桜回線
「花見に来ない?」
そう誘われたのは、三月の下旬。
例年なら桜が咲き始めてもいい頃だが、予想では平年より数日から一週程遅れるらしい。
「まだ早いんじゃない?」
「いいから、大丈夫だって!」
何が大丈夫なのかわからないが、強引に誘われた。
現地に着き程なく歩けば、満開時には人手で賑わう公園。だが今は、歩いている人さえいない。
「こっちこっち!」
誘われるまま細い道を行くと、開けた場所にポツンとそれは立っていた。
「ほら、どう?」
つやつやとした、若い桜の木。
でも、確かに咲いている。
彼曰く、自分はこの地域で一番早く花をつけるという。
時おり吹く冷たい風に、三分咲きの花びらが揺れる。
もうすぐ暖かくなるから頑張って欲しい。
桜の見ごろ、という言葉が飛び交い始めた。
南から北へ、西から東へ、低地から高地へ、公園、川沿い、あぜ道、神社、そのうねりがゆっくり動き出し、日本列島が桜色に染まる。
「厳しい冬をまた生き延びたね」
桜と交信が出来るという回線を通じ、そう呟いた。
(419文字)
たらはかにさんの企画に参加します。
最後までお読みいただきありがとうございました💖
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