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19歳、秋

人 物
田口明日香(19)大学2年生
梶玲奈(19)ベンチャー企業社長
佐川まな(19)シングルマザー

〇カフェ

   賑わっている店内。
   4人席に座りスマホを眺める田口明日香(19)
   明日香の前にはカプチーノが置かれている。
   スマホ画面にはSNSサイトが表示されており【垢ぬける方法4選!】の  
   投稿。
   明日香、左下のハートマークを押すと、投稿画面内にハートマークが
   現れる。
明日香「早く大人になりたいなぁ」
   カプチーノを一口飲む明日香。
玲奈「ごめん、遅くなった」  
   明日香の後ろから、オフィスカジュアルな服装の梶玲奈(19)がアイ  
   スコーヒーを持って現れる。
明日香「玲奈」
   玲奈、明日香の前の席に座る。
明日香「あれ、土曜も仕事だっけ?」
玲奈「ん、ちょっとアクシデントがあって。休日返上だよぉ」
明日香「あーん、社長は大変だなぁ。お疲れ様」

   玲奈、ふと笑ってコーヒーを飲む。
玲奈「仕事だしね、仕方ないよ」
明日香「19歳で社長だもん、同級生として鼻が高いよ」
玲奈「そんないいもんじゃないって。社長ったって、大した仕事はしていな
 いんだし」
明日香「またまたご謙遜を~!」

   玲奈、窓に顔を向けて、
玲奈「ほんとだよ」
明日香「ふふふ」

   明日香、カプチーノを飲む。
玲奈「(独り言のように)何もしてないのに時間だけがどんどんなくなっち
 ゃうの」
まなの声「ごめ~ん、遅くなっちゃった!」

   ベビーカーを引いた佐川まな(19)が現れる。
   まな、カフェオレを持ち、ラフな服装でメイクも薄い。
明日香「まな!」
   ベビーカーには眠っている生後8か月頃の乳児(ユリア)が乗ってい
   る。
まな「ユリアがなかなか泣き止んでくれなくって」
   明日香、ベビーカーの中を覗き込み、
明日香「ユリアちゃん~久しぶりぃ!」
玲奈「(まなに)お疲れ」

   まな、明日香の隣に座りながら、
まな「玲奈もお疲れ、仕事帰りなんだ?」
玲奈「いや、正確に言うとこの後もあるんだけどね」
まな「そうなんだ、さすがは社長」

   玲奈、苦く笑って、
玲奈「まなも大変そうじゃん。夜泣きとかど大丈夫そう?」
まな「うーん、まぁね」

   まな、こする目元に少しクマが見える。
玲奈「旦那さん、ちゃんとサポートしてくれてるの? 今は男も一緒に子育
 てする時代だし」

   まな、カフェオレを一口飲み、
まな「いやぁ、はは。別れたんだよね、実は」
明日香・玲奈「えっ‼」
明日香「な、なんで⁉ この間のハーフバースデーの写真には一緒に写って
 たじゃん!」
玲奈「そうだよ! い、いつ別れたの!」
まな「いつぅ、って2か月くらい前かな」
明日香・玲奈「えぇっ⁉」
玲奈「2か月前ってハーフバースデーの時じゃん!」   
まな「その少し後かな」
明日香「な、なんで、ユリアちゃんもいるのに別れることになったの」
まな「んー……あたしの男運が悪かったって感じかなぁ。いろいろ痛い目も
 見たし」
玲奈「痛い目って」
まな「精神的にも肉体的にも?」

   ベビーカーですやすや眠っているユリア。
まな「ユリアがいなかったら、あたしはダメだったかもって思うんだよね」
明日香「だめって……」

   まな、両手を叩きパッと笑顔になって、
まな「ま、この話はおいおい詳しくね。せっかく久しぶりに会えたんだし楽
 しい話しよ」
玲奈「なんでそんな大変な時に連絡してくれなかったの。私達中学時代から
 の友達じゃん」
まな「んー、でも二人とも忙しそうだったから。落ち着いたら話を聞いても
 らおうって思ってたんだよね」
明日香「玲奈はともかく、私は暇だったのに」
まな「大学生だって大変でしょ。就活とか、大変だって聞くじゃん」
明日香「就活はまだ、早いよ」

   明日香、カプチーノを飲む。
まな「今は親のサポートもあってどうにか二人で暮らす見通しもついたし、
 大丈夫。頑張るよ、いろいろね」
玲奈「まな……私にできることがあったら何でも言ってね」
明日香「私も!」
まな「うん、ありがとう」

   ユリア、ぐずりだす。
明日香「あっ」
まな「あぁ、起きちゃったかぁ」

   まな、サッと立ち上がってユリアを抱きかかえる。
まな「ちょっと外行ってくるね」
明日香「う、うん!」

   まな、ユリアをあやしながら外へ出ていく。
   明日香、まなを見送って、
明日香「すごいなぁ……」
   明日香、玲奈に向き直り、
明日香「母は強し、だね」
玲奈「うん。まな、凄いね」
明日香「私にとっては玲奈もだよ。会社を立ち上げようなんて、私には勇気
 が出ないよ」
玲奈「そんなの、たまたまタイミングが良かっただけだよ。支援してくれる
 人が見つかったってだけで。女子高生の力なんてちっぽけだよ」
明日香「そうだとしてもさ」
玲奈「それに、今もちっぽけだよ。出来ることなんて限られているし、今で
 も誰かの上に立って仕事をすることが凄く重荷に感じることもある」
明日香「……」
玲奈「でも、私が選んだ道だからね」
明日香「玲奈……」
玲奈「でも疲れちゃった時はグチ聞いてね」

明日香「もちろん!」


〇公園(夕)

   人気の少ない公園のベンチに明日香が一人で座っている。  
   明日香、スマホ画面を触っており、画面には留学支援のホームペー
   ジ、留学相談の応募フォーム。
   明日香、送信のボタンを押す。
明日香「ふぅ」
明日香、空を見上げると夕日が鮮やかに空を染めている。
明日香「……綺麗
   明日香の顔に夕日が反射する。

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