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偽りのあなた


「例の失踪の件の死亡認定、裁判所持ってったか?」

〇:はい、先月出して受理されました

「そうか、ご苦労だったな。〇〇、来週は休みにしてあるからちゃんと休め。」

〇:ありがとうございます、、失礼します、、、

●:お前もついてないな〜、あんな無茶な捜査担当させられるなんて、でもこれでやっと解放だな笑
〇:正直、いろんな点が引っかかるけど、、、
●:まぁあんまり気にすんな、ちゃんと休んで頭冷やせよ〜

〇〇は警視庁・刑事部・捜査3課に所属する刑事で、つい最近まで8年前に失踪した男の事件を担当していた。

しかし、不審な点はいくつかあったものの8年経った今でもその男を見つけることができなかったため、男は死亡したものとしてその事件は幕を閉じた。



〇:美玖さん
美:〇〇くん
〇:こんばんは
美:こんばんは
〇:今日は冷えますね〜
美:そうやね
〇:そのマフラー、似合ってます
美:ふふっ、ありがと



12月24日、クリスマスイブ

刑事である〇〇はなんとか時間を作り、かねてよりずっと気になっていた人とディナーに行くことになっていた。

その人の名は、金村美玖。

大きな目にサラサラな黒髪ロングの綺麗な女性だ。

それに加え、時折出る関西弁も可愛らしい。
一応本人は気をつけているらしい。

しかし、〇〇はそんな彼女の彼氏になることはできない。
なぜなら、、、

〇:そのマフラーは、、、
美:誕生日に彼に買ってもらった

他に愛する人がいるから。

〇:9月10日でしたっけ、、、似合ってます
美:さっきも聞いたよ?それに誕生日9月7日ね
〇:行きましょっか
美:うん



イルミネーションで彩られた六本木の並木道を2人で歩く。

〇:綺麗ですね
美:うん

彼女の横顔を視界の端に映しながらイルミネーションを眺め歩く。



「13階、レストランルームです。」

高く聳え立つビルの中にある少し高級なレストランにやってきた。

「〇〇様ですね。お席へご案内いたします。足元お気をつけください。」

〇:ここ、美玖さんと来たかったんです
美:素敵なところやね

店内は少し薄暗く独特な雰囲気があり、ガラス張りの窓からは壮大な夜景が一望できる。
ディナーにはうってつけの場所だ。

〇:コース料理予約してるんで今日は楽しみましょ
美:うん、楽しみ

「こちら、食前酒になります。では、ただいまよりコース料理をお持ちいたします。」

〇:このお酒、さっぱりして美味しいです
美:うん、美味しい
〇:、、、やっぱりまだあの人のこと気にしてるんですか
美:、、、大切な人だったから

彼女の大切な人は8年前に謎の失踪を遂げたのち、つい最近死亡認定された。

〇〇が美玖に出会ったのは事件から5年が経ったときのことで、〇〇がその事件を引き継ぐことになったことがきっかけだった。

〇:あんまり言いたくないですけど、もうそろそろ僕のこと見てほしいです
美:、、、

黙り込んでしまう美玖。

「失礼いたします。こちら前菜とスープになります。」

沈黙を破るように料理が運ばれてきた。

それから2人は次々に運ばれてくる料理を堪能した。

ウナギのレモンスライス添えや赤ワイン、パンやオレンジといった一風変わった料理が振る舞われた。



美:今日はありがとう、すごく美味しかった
〇:実はここの料理、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を再現してるみたいです
美:そうなんや
〇:、、、美玖さん、この後時間ありますか、、、
美:、、、うん



2人は美玖の行きつけである人通りの少ない裏路地の小さなバーに向かった。

「「かんぱい」」

〇〇はカミカゼ、美玖はブロック・アンド・フォールを飲んだ。

〇:あの人の件、解決できなくてごめんなさい、、、
美:君が謝ることじゃないよ
〇:、、、
美:正直、これだけ時間かかって見つかるとも思ってなかった

虚ろな目で空間を見つめる美玖。

〇:僕、あの事件引き継いでから美玖さんのことも調べました

美玖はグラスを唇に近づける。

〇:美玖さん、あなたは、、、

彼女が残った少量のカクテルを流し込む。



〇:あなたは、、、金村美玖さん本人じゃない
?:、、、

彼女は空になったグラスにゆっくりとカウンターに置いた。

そして微笑んだ。

微笑んだその顔は怖いほどに目だけが笑っていなかった。

?:じゃあ、私は誰だって言うの?
〇:、、、
?:なにか証拠でもあるの?

何かを隠すかのように質問をしてくる彼女。

〇:あなたの戸籍には不審な点がいくつかありました

〇〇は彼女の化けの皮を剥がすように証拠を並べた。

まず、金村美玖は東京出身のはずなのにこの女は関西弁が混じっていること。

そして、戸籍上では9月10日生まれなのにこの女は9月7日だと言っていること。



最後に、、、金村美玖は子供の頃にすでに亡くなっているということ。



〇:僕の考えが正しければ、あなたは、8年前の同時期に亡くなったはずの「小坂菜緒」さんではないですか?
?:、、、

彼女は俯いて黙り込む。

〇:あなた、小坂さんは、あの男に浮気されていた、だから殺して遺体を完璧に隠した

反論する様子もないので続ける。

〇:そして、身分を隠すために「戸籍上の」小坂菜緒を死んだことにし、金村美玖の戸籍を「買い」、金村美玖になりすまし、金村美玖として生活をした、、、違いますか?

菜:、、、グスッ

全ての根拠を言い終わると、彼女は涙をこぼした。

そして、さっきと同じように微笑み、、、

菜:おめでと、刑事さん

すると、その瞬間〇〇の視界が眩暈がしたかのようにぐるぐるとぼやけた。

〇:うっ、、、

その場に倒れ込む〇〇。

菜:じゃあ、私行くね
〇:ま、待、、て、、、!

カランコロンカラン、、、

薄まる意識の中で、〇〇はただ彼女が去っていくのを見ていることしかできなかった。



それ以来、「小坂菜緒」は姿を現すことはなかった。

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カクテル言葉
カミカゼ………覚悟、あなたを救う

ブロック・アンド・フォール………嘘をついて

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