魔女の旅々における時系列の矛盾についての考察

始めに

 「魔女の旅々」とは、魔法が存在する世界を、魔女であるイレイナが旅をしながら渡り歩く短編連載小説です。
 いわゆる「旅もの」とされるジャンルですので、基本的には各話は連続したものではなく、ある程度独立したものになります。
 しかしながら、「魔女の旅々」は2021/08/17現在、17巻にもなります。外伝に位置する「リリエールと祈りの国」も含め、レギュラー、または準レギュラーとされるキャラクターは多くなってきました。

 各話におけるキャラクター間の関係性が描写されると、そこからある程度、話の時系列を推しはかることが可能になります。
 今回の自由研究は、「魔女の旅々」内の描写を紐解き、時系列表を完成させることを目的――としていました。

 残念ながら、原作内の描写を纏めるうちに、明らかに話の中で時系列が食い違っている点が多数発見されました。
 この矛盾点をいかにして考察、納得するかを考えた結果、私は今回、時系列表の完成を見送り、その矛盾点を解消するうちにたどり着いた結論を述べることといたしました。

 (この考察は、原作3巻、4巻、5巻、6巻、7巻、8巻、10巻、またリリエールと祈りの国の内容を含みます。原作の内容に触れるネタバレは最小限に留めますが、ご注意ください)

時系列上の矛盾点

 矛盾点は以下の5点となります。

矛盾点1.フランが深い森のビエラを出た年齢

矛盾点2.ヴィクトリカが故郷へ帰郷した時期

矛盾点3.イレイナが魔女になった年齢

矛盾点4.時計郷ロストルフと信仰の都エストにおけるイレイナの年齢発言

矛盾点5.ラトリタ共和国における6巻と7巻の時期の相違

 上から順に解説します。


矛盾点1.フランが深い森のビエラを出た年齢

 原作8巻7章278ページにおいて、フランは「短い十三年の生涯に、幕を下ろした」と独白しています。このことから、フランはこの時点で13歳であることがうかがえます。
 しかしながら、原作10巻6章304ページにおいて、イレイナは「十四歳の頃――深い森のビエラから出る前の、幼い頃のフラン先生」と独白しています。
 8巻の描写を見るに、フランが独白してからビエラを出るまでの期間は一日足らずです。にもかかわらず、フランの年齢が一年ずれているのは何故なのでしょうか。

・仮説1:フランとイレイナで認識に齟齬がある
 十三年と独白したのはフランであり、十四歳と独白したのはイレイナです。どちらか一方が間違えている可能性です。
 この場合、当事者であるフランの独白である、十三年のほうが正しい可能性が高いと思われます。

・仮説2:十三年経過したが、年齢は十四歳である
 魔女の旅々世界は現実世界と違う歳の取り方を採用している可能性です。
 一年で約1.077ぶんの歳を取るのであれば、1.077×13≒14となります。

・仮説3:8巻と10巻のフランは別人である
 これは後程解説します。


矛盾点2.ヴィクトリカが故郷へ帰郷した時期

 原作5巻4章136ページにて、フランは「師匠が故郷へと戻った頃に、私たちは魔女としての名を、それぞれ貰いました」と独白しています。
 しかし、原作15巻4章372ページにおいて、ヴィクトリカは「二人がそれぞれ魔女になり、別々の道を歩み、また再び一人になった頃」に平和国ロベッタへ帰郷しています。

・仮説1:ヴィクトリカの故郷は二つある
 フランは深い森のビエラと王立セレステリアの両方を故郷として大切にしているそうです。
 そこから、ヴィクトリカの故郷も平和国ロベッタとは別にもう一つあり、二人を魔女にしたのはその故郷での話なのではないかという可能性です。

・仮説2:フランとヴィクトリカで認識に齟齬がある
 矛盾点1で述べたように、フランとヴィクトリカで故郷についての認識に齟齬があった可能性です。
 この場合、当事者であるヴィクトリカが正しい可能性が高いと思われます。

・仮説3:5巻の師匠と15巻のヴィクトリカは別人である
 5巻の師匠がヴィクトリカでないと言っているわけではありません。
 これについても後程解説します。


矛盾点3.イレイナが魔女になった年齢

 原作3巻11章213ページにおいて、イレイナはエステルに魔女になった年齢を聞かれ、「十四の時ですね」と答えました。
 しかしながら、魔女見習いとなってフランに弟子入りした年齢も14歳のときであり、そこから一年間を修行の期間としていました。であるならば、イレイナが魔女になった年齢は15歳であるのが正しいはずです。

・仮説1:イレイナが嘘を吐いている
 単純に、エステルに言った言葉が嘘である可能性です。
 あの場において嘘を言うメリットはありませんが、イレイナの性格から考えるに見栄としてそう言った可能性も、捨てきれなくはありません。

・仮説2:14歳から一年経過したが、14歳のままである
 現実世界と歳の取り方が違う可能性のほかに、イレイナの誕生日を迎えた直後に弟子入りし、誕生日を迎える直前に魔女になった可能性もあります。
 たとえば、10月18日に弟子入りし、翌年の10月16日に魔女になれば、実質一年の修行期間であり、しかしイレイナの年齢が増えていない説明にもなります。

・仮説3:3巻11章のイレイナは本編とは別人である
 原作3巻11章のイレイナは、原作3巻12章に登場する粗暴なイレイナである可能性があることは有名だと思います。
 本編のイレイナとは別人であるため、年齢に違いが生まれている可能性があります。


矛盾点4.時計郷ロストルフと信仰の都エストにおけるイレイナの年齢発言

 同じく原作3巻11章213ページにおいて、エステルに年齢を聞かれた際にイレイナは「今年で十八歳です」と答えました。
 そして原作4巻10章273ページにおいて、エリミアに年齢を聞かれた際もイレイナは「十八ですが」と答えました。
 しかし、原作者である白石定規先生の質問箱によると、リリエールと祈りの国は3巻と4巻の間の出来事だとおっしゃっています。イレイナはリリエールと祈りの国において、舞台となる城塞都市クラウスレインに一年間滞在しています。
 3巻時点で18歳だったイレイナが、クラウスレインに一年いたにもかかわらず、4巻でも18歳のままであるのは不思議な点です。

仮説1:3巻から一年経過したが、18歳のままである
 矛盾点1、矛盾点3で述べたように、現実世界の歳の取り方をしていない可能性です。この場合年齢推定はできません。

仮説2:イレイナが嘘を吐いている
 矛盾点3で述べたように、イレイナが嘘を吐いている可能性です。

仮説3:3巻11章のイレイナは本編とは別人である
 これに関しては以前ツイッターの方で詳しく述べましたが、3巻11章のイレイナは粗暴なイレイナであり、4巻のイレイナとは別人である可能性です。


矛盾点5.ラトリタ共和国における6巻と7巻の時期の相違

 原作6巻8章253ページにおいて、「夏の終わり」と描写されています。
 ところが原作7巻9章353ページにおいて、「夏が近づきつつある涼しげな気候」とも描写されています。
 ラトリタ共和国に関する時系列は6巻のあとに7巻であり、さらに言うと6巻の出来事の数日後に7巻の出来事があるため、季節が過ぎ去るほどの時間は空いていません。
 夏の終わりの数日後に夏が近づきつつあるとはどういうことなのでしょうか。

仮説1:6巻と7巻は別の世界線である

 これは矛盾点1~矛盾点4の仮説3にも当てはまり、また以前ツイッターで上げた説の補強でもありますが。
 今までの矛盾点は、全て違う世界の話であったとするなら解消することができます。
 たとえば矛盾点1は、
 ・8巻のフランが13歳の頃にビエラを出た世界のフラン
 ・10巻のフランが14歳の頃にビエラを出た世界のフラン
 とするなら、なにも問題はありません。
 同じように矛盾点2は、
 ・5巻のヴィクトリカが故郷へ戻ってから二人を魔女にしたヴィクトリカ
 ・15巻のヴィクトリカが二人を魔女にしてから故郷へ戻ったヴィクトリカ
 であり。
 矛盾点3は、
 ・3巻11章のイレイナは14歳で魔女になった
 ・それ以外のイレイナは15歳で魔女になった
 矛盾点4も同じく、
 ・3巻11章のイレイナは3巻当時18歳だった
 ・4巻10章のイレイナは3巻当時17歳だった
 そして矛盾点5は、
 ・6巻は夏の終わりに出来事があった世界
 ・7巻は夏が近づきつつあるときに出来事があった世界
 と考えるなら、全ての辻褄を合わせることができます。

 突拍子もないことのように思われますが、白石定規先生はちゃんと3巻14章に伏線を張っていました。
 ありとあらゆるありふれた灰の魔女の物語。
 私たちは文字通り、魔女の「旅々」を追いかけているのかもしれません。

最後に

 これは全て考察であり、上げた説は全て仮説です。
 私が思いもよらない説、あるいは、私が見落とした原作の描写によって、これらの説の信憑性は上下すると思われます。
 あくまで参考であることをご了承ください。

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