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パラダイムマンション【逆噴射小説大賞2020】

それは宇宙人達が地球に間借りする為の施設の名前だった。

ある日突然飛来したその1つの建物は、当初侵略かと思われて全世界で攻撃対象とされたが、その建物の管理人だと名乗る宇宙人が地球人全員に「ドアノブ」を差し出した事から評価は一変した。

ドアノブは、地球人の言葉で「外交儀礼(プロトコール)」と呼ばれ、登録した部屋にいつでもどこでも遊びに行ける、という代物だった。

パラダイムマンションはすなわち、地球人を客に見立てた部屋であり、店であり、国であり、星だった。

1部屋毎に違う文明が存在した。どれだけの人数を招けたか、が彼らの評価軸でありその建物内での序列に直結するらしかった。

「で、そのパラダイムマンションの管理人さんがわざわざ何の用だい?」

私が運営する引っ越し会社の元へ、ヤドカリと名乗るその管理人は話があると持ち掛けてきた。

突然だが、ちゃんと事務所にノックをして入ってきた。なるほど、「外交儀礼」はパラダイムマンション以外の部屋にも適用されるのか。初めて知った。ノックをする事が「外交儀礼」を使う時の唯一のルールのようだ。

ヤドカリは人型の宇宙人のようで、一見すると宇宙人だとわからない。だがその特徴的なシルクハットだけは1度見ると絶対に忘れないだろう。法螺貝を模したような、パラダイムマンションの形によく似た帽子だった。

挨拶もそこそこにヤドカリは切り出した。

「文字通り、引っ越しを手伝って頂きたいのです」と。

宇宙人の引っ越しを?私達が?何故?

溢れる疑問にヤドカリは1つずつ答える。

引っ越し依頼自体は私達が特別ではなく、世界中の業者に打診している事。なにしろ部屋数が多いのでそれでも足りないらしい。さすが部屋の中に星があると言われるだけはあるな、と圧倒された。

何故超技術を使わず地球人に依頼したかは、その方が地球人を招く上で都合がいいらしい。地球人の感覚を加えたいというのが思惑としてあるようだった。

【続く】

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