雑な日常

 Mが側弯症である。なのでKは病気の子を持つ保護者なのだが何しろすこぶる元気な病人なので、すでに日常に溶け込みたまに病院に検査に行くだけでその時だけあーうちの子病気なんだーなどと思い出したりする。程度の保護者だ。
 症状がイージーなので装具さえきちんと着けていれば日常生活に制限はない。起きている時間の半分以上装具を着けて過ごさなければならないこと自体がものすごく制限がかかっていることである。ということを我々は忘れがちだ。
 それを着け始めて半年だが、診断をもらってからはもう2年になる。
 ちょうど中学校に上がるタイミングで装具を使用する保存療法が始まった。Kはポータルサイトを読み、中学生の体験記を見つけた。コルセット先輩である。
 体育の時間は装具を外して良い(むしろ外さねばならない)。その時の着替えが学校生活に於ける難所である。先輩が保健室で着替えをし、装具の脱着も人の手を借りている。Mは先輩を参考に学校生活の環境を整えた。
 背中で面ファスナーでとめる仕組みなので着けるときは誰かに手伝ってもらう必要がある。この装具について時代錯誤だとか、批判する立場の人もいるようだが背骨の保持が目的なのだから治具を背骨に沿う形で固定するのは当たり前なんじゃないかと。
 それ以外は制限なく活動できるから不自由じゃないような気がするだけだ。
 中学校では集会は基本的に体育座りだがその体勢がキツいらしくMは家庭科室から丸椅子を1つ借りパクしている。みんなの後ろに鎮座しているらしい。やがて日常の風景に溶け込んだ。
 中学校入学後まもなく治療が始まったからそういうわけですと担任(クッキングパパ)に面談に行った。担任はみんなにも知らせた方がいいと思ったみたいだが、Mは拒否したので詳しいことを知る友だちは限られている。ずけずけと聞いてくるヤツもいるがMは答えない。担任もその後の個人面談では装具はケガをしたから着けていると思い込んでいるフシがあり、めんどくさいので訂正もしない。
 担任も雑だがこちらもまた雑な親子である。雑なくらいでちょうど良く、我々は普段この事実から目を背けている。背けて気楽に生きている。