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介護の日本語を教える前に~語彙~

 介護士として勤務した経験の中で、介護士未経験の日本語教師でも「これを知っていたら教えやすいかも」というものを集めました。


1.介護福祉士とは

【補足】介護施設で働いている介護士さんたちが全員介護福祉士というわけではありません。国家試験に合格し、厚生労働省に登録した人が介護福祉士として名乗れます。
 会話テキストでよく目にするのは「介護士」「介護職」「介護職員」「介護スタッフ」など様々です。
 現場では介護福祉士という資格のことを「介福」と略して表現する人がほとんどです。「介福もってる?」「介福とった?」「ここは介福持ってる人半分ぐらいよ」などよく耳にします。
 施設によっては無資格のスタッフもいます。介護福祉士のみ、というところもあったり初任者研修修了者以上の人、など受け入れ基準が様々です。
   同じ人が複数施設かけもちしていることもあります。日本語教師が学校をかけもちしているのと同じです。高級有料ホームだからといって介護の質がホテルの従業員のような振る舞いになるのかといったらそれほどでもありません。どの施設であれ介護サービスを行う介助者に大差はありません。
 研修では敬語を多く使うよう習いますが、利用者様の様子を伺いながら一番よい表現(敬語とは限らない)で対応しているところが多いです。

2.介護サービスの種類

1)介護保険制度の介護サービスの種類(一部)

  2)特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム・有料)

【補足】介護付は24時間施設の介護スタッフが対応します。住宅型は訪問介護や通所介護サービスなどをご自身で契約して利用します。介護保険サービスはいずれも利用可能です。健康型は家事や食事などのサービスを受けられますが、要介護となると退去しなければなりません。

3)勤務した8施設は普通体
 利用者さんとの会話はほとんどが普通体でしたが丁寧体で話す職員もいました。意識した敬語を話すところは高級有料ホームのみでした。ただ頭のしっかりしているご利用者様やご家族にのみ敬語で、そのほかは丁寧体か普通体でした。長い前置きや敬語を使わないのも意味があります。

3.利用者とは

利用者はお客様
 介護保険制度が2000年に施行され、利用者様は介護サービス提供施設と契約を結ぶこととなり、お客様となります。サービス提供者がサービスの情報と、起こりえるリスクや責任などを説明し、利用者様は「自己選択と自己決定」ができます。お客様だからこそ職員は丁寧な言葉で対応するよう研修でも指導を受けます。
 日本語教育のテキストでも非常に丁寧な言葉での会話が記載されていますが、こういった背景があるからかもしれません。

4.人間の尊厳と自立・自律

1)日本国憲法 第13条
 すべて国民は、個人として尊重される。
 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
 
2)尊厳と自立・自律
 介護における生活支援は「尊厳」と「自立」の2つの理念を基本に実現していきます。自立していても心が動かなければ自ら行動していただくのは難しいです。自律(自由な意思がわきあがる心の働き)をも支援していかなければなりません。

 車いすの後側でバルーンを確認し、量が多ければ「お手洗い、よろしいですか」といってトイレに誘導し、尿量を計量し破棄します。みんなの前で作業はしません。

「自助具などの道具を使えばご自分でできる」を優先します。自立は生きる上での自信にもつながり、QOL向上にもつながります。

ホルダー付スプーンで食事

 居室にこもりがちな利用者さん、書道の先生だったそうで書道レクにお誘いしたところ参加してくださいました。車いす自走で談話室まで来てくださいました。時折笑みを浮かべて描いていらっしゃいました。

5.語彙・表現とその根拠

1)遷移と背景
 時代とともに使われる語彙も変化しています。研修で説明はあるものの、現場では昔ながらの言葉を使われていることが多く、結局は新しい言葉は浸透しない状態が続いています。ですが、言葉を指導する立場である以上、なぜそうなったのか、言葉の遷移の背景を知ったうえで授業に臨んだほうが説得力があるなと思いました。
 ベッドの柵、よく使いますが柵は動物のように扱っているイメージがありサイドレールとなりました。片麻痺の「片」は「かた」とよぶと「かたわ」という少し差別をイメージしますので「へん」と呼ぶようになりました。ですがテキストやDVD、現場でも「かたまひ」と使われることがほとんどです。
 「廃」は「廃人」「廃棄」などのイメージを払拭。「レスト」は休ませているわけではないので「サポート」に変更。ご利用者様やご家族、スタッフも「痴呆」という言葉を使う方はいらっしゃいますが、これも「認知症」に変更され今ではこちらのほうがよく使われています。
 こういった背景があって変更されたことを知ったうえでぜひ指導にあたってほしいです。

2)事前に入れておいた方がよい語彙
 よく使われる言葉として事前に学習しておいたほうがよいと感じたものは「最低床」「とろみ」「陰洗(ボトル)」「清拭」「おしぼり」「大正」「昭和」などでしょうか。ほかにも多々あります。

6.介護と介助

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