ベルサイユのばら全話見た
ベルサイユのばら
アニメ版を全話見た(海底二万里を読みながら平行で)
あらすじ
序盤はイメージ通り、貴族の女の社交の陰湿さ(これは貴族の陰湿さと女の陰湿さと社交の陰湿さが三重になった領域だ)が漂っていて、オーストリアから嫁いできたマリー・アントワネットが「あのデュバリー夫人は娼婦あがりで国王の妾になった人だから、口をきいては行けませんわよ」と吹き込まれて夫人を無視し続けるのが、少年漫画風に言うところの最初の〇〇編にあたる。(ちなみに最終的にデュバリー夫人は娼婦だったので死刑にされた)
中盤では平民として育てられたヴァロワ家の娘や貧民のために盗みを働く黒騎士が登場して、宮廷を主な舞台としつつも徐々に平民の暮らしの描写が混ざり始める(アントワネットが王妃に昇格して金銭使いの荒さが表れるのもこのタイミングだ)。全話見た上で思うのは、このあたりが実は一番すごい。
終盤はフランス革命が描かれることを思うと、必ずどこかで圧迫された平民の暮らしぶりにも描写を割く必要がある。ターニングポイントを作って強引に「ここから先は新章開幕!」とするのではなく(まあ結局はターニングポイントは後々あるんだけれども)、あくまでストーリーを宮廷での人間関係に絞ったまま徐々に慣らしていってる。
そして終盤、ここも一番すごい。
いろいろあってオスカルは近衛隊(宮廷内の警護)から衛兵隊(パリ市内の治安維持)へと転勤する。転勤先の部下は、全員が金で雇われただけの平民で、貴族で女性のオスカルに反抗的な態度を示す。それから決闘(ケンカ)やらなにやらで部下の信頼を勝ち取っていくのだけど、その過程も単なる通過儀礼イベントではなく、オスカルとアンドレが市民運動に対して理解や共感を深めて、フランス革命の物語に溶け込めるようにするための変化の過程でもある。
ここからの登場人物は男ばかりで、部下の境遇に理解と共感を持ちつつも、公務員として上官からの指示には従わなければならない(たとえそれが非武装の市民への威圧や攻撃であったとしても)板挟みがオスカルを苦しめる問題だ。
(たいそう古い作品なので、最後までネタバレをしてしまうけれど、最終的にオスカルは部下と共に市民の側につく。国家を裏切るのとは、結構過激なやつだった!)
全体を通して、いわば女社会(宮廷)から男社会(暴力と社会運動)への移動という話でもあり、奇しくも女に生まれ男として育てられたオスカルの人生とも重なっているわけだ。
登場人物への感想
オスカル、男装の麗人キャラの元祖!
今どきの男装の麗人キャラの直接の元ネタであったり、間接的に元ネタの元ネタであったりする偉大なお方。幾原邦彦作品の少女革命ウテナだってオスカルの影響を受けていたんだろうし、そのウテナから影響を受けた後世のキャラが更に最近の作品に影響を与えるくらいの世の中じゃないですか。
ライトノベルやファンタジー小説で見知ったエルフやドワーフを、指輪物語の中で再発見するような感動的な出会いだった。
男性陣が軒並みいい奴!
オスカルと結ばれたアンドレをはじめとして、貴族のフェルゼンから平民のアランまで、男性から見ても仲のいい友達になりたいと思えるような、筋の通った気前のいい奴ばかりだ!
少女漫画のイケメンなんていけ好かない奴ばかりでしょって偏見をひっくり返された。
アントワネット様、ヘイトを集めすぎない!
有名な「パンがないなら…」のイメージ通りの、わがままで世間知らずな人物像で描かれている。そのせいでたくさんのトラブルを起こすのだが、そのたびにオスカルが「アントワネット様は決して悪いお人ではないんだ。ただ少し自分に素直すぎるきらいがあるだけで……」とフォローを入れてくれるので、読者目線でもヘイトがたまりすぎない。まあアントワネット様やしな……残念なところもあるけど、聖人のオスカルも庇ってるし……。
身近にいてほしくなさが結構リアルなわがままさなだけに、オスカル様にフォローさせまくるのはヘイトコントロールとしてうまいな~と思った。
こういう分担させることでそれぞれの魅力を保つ手法は、たとえば主人公の殺人がNGな少年漫画でダークヒーローや大人が殺人を担当してくれたりするような……実はけっこう汎用性のあるやつだと思った。自分も自己演出のために身に着けたいなぁ。
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