面白いと思っているから

 授業参観は見に来るなや、というお年頃で、イケボの授業は見に行けず夕方のPTAだけ行ったのだった。
 玄関で高校でLと同じクラスの、近所のママ友に会うが、Lとは中学校が違ったからこの人とは中学校で会わない人だという認識でいたまま、しかし実際に中学校で会うと脳がバグる。下の子は公立にしたんだそうだ。
 学年の全体会の目玉は宿題のやり方が変わったこと。なんと学校の学力向上委員会(本当はそんなふざけた名前ではない)の委員長のプレゼンテーションが行われ、委員長はイケボなのだった。
 宿題のやり方が変わった、と宣言したのは今年度からだがKはこの中学校の保護者5年目で実は3年前からじわじわ変更しつつあった。強制型から自主型へ。課題は自分で選んでやれとそういうことなのだった。
 イケボのプレゼンテーションを聞いて、しかし斜め後ろの保護者がずっとしゃべっていて、でもきっとうちの子全然成績が上がらなくて~とかそのうち言い出すんだろうけど、保護者がこういう話を聞けないなら子どもだって聞けないんだし、聞いてたって成績なんか上がんねんだぜといつも思う。
 で、プレゼンテーションのつかみは勉強と学びの違いはなにか。勉強は決まった答えのあることをその答えありきで解法を習う。学びとはまだ答えのないことを探すこと。
 その前の週は高校のPTAで、地元の予備校の先生の講演会で、体系的な知識は学校などで通して学ぶ集団授業が効率がよく(勉強)、読解力問いを立てる力(学び)がこれから必要だとか。Kはその話をもう聞いていた。
 学校は3年で1周回すサイクルで動いているのが分かる。小4でやった都道府県の勉強が中1で帰ってくるように、ここらで勉強のやり方について考えてみようというのが同時にくる。3歳差育児の不思議を全身で浴びる。
 高校のGQPTAではまあ静かなクラスだとにかく静かなクラスだと担任(イケオジ)は話をしてくれた。保護者もものすごく静かなクラスだ。
 公立中学校の同じクラスからトップ校へ行ったメンツがまた同じクラスでその上近所の国立勢も一緒なのだった。国立勢はさっき玄関で会ったママ友だ。
 中学校がプレゼンする勉強のやり方って勉強が好きな子らがずっとやってきたことで、3つ上の学年で最も多くのトップ校合格者を出したのがイケボのクラスなのだった。
 話を戻すと、Mは現在のイケボのクラスにいる。
 イケボは1つの学校にこんなに長くいたことがなく、つまりきょうだいをどちらも受け持つというのは初めてのことらしい。GQPTAではさっきの学力プレゼンで疲れたのでもう喋れません、というわりにたくさん話をしてくれた。
 Lの時もすんごく喋ってたから、喋りの体力がマッチョなんだ。その上毎日学級通信を出してくる。アウトプットが怒涛である。
 PTAのあと、Kはイケボに話をしなくてはいけなくてなぜならMは配慮の要る生徒で申し送りはもう済んでいたけど、その絡みで教室を脱走したからその件について話さなければならない。それでずっと緊張している。
 終わって役員さんと挨拶していて、この後話したい保護者がめっちゃいたらどうしようとか思ったが杞憂で全然滞りなく話が出来て、その節は神対応ありがとうございましたと言うことができた。ああ良かったミッションコンプリート…けど先生はピンときておらず、脱走したのに怒られなくて逆に褒められたとMが申しており、その上お電話もいただきましたと説明が必要だった(毎日いろいろあるんだな)。イケボからはハイ私が神ですとはもちろん返ってこず、イエイエ普通の対応ですと返ってきて、校内にいてくれたので助かりました、と言った。それで、いい判断だと神は言ったんだそうだ。Mは保健室が閉まっていたら帰ろうと思ってたと言いましたので幸いでした。と言うと、イケボは一瞬怯みマジで良かったともう一度言った。
 校外に脱走する猛者もいるらしい。
 では、とその場を辞そうとすると、3年ぶり2度目ですねよろしくお願いしますと神は言った。Kがそれを言われるのは3回目で、初めてだからちょっと面白いと思ってるんだ先生も。保護者もだいぶ面白いと思っているからな。
 ということでLの時も神対応で本当にお世話になりました、おかげさまで受かりました、と言えないまま終わるかと思っていたことをついでに言った。
 受かって丸1年、ただのボケでしかない。
 しかし先生もある程度キャリアを積んでくると卒業生のその後も聞こえて来るようになって、自分が受け持った生徒の話を聞くのは嬉しいものなのだそうだ。
 兄は元気ですとMもたまに聞かれて答えるらしい。逆に妹の担任が同じ先生だ、というわけでうちではたまに今日のイケボ先生という時間があります、と言うとイケボは照れていた。先生の近況を聞くのもまた、卒業生の楽しみである。