レタスはここにいる
小学生のころのことだ。学校で、保健か何かの時間に、栄養についての授業を受けていた。バランスのよい食生活を幼いうちから習慣づけることが狙いだったのだろう。おれは先生の話をちゃんと聞く児童だったので、その授業にもわりと集中して臨んでいたと思う。先生が話し出した。
「ハンバーガーに栄養はあるのでしょうか?」
低学年とかだったので、こんな昔のことはほとんど覚えていない。だけど確かハンバーガーの話だったはずだ。
「ハンバーガーには、パンと、お肉と、野菜が入っていますね」
先生が黒板にマグネットを貼っていく。パンのイラストのマグネット。肉の。野菜の。
「でも野菜って、ハンバーガーにはちょっとしか入ってないよね。ないも同然です。だから、野菜はしまっちゃうね」
野菜のマグネットは取り除かれ、黒板にはパンと肉だけが残った。
小学生のおれは「えっ?」と思った。
ないも同然なんだ。
レタス、入ってるけど、ないことになるんだ。
と思った。
「ハンバーガーからはパンとお肉しかとれません。バランスのいい食事とはいえないよね」
まあ……それは……たしかに……ハンバーガーだけじゃ栄養が足りないよっておかあさんも言ってた……。
そっか……マックだけだとダメだっていうのは本当のことだったんだ……!
と、おれが思ったかは定かでない。
だけどおれは当時から、なかったことにされたレタスのことが忘れられずにいたのは確かだ。
先生の行いはもしかしたら正しい。小学生にわかりやすく物を教えるには、ややこしいものを極力省いて説明しないと、話を聞かない子が出てきそうだと思う。べつに先生を非難しようだとかそういう気持ちはまったくない。
だけどやっぱり、レタスにはキレる権利がある。
たとえ葉の一枚しかなくたって、ぼくはここにいるんですけどおおおお!?!?ってキレる権利がある。キレてほしい。ちっぽけな存在かもしれないけれど、なかったことになりたくはないはずだ。世界中すべての無視や軽視に対して反旗を翻してほしい。ハンバーガーに挟まってよれよれになったレタス。シャキシャキ感皆無のレタス。だとしてもレタスはレタスであり、確かに存在していたのだ。なんなら、マクドナルドはレタスバーガーを新発売すべきだと思う。レタスでレタスとレタスを挟み、MセットにはレタスジュースMとレタスMをつけよう。包み紙の代わりにレタスで包んで客に提供しよう。あのわけわからんピエロを解雇し、レタス農家の加藤さんを起用しよう。マイノリティの意見かもしれないが、必ず天皇陛下に直訴してみせる。必ずだ。革命前夜。息を潜める。レタスはここにいる。
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