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『黒い角』

座間さんとする。

彼は、昔から「角が見える」らしく、
頭の上に指を立てて「こんなカンジ」と話してくれた。

それが、見え始めたの彼が学生の頃、

ふと繁華街で頭に角のある人を見た。

会社員の男性。

見た目は普通なだけに角だけが異様に見えた。

そういうファッションか、インプラントか、病気かな、いろいろ考えたが、どれも違う。

みんなには見えないのか、
誰もその人を見向きもしない。

まあ、いいかと思った翌週、

再び見た。今度は女性。

最初見たのは白い小さな巻き貝のような形だったが、今度は少し濁っていて、大きい角。

そして何人か、角を生やした人を見かけていたが、

人によって角の形状や色は様々だったが、ある日見えたものは異質なものだった。

電車の中で、年寄りに恫喝するように、

「じゃま」と言って睨んだ若者の頭に見えたのは、

黒くて長い角。

今までも黒い角は見ていたが、それとは違い、枝のようだった。

それが、歪曲しながら伸びて胸に突き刺さっている。

若者は、辛そうに咳を繰り返している。

なぜか、あの若者はもう長くない。そう思った。

その若者とはよく会うので同じ電車に乗り合わせることがある。

降りる駅が同じなので、彼の素行の悪さは知っていた。

日に日にその角は、成長しているように見えた。

だが、若者はいつの間にか最近見ない。

そういえば、若者がじゃまといったあの老人も、それを訝しく見ていた人たちも、ぶつぶつ言っていたな、と思った。

もしかしたらあれって人の思念みたいなものが、凝り固まったものなんじゃないか、

自分はそれを、視認してしまっているんじゃないか。

だとしたらあの角に見えているものは角ではないのか。

さらにいえば今まで見てきた複数の角が変化したものが黒い角なのではないか。

今もたまに見かけることがあるが、自分以外見える人はいまだに出会わない。

ただ、最後に座間さんが私の頭を見ながら
「あなたもなんですね」と冷たくぼそりとこぼしたのが気になった。

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