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目線が走る。

異変に気付いたのは、ソシャゲをしていた時だった。

大人気ソシャゲの「ベヤベヤ!」の中にいる、可愛い可愛い2001号室ちゃんを愛でようとしていたのだが。

目が、俺自身の意に反して言う事を聞かない。とでも表現すればいいのだろうか。

どうしても、スマホを見ることができない。

目が意思を持ったかのように、俺の部屋の中をぐるぐると見回している。そこに、俺自身の意思は存在しない。だって俺は2001号室ちゃんを愛でたい。

やっと当てた最高レアのキャラなのだ。高層マンションの角部屋だから引っ越し料金の育成コストが凄いのだ。やっと育てたのだ。虫に強いし、今回のイベントは大活躍のチャンスなのだ。

「俺に2001号室ちゃんを見せてくれよ!」

俺の心の叫びは虚しく部屋に響くばかりで、誰も返事をすることなく、目の活動だけが続いた。

くそう!体の反逆か!?なんだこれ!?

首を目が向きたい方向にさせまいと踏ん張ってみたが、首の方がひん曲がりそうになったのでそのまま目の向きたい方向に首を向けるしかなかった。謎の敗北感だけを味わった。

そうするうちに、部屋の中にある1つの本に目が焦点を合わせたのがわかった。なにしろそれ以外見れない。嫌でもわかる。

「これを読めってのか?」

「最前線」というタイトルの物語だった。

もう読んだぞ。これ。面白かったし好きだけど。

……。あぁ、やっぱり面白いな。師匠からの願いを託された主人公が、「次はあなたの番よ」と次の世代にバトンを繋げる所は涙無しには見れない。やっぱりウルッと来た。

読み終わった後の余韻に浸る間も無く、今度は窓の外を目が凝視しているのがわかった。なんだよ、人が気持ち良くなってるのに。外に出ろってのか?

そう思った瞬間グイッと体が引っ張られる感覚があり、部屋の中を引きずるように動いた。

え?ドアの方に向かってる?痛い痛い!わかった!立つ!立つから!

なんか、目の力強くなってないか?

【続く】

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