事実始まって数日は全く読めないような状況だった。


しかし、一週間後にはAleph-0が独走状態になり始めた。


この独走状態には2016年の大会が開催される前、どこか不穏な空気が漂っていたことも関与しているのかもしれない。此処からは過去に自分が書いた文章からの引用もやや含む、ご了承願いたい。

それまでのBOFは切磋琢磨に作品同士を競い合いながらも、互いに評価しあい、プレイヤーとの直接的な交流の場でもあった。言わばBMS界隈の年に1度の大規模な「お祭り」ともいえた。

仮に優勝しても得られるのは名声だけだ、金銭は一銭も入らない。

だが、それでも皆が皆この空気を楽しんでいたのだ。お祭りが終わってから数月~半年後には、BOFで発表された曲の中から数十曲がロング化されたり・アレンジやリミックスされる「Groundbreaking」というコンピレーションアルバムが発表され続けている。

2009年より活動が続けられており、こちらも毎年恒例となってきている。現時点でも公式より全曲無料でダウンロードできる。こちらも上記同様金銭の授受は無い。本当に同人音楽の中でもアンダーグラウンドな雰囲気として楽しまれていたのだ。

もっともBOFを包括するBMS界隈の中から、商業・プロの世界へと大きく羽ばたいていった作曲者・映像制作者は同時の時点でも数多くいたのだ。だが、別にそれによる何らかの問題が生じた事は無く、ただ純粋に祝福され喜ばれ――「俺(達)は活躍している”あの人達”の事をもっと前から知ってたんだぜ」みたいな後方でドヤ顔をしていたくらいだ。


そんなBOFの中に不穏な空気が生まれ始めた原因の発端は2015年7月に全国のゲームセンターで稼働開始した商業音楽ゲームのチュウニズムだろう。


稼働開始と同時にG2R2014(2014年の同大会)の優勝・準優勝曲と往年のBMSの代表曲が収録され、1月に1曲のペースでBOFで優勝・準優勝となった曲がチュウニズムへと入っていった。

過去に商業音楽ゲームへとBMS曲が収録されたこと自体(幾つか例に挙げるならDJMAX、Cytus、Tone Sphere、GROOVE COASTER、maimai...etc)は当時の時点で何度かあったのは事実だ。だが、商業音楽ゲームの1機種に収録されたBMSの曲数は当時の時点で歴代第一であり、それを記録するに至った収録の速度は余りにも前代未聞だったのだ。

そして、BOFU2016が開催される数月前の2016年8月には2015年の優勝曲が、作曲者本人によってリメイクされた状態で収録された。最早発表されてから1年も経過していない。

これらを巡り様々な思惑が生まれた。特に『「商業音楽ゲームへの移植を狙う登竜門として、優勝・入賞を狙う人」が生まれるのではないか』『唯のお祭りではなく、商業的な側面を重視する人が増えるのでは』と、それまでのアンダーグラウンドな雰囲気が消えてしまうのではないかという不安が界隈全体に生まれてしまっていた。



Aleph-0はそんな空気の中に突如として現れた。



これまでの自分が述べ続けていた内容からの評価も高かったのは事実だ。だが、構成要素の多くが「BMSでしか成り立たない」という『唯一性』を保持している所からの評価も同じくらい高かった。そこの唯一性を目の当たりにしてから、「そもそもBMSとは一体何なのか」という禅問答めいた問いが生じ始め、何時しか不穏めいた空気は消えて行った。

たった1つの作品がコミュニティの現象となっていたのだ。

そして、大会の終盤。最早優勝が内定していたAleph-0が再度注目された。2016年11月時点での全BMS大会の歴代最高得点(26.7万点弱)を、Aleph-0が上回るのではないかと噂されたのだ。2011年のBOFに発表されて以降、常に話題に上り続けた「confict」という作品は余りにも難攻不落の要塞であった。

この曲。2019年11月時点では何と17機種の商業用音楽ゲームに収録されている。稼働終了となった機種を含めて18機種に収録されたFLOWERへと差し迫ってきており、最早BMSの顔といっても過言ではない。


そのように注目される中で大会終了数日前に、このBEGINNER譜面が発表された。

自分がこのBEGINNER譜面と相対した第一印象は「恐怖」だった。

当時の自分はAleph-0の事を、BOFの内部で流れていた空気も併せて相当理解していたつもりになっていたが、その気持ちを粉々に砕かれたのだ。”あの”conflictに差し迫るかもしれないと言われている作品には、まだまだポテンシャルが潜められているのだと。

それと同時に深く痛感したのだ。この作品は「"ゲーム音楽"の完成形の一つ」であると。

2-5:「ゲーム音楽」と「音楽ゲームの音楽」


「一般的なゲーム音楽」と「音楽ゲームの音楽」は似て非なるものだ。


厳しい言葉になってしまうが、「一般的なゲーム音楽」はあくまでもゲームを引き立たせる一要素に過ぎない。どのように取り扱っても、ゲーム音楽はゲームという媒体と結び付けられてしまう。

一方で「音楽ゲームの音楽」になると、打って変わって音楽そのものが一番の主役だ。音楽以外の他の構成要素は音楽を引き立たせる役目……と逆転している。そして、音楽ゲームの音楽はゲームから切り離されがちだ。

音楽ゲームの音楽に対する辛口批評の一つとして「音楽ゲーム以外では受けない音楽」というフレーズもしばしば見かける。だが、この批評は逆に言えば”ゲームという作品から切り離して評価している”。

だが、Aleph-0は先ほどにも述べたように「ゲーム音楽」でしか成立しない特異性を孕んでいる。そして、このBEGINNER譜面は正にBMSでしかできない演出の、ゲーム演出の完成形の一つに思えた。

自分が幼い頃よりデジタルゲームを好んでいる理由の一つとして、体験型の現代芸術の一種と認識している。そんな短くもないゲーム人生の中で、Aleph-0との遭遇は何もかもが自分の想像外にあり、正に未知との遭遇であり――そう、恐怖の次に自分が得た印象は感動だった。


とうとう「ゲーム音楽の一つの完成形」と巡り合えたのだと。


そして、大会最終日。Aleph-0はconflictの得点を超え、20年弱続くBMSの歴史の一ページに大きく名を刻みこんだ。

もっともこの得点は2年後の2018年の大会で大きく塗り替えられた。しかし、熱狂の渦の中で迎えた2016年の最終日と何処か神妙気に迎えられた2018年最終日。この両者を比較することは自分にはできない。


3:無限のその先

2017年・2018年にも同大会は開かれ、両大会共に大盛況の元に終了した。

2017年では、不連続じみているがそれぞれの曲が起承転結に分類される4曲全てを一人で手掛けたSilentroom氏のチーム(後に別名義も含めて1大会で6曲作成していたことが判明)が注目を浴びた。

中でも「一小節を作成するのに半日を費やしたこともある」と述べたほどの努力の結晶の塊であるNhelvが優勝曲となった。

BGAもBMS界隈において何故か余り使われない赤を全面的に押し出し、全体的に異空間の中へ没入する錯覚も感じられれる。一方、要所要所では「音楽ゲームのMV」が取り入れる音嵌めを導入している。匠の技だ。

2018年は……過去に自分が気を取り乱しながら書いた見苦しい長文がある。申し訳ないがこちらを参照していただきたい。


そして、優勝したこの2曲は既に商業用音楽ゲームの何機種かで収録された。中でもDestr0yerは2019年の3月であり、公開されてから半年も経過していない。


だが、Aleph-0だけは未だにどの商業用音楽ゲームに入っていないのだ。


Aleph-0の作曲者であるLeaFさんは「非営利の使用であるなら自由に使用していい」と正式に許可を出している。その為にBMSだけではなく非営利の同人音楽ゲームにおいて様々な譜面が作られては遊ばれ続けている。

Aleph-0と同年の準優勝曲である「Black Lotus」や3位の「CO5M1C R4ILR0AD」の両曲は商業用音楽ゲームへ既に入っている。


やはり中でもチュウニズムは有名なBMS曲の収録を継続し続け、今では60曲に差し迫っている。BOF曲は2008年~2018年の優勝曲の全てが収録されている―――Aleph-0を除いて。

何故Aleph-0だけ収録されていないのか。オファーがなされていないのかという疑問を持つ方もいるだろう。



あくまで自分の意見であるが、オファー自体は既にされたとは思っている。ただ、制作した2人はそのオファーを断り続けているのだろう。



「企業からのオファーを断った」という事例はBMS界隈の中で過去に存在している。onoken氏の代表曲の一つであるfelys。これがセルフリメイクされた上でノスタルジアに収録された際に氏本人が「数多くのゲームメーカーから移植の話を受けたが、felysだけはBEMANIシリーズから出てきてほしかった(ので断っていた)」という旨を述べていた。このようにAleph-0もfelysと同様に断り続けている可能性は大いに高いと思っている。

また、2018年にDestr0yerが大きく話題になった際に「Destr0yerについての考察が終わったら、Aleph-0のページに残したコメントを見て欲しい」とLeaFさんは述べていた。これを見た際の感想は述べないでおこう。


代わりに、これまで敢えて述べていなかった事を1つだけ示させてほしい。Aleph-0のBGAでは最後にタイトル名と製作者表記がクローズアップされる。この時の製作者表記ではBGAを制作したOptieさんが仕込んだ演出によって「LeaF&Optie」と書かれている。

ダウンロード

商業用音楽ゲームへ移植が行われる際、基本的にBGAは1枚のジャケット絵へと圧縮されてしまう。容量・工程削減等ではなく、単純にムービーを再生する商業用音楽ゲームは存外少ない。もっとも幾らかのBMS曲を収録しているmaimaiではムービーの再生は可能となっている。ただ、これまで述べてきた内容を踏まえれば――――。

また、このタッグが過去に制作した作品は複数ある。その際は作曲者担当、BGA担当という風にそれぞれの担当毎と書かれていたが、Aleph-0では「&」表記と書式をわざと揺らしているが、その理由は――――。

これ以上憶測で述べ続けるのは野暮なので、そっと筆を置こう。

ただここで自分の思いを述べるのであれば、近年のBOFの優勝曲の中で1曲くらいは何処の商業用音楽ゲームへ移植されない曲はあっても良い、そんな展望だ。


4:最後に

最後に、製作者のLeaFさんが大会の最後に残したコメントを引用した後に締めくくらせてもらおう。

『「BMSとはなにか」といった問いに対し私は答えることが出来ませんがここでしかやれないことをやったつもりであります。
BMSとは何か、今大会の評価とは何か、そういったものを意識し始めるのはなんだか窮屈にも感じてしまいますが、
私自身が今までこうやって、作曲自体がBMS制作一体になって作ってきた身ですので、自分がやりたいことをするという結論に落ち着きました。』


音がなく静まり返った空間の中で0と無限の狭間で広がるフラクタル図形。

その異空間は2人の人物の音楽ゲームというフォーマットへの、アンダーグラウンドな世界への強き思いに満ちている世界であった。

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