高級レモネード

アブラゼミの鳴き声、焼け付くような真夏の日差し、遠くに見える積乱雲。
今日お昼ご飯何にしよう…素麺は昨日食べたし、かと言ってご飯は喉を通りそうもないし。

「冷蔵庫には、麺つゆと卵と麦茶だけか…」
お腹が空いているのに、食べたいものは無い。

子供の頃は何を出されてもあまり気にせず食べていたのに、大人になるとどうしてちょっぴり贅沢になるのだろう。
冷蔵庫の前まで来たのに、何もしないでまたベッドに戻るのが悔しかった私は麦茶のボトルを手に取り、コップに注いだ。

丁度、コップがいっぱいになるくらいの所で麦茶のボトルは空になった。
私はスマホ片手にそれをぐびぐびっと胃に流し込む

「濃っ…」

昨日の朝に作った麦茶に清涼感など無く、ただ私の顔を歪ませるだけだった

麦茶のボトルを洗い終えて、テレビを眺めていると『おうちで出来る!レモネードを飲んで夏バテ防止!』の文字が目に入った。

レモネードって簡単に作れる割に、いざ友達の家で出されたりすると、(友達の母は凄くマメな人なんだな…)と思わせる飲み物だよな…とか、(なるほどジップロックでも出来るのか)とか、思っていると、画面の中のレモネードが無性に飲みたくなってしまった。

…レモネードが飲みたい、レモンサイダーとかレモンスカッシュとか…そういう名前でアルミ缶とかペットボトルに入ってる奴じゃなくて、レモンのくし切りがコップのふちに飾り付けられてる、オシャレなレモネードが飲みたい。

近くのスーパー、自転車で7分くらい?
でも、いざスーパーに行って、急に「レモネードなんて飲まなくてもいい。」なんて思ったら無駄足になるな、でも昼ごはんの買い出しって思えば…、いや、さっきの麦茶で食欲が無くなったし…。

「まぁ、スーパー、エアコン効いてるし、行くかぁ…」

歯だけ磨いて、髪の毛はボサボサのまま、サンダルを履いて扉を開ける。
階段を降りて駐輪場に着いたが、何か忘れてる気がする

「あっ、マスク…」

また階段を登るのか…、面倒くさいな、スーパー行くのやめようかな。

でもまあ、行かないにしてもマスクを取りに行くとしても階段を登るのには変わらないから、ここで立ちんぼしてる暇があるならさっさと部屋に戻ってしまおう。

戻る途中、階段を登っていると片方のサンダルが脱げてしまって咄嗟に手すりを掴む。

「あっつ!!」

長時間太陽に晒されていた手すりはとても熱くなっていて、幼い頃母の洗い物を手伝っている時に、熱が残ったままのフライパンを掴んでしまった事を思い出した。

手をパタパタさせながら、玄関にたどり着く。下駄箱の上に乗ってる箱からマスクを1枚取る、サンダルは脱げやすいからスニーカーにしよう。靴下は…履かなくていいや。

レモネードの誘惑に勝てなかった私は、結局マスクをかけて忌々しい階段を降り、自転車に股がった。

サドルが熱い。

あのレモネードはいつ飲めるんだろう。




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