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小説「ふたりだけの家」

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電子書籍「川べりからふたりは」の続編です。全13話(予定)。この作品単体でもお読みいただけます。
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記事一覧

「普通の障がい者」を描きたくて

もうずいぶん昔の話、人生で一度だけナンパらしきものをしたことがある。 土曜日、その頃毎週…

小説「ふたりだけの家」13(全13話)

 また線路の鳴る音が聞こえてきた。今度は駅の方から走り出した列車だった。先ほどとおなじ、…

小説「ふたりだけの家」12(全13話)

 目を覚ますと、ういんういん、と耳に馴染んだ機械音が聞こえてきた。洗濯機の音だ。週末二度…

小説「ふたりだけの家」11(全13話)

「あ。涼さん、見て、ほら」  奈美が夜空を指さした。奈美の温もりと重みを心地よく肩に感じ…

小説「ふたりだけの家」10(全13話)

「どうしたの? おねえちゃんになれるんだよ。うれしくないの?」 「奈美おねえちゃんなら、…

小説「ふたりだけの家」9(全13話)

 アパートを出て五分ほど歩くと、最寄り駅西口へと向かう大きな通りにぶつかった。目当ての店…

小説「ふたりだけの家」8(全13話)

 やべ、寝ちまった。  私は突っ伏していたテーブルから、はっと顔を上げた。固まった首筋をほぐし、腕に埋めていた右頬を撫でまわした。頬には服の皺の痕がついていた。目の前のノートパソコンはスリープ状態になっていた。  首をほぐしながら窓に顔を向けた。ところどころ苔むした古いブロック塀が目に入った。その向こうから、がんがん、と固い物を打ちつける音が響いていた。アパートの隣にはブロック塀を境にして板金工場がある。週末も休めない日が多いらしく、今日も金属板をプレスする音や、電気ドリルか

小説「ふたりだけの家」7(全13話)

「えいえんなーのーかー、ほーんとーかー。ときのながれは、つづーくのかー」  室内用車いす…

小説「ふたりだけの家」6(全13話)

「それじゃ、少しお体の方、診させていただきましょうかね」  坂本医師は電子カルテの入力を…

小説「ふたりだけの家」5(全13話)

 翌朝、私が目を覚まして寝間から這い出ると、奈美はすでに起きていた。着替えも済ませ、茶の…

小説「ふたりだけの家」4(全13話)

「関村涼さん」  名が呼ばれ、私は目元を覆っていた手をはずした。先ほどとは別の看護師が受…

小説「ふたりだけの家」3(全13話)

 ……奈美と出会うまで、私は孤独だった。  そのことをみずからに強いて生きていた。  こう…

小説「ふたりだけの家」2(全13話)

「……いやあ、可愛い」  ピンクのベビー服を着た若葉ちゃんを抱きながら、奈美は小さく歓声…

小説「ふたりだけの家」1(全13話)

 ここ、小児科だっけ。  受付を終え、身を乗せている車いすを回れ右させて病院の待合室を眺めた私は、一瞬本気でそう疑った。  待合室はほぼ満席だった。二歳から五歳くらいの小さな子どもや、まだ生後何か月、といった感じの赤ちゃんの姿が目立った。その子たちを連れてきている母親たちも、二十代半ばと思しき人たちばかりだ。受付すぐ目の前の席にも、女の子を膝に乗せた若い母親が順番を待っていた。女の子はしきりに手や腕を痒がっていて、そのたび母親に「だめだよ」と止められていた。ここ小児科じゃない