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皇帝と奴隷には人権が無い。

誰もが羨む生活をしているだろうと城下町の人は言う。

誰もあんな場所へは行きたくないと城下町の人は言う。

強制労働施設と皇帝の住む城に、たった1つだけ共通点があった。

何もかもが違うそこに生きる者に、ただひとつ共通点があった。

「無意味だ」

そう言いたいのをグッとこらえて、兵士の指示に従う。この労働にもはや意味などないだろう。アタシの生に、意味など。この場所はきっと、虚無が生まれる所だ。この虚無で作られた何かで、アタシとは違う世界を生きる誰かに届いたとして、果たしてソイツは幸せになるのか?

なれるとしたら。ふざけんじゃねぇぞ。

78号。アタシの呼び名だ。名前すら奪われた。

ここに連れてこられた当初は、脱出の機会を信じた。

だが、そんなもの当然ながら無いのだ。

というか、こちとら生きるのに必死だ。挑戦なんてものは、自分の人生を生きる事ができてる奴の特権であって、ただ生きる事にすべての力を使わないと生き残れないアタシ達のような人間にとっては、ただ白々しい。

人間。

あぁそうさ、アタシ達は人間だ!!

ここの兵士どもはそうは思ってないみたいだが。

何が入っているかも知らされていない袋をただ所定の位置まで運ぶ。荷車を使えるのが温情だと感じる程には、アタシの感覚も麻痺していた。

監視している兵士達が囁くような会話をしているのを聞き取った。聞きたくもねぇのに。アタシは耳だけはいいんだ。皇帝の誕生日がなんだ。ふざけんなよ。さぞ、豪華なんだろうな。アタシ達を嘲笑うかのような、きらびやかで、華やかで、一切の苦労をしていませんと言わんばかりの気色の悪い笑顔を張り付けた馬鹿どもが、贅沢の限りを尽くすのだろう。

胸糞悪い話を聞いちまったぜ。

「無意味だ」

そう言いたいのをグッとこらえて、大臣の話を聞いた。この話になんの意味がある。どうせ、決定権は私には無いのだろう。馬鹿馬鹿しい。皇帝か。いつからか名前を呼ばれなくなって久しい。

【続く】

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