読書の秋

 KはMを図書館に連れていき、自分も小説を借りてきて読んでいたらLも俺もドクショでもするかなとやってきて、ヨシタケシンスケの絵本でも眺めるのかと思ったら恩田陸の「ねじの回転」を持っていった。
 「ねじの回転」は歴史SF大作と帯に書いてあるのが気になったらしい。大作なので辞書ほど厚い。Lは嬉々と読み出した。
 隣でMが流行りの5分で読めるやつを読んでいる。
 YouTubeを見ているより、ゲームをしているより、テレビを見ているより、マンガを読んでいるより、児童向け小説を読んでいるより、字がみっちりしている本を読んでいる方が、親としての心の安寧が得られるのだが、あーおもしろかったと読み終わる頃にはすっかり夜なのだった。
 1日で読みやがった。
 444ページある小説を1日で読む視力と体力よ。男子中学生め。
 Kがこの週末に読んだのは柚木麻子「BUTTER」で、3日かかって読み終わり、バターは旨いって話だったな、Kも絶対バターである。この小説の時代背景はバターが品薄だったあの頃だが、バターが売場から消えていくシーズンを何回か経験しているのでKは冷蔵庫にあるバターが3個をきると不安になってすぐさま在庫を6個にする。現在はバターは安定供給されていて買いだめる必要もないのだけど、あの頃とは何が違うんだろう。    
 しかしSFとかミステリでない小説は大体性的なテーマに帰着するのがあまり好みではない。
 その点恩田陸は男子中学生が急に持っていってもアンパイである。
 さて、字の本を読んでいるLを見て、Kは安寧を享受していたのだがよーく考えると勉強をしていないのであった。
 かつてKが受験生であった頃、本読んでないで、マンガ読んでないで、テレビ見ていないで、ゲーム…はしてなかったし、YouTubeはなかったし、勉強しろと言われていたなと。まとめると本ばっかり読んでないで勉強しろと言われていたのではなかったかそうだった。
 YouTubeよりはゲームよりはテレビよりはマンガよりは本読んでれば良い…わけがなく、今も昔も勉強しなよ、だが現代の親は字の本を読んでさえいればいいと錯覚している。
 でも辞書ほど厚い本を1冊読み通す力はあるのだから、日頃YouTubeばっかりゲームばっかりしていても読む力が衰えるわけではなく、読む力もまた個人の持ち物であるから人によるし、年齢にもよる。
 恩田陸は難しくないので誰にでも読めると思うが「蜜蜂と遠雷」が読めなかったという大人もいたし「ねじの回転」はタイムリープの話なので理解するのに時間がかかった。そもそも字が多く厚い本なのでそこがネックで読まない人もいるなかで、おもしろそうじゃんとひょいと持っていく壁のなさは頼もしくはあるな。