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真・実話怪談「梅の実」

保険屋をしている女性、味岡さんが契約をしている客の家を訪れた。

 保険の更新をするために新しい資料を持って家の居間に通された。庭から子供さんの明るい声が先ほどからしている。

姿は見えないので玄関からは死角になっている裏庭で遊んでいるのだろう。

 話が終わったタイミングで、「あの、お子さんお庭で遊んでるんですか?」

そう言うとお客様の老夫人は笑いながら、

 「いやあ、皆さんそうおっしゃるんですがうちには子供はいないんですよ、ただ……木がありますでしょう。あの梅の木からね、梅の実からね、たまに子供の声に似た声がするんです」

 そんなことを老夫人は言う。

梅の実をお土産にもらったばかりだったので、複雑な顔をしていたと思う。

 目の前の梅の実を入れた袋から、ふいに子供の声がした。

 「あ……」

 老夫人は、昔はうちによく近所の子供が来たが最近じゃ来なくなった。みんな気味悪がって。と言いながら梅の実をザルからひとつつまみ上げ、齧る。

 「うッ痛いッ」という子供の声が確かに梅の実からした。老夫人は楽しそうにほくそ笑んだので背筋が寒くなったのを覚えている。




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