【ドラクエ考察】ロトゼタシアは「異なる可能性」が共存する同一の世界である
この記事には「ドラゴンクエスト11」に関する重大なネタバレがあります
当初、ドラクエ11には3つの世界線が存在していると言われていた。
一つはベロニカが死に、そしてイレブン(11主人公)が過去に旅立ってしまった、「勇者がいなくなった世界」である。
残りの二つは、時のオーブを破壊したイレブンが過去に戻り、滅びの世界とベロニカの死を改変し、そしてニズゼルファを打倒するのだが、その際に「勇者の紋章」をセニカに渡すことでセニカが過去に戻ることになる。
このとき、イレブンたちの世界は過去に巻き戻らないので、「イレブンのいる世界」と「セニカが過去に戻ってローシュを救う世界」に分岐するのではないかと言われていた。
ゲーム中ではそれらの世界の存続についてはっきりしなかったのため、パラレルワールドではないかという説があり、特に「勇者がいなくなった世界」ではカミュが6主に似ていることから、天空シリーズにつながるのではないかという考察もあったのだが、2017年に開催されたネタバレレイトショーにおいて、堀井雄二自ら、「パラレルワールドではない」ということが明言されており、残念ながら「勇者がいなくなった世界」は存続しないことが明らかになった。
「歴史は収縮するというか、一個にまとまっていくのかなっていう」
「かすかな記憶が残っている」
「パラレルワールドじゃなくて、一個の歴史にこう・・・」
「一つになっていく」
1:58:10付近より
しかし、元々の質問が「主人公が過去に戻った後世界はどうなったのか」というものであったことから、「残り二つの世界は分岐するかもしれない」という可能性が残されたが、結論から述べてしまうと、全てのドラクエ11の世界は一つであり、どの世界線も最終的に一個にまとまっていくことになる(世界は分岐しない)。
つまり、堀井雄二がレイトショーで述べた「パラレルワールドではなく1個に収縮していく」というのは、3つの世界線全てに当てはまる。
世界が1つにまとまっていくということはどういうことか
真エンディングにおいて、ロトゼタシアは聖竜=命の大樹から生まれた大地であることが判明する。
そして、そこに住む人々は生命の大樹の葉とリンクしており、大地のみならず人間自体も大きく影響していることが語られる。
さて、この命の大樹にはもう一つ非常に大事な機能を所持している。それは「世界の記憶を保持する記録媒体」という役目である。
ロトゼタシアには世界各地に「大樹の根」が生えており、これにイレブンが触れることで過去の記憶を再現することができる。
この記憶の再現はイレブン以外の記憶も再現できることから、イレブンの記憶を呼び覚ましているわけではなく、大樹自身に記憶が蓄えられていることが分かる。
そして、この記憶はロトゼタシアにおいて発生した全ての時間軸を記録していることが判明する。
イレブンがウルノーガを打倒して、一度目のエンディングを迎えたのち命の大樹を目指す直前まで戻ることになる。
当然、それまでの冒険は(一見して)なかったことに見えるが、カミュたちからはこの失われてしまった未来の記憶が残っているかのような発言をする。
仲間たちは違う時間軸の記憶をかすかに覚えている
しかしこれは、人間の認識能力の限界ともいうべきものであり、メダル女学院にある追憶の根(命の大樹の記憶の器)では、「時戻り」前の歴史の記憶も全て可能になっている。
また、11Sの追加エピソードである【グレイグとホメロス】では、イレブンがオーブを破壊して時を戻ったあとで受けるシナリオであるにも関わらず、こちらの時間軸では発生しなかったはずのグレイグとホメロスが衝突する回想を再現できることから、失われた(はずの)回想が可能なのはシステム上の都合などではなく、時のオーブを破壊しようとも、実際に発生したことがなくなったりするわけではないということを示しているのである。
このイベントは時に戻る前でしか発生しないにも関わらず大樹の根の記憶に蓄えられていた
ロトゼタシアの世界は命の大樹から生まれ、人々の生命すらも命の大樹と繋がっている。
命の大樹の葉は人々の命とリンクしている
つまり、「命の大樹=世界」に等しいものであり、命の大樹に記憶が保存されているということは、世界の記憶として残り続けているということになる。
また、神の民の長老であるイゴルタプは「潜在能力を解放する」と称して、過去に遡る前に得た経験を全て引き出すことができる。
長老イゴルタプは失われたはずの経験を全て引き戻す力を持っている
真エンディングで判明するのだが、神の民は命の大樹の化身である聖竜に仕えていた。
このことからも、命の大樹には記憶のみならず全ての時間軸の情報も保管されていることが分かる。
神の民は命の大樹の化身(聖竜)とともに戦った種族
つまり、ドラクエ11に存在する3つの時間軸は全てが正史であり、「ベロニカが死んだ世界」「ベロニカが生き残った世界」「セニカが過去に戻った世界」のどの時間軸の出来事も、最終的に一つに収束してドラクエ3に繋がるということである。
よって、ローシュが生き残るのもイレブンがロトの勇者として語り継がれることも、どちらかが消え去るのではなく、同一の世界の異なる事実が命を大樹を媒介として共存するというのが正解である。
どうして、セニカが過去に戻っても主人公たちの世界は続いているのか
真エンディングが物議を醸した理由として、この見出しの問題がある。
「時のオーブを破壊すると世界が巻き戻る」と説明があるため、オーブを破壊すればその時点で巻き戻りが発生するはずである。
しかし、セニカの場合は、彼女は過去に戻っているが、世界が巻き戻ることはなく主人公の世界はそのまま続いている。
世界の分岐説が大きく支持されたのはこの問題があったというのもある。
さて、なぜセニカが過去に戻ったにも関わらず世界が巻き戻らなかったのかという回答については、既にゲーム内での時の番人がきちんと説明してくれている。
最初に主人公が過去に戻るときに、時の番人(セニカ)からはオーブについて次のように説明を受ける。
この一番新しい時のオーブを壊してしまえば
過去に戻れるのは イレブン あなただけです。
イレブンだけは「過去に戻る」と表現される
この説明には(一見すると)大きな矛盾点が存在する。
時のオーブを破壊すると世界自体が巻き戻るのならば、「過去に戻れるのはあなただけ」と強調する意味が不明だからである。
自分も仲間も過去に戻っていることに変わりはないはずである。
しかし、一読でしただけでは疑問点が浮かぶこの説明には大きな意味がった。
まず、「一番新しい時のオーブ」というセリフから、時のオーブは一つでないことが分かる。
実際に、神殿には複数のオーブが浮かんでいる。
恐らくだが、時のオーブには時を記録する限界量があり、これを超えると新たに時のオーブが生まれ、それが「一番新しい時のオーブ」になるのである。
一番新しい時のオーブは「今この時」が記録されている。そのため、それを破壊すると「世界そのもの」が巻き戻されてしまう。「今この時」を紡いでいるのだから当然である。
しかし、実はイレブン自身は巻き戻っていない。
実際、仲間たちは巻き戻った時点のレベルと装備に戻ってしまうがイレブンだけはレベルも装備もそのままである。
このことから、イレブンのみが過去にタイムスリップしていることがはっきりする。
つまり時のオーブは破壊したものを過去に飛ばすというものが基本機能として備えられており、最新のオーブを破壊すると世界が巻き戻るということとは別なのである。
イレブンのオーブ破壊時には、これが同時に発生してしまったのでプレイヤーからは分かりにくくなってしまった。
それでは、セニカが時のオーブを破壊した際の結果についての説明する。
セニカが時のオーブを破壊したにも関わらず、世界が巻き戻らないのは彼女が破壊したのは、この「一番新しいオーブ」ではないオーブだからである。
「今この時」を記録するオーブを破壊したわけではないのだから、当然世界は巻き戻らないし、主人公の世界がそのまま続いても全く不思議ではない。
ローシュの時代は今より数百年以上も昔の話であり、その時代に戻れるオーブを破壊したのだから、彼女が破壊したのは「一番新しい時のオーブ」ではないのは明白である。
そして時のオーブは破壊した者を、破壊したオーブの時間軸まで戻す効果を持っているので、世界が巻き戻らずにセニカだけがローシュの時代に戻れたのである。
「イレブンのいる世界」がアレフガルドに繋がらない理由
私は当初、「ローシュが生き残った時間軸」が3上の世界に繋がり、「セニカが過去に戻ったイレブンの世界」が1下の世界(アレフガルド)に繋がると予想していたのだが、ロトシリーズの世界設定を確認するとこの説は成り立たないことに気が付いた。
アレフガルドはかなり特殊な設定を持つ世界であり、世界そのものは精霊ルビスが作り上げた別世界であるにも関わらず、住民は上の世界の移住者なのである。
アレフガルドは上の世界とは異なる世界であるが住民は移民である
そもそもアレフガルドはドラクエ3の時点ではまだ作りかけの未完成な世界であり、3以降にローレシア等の広大な世界が作られたという設定がある。
ラダトーム城の王様が「ラルフ1世」なのも王国が築かれて間もないことを想起させるように描写されている。
アレフガルドの外海は滝になっている
これはゾーマに魔力によって封印されているなどではなく、単に未完成だということが、スタッフ向け設定資料集が公開されたことにより判明した
このアレフガルドがまだ作りかけの途中であるということもそうであるが、住民自体が上の世界の移民であるということを考えると、イレブンの世界がアレフガルドに繋がると考えるよりも、上の世界にドラクエ11の全ての時間軸が流れ、そこから世界の可能性が分岐したと考えるほうが全体として自然であるし、先の堀井雄二の「世界は一つにまとまっていく」という発言ともピッタリとハマる。
全体的なまとめ
ドラクエ11のストーリーは複数の時間軸が存在するが、堀井雄二がレイトショーで語ったとおり、「ベロニカが死んだ世界」のみならず「ローシュが生き残った世界」も「イレブンの世界が続く世界」も一本の歴史に収束するようになっている。
そして、「ローシュの生き残った世界」が強く現れたのがドラクエ3の上の世界であり、「イレブンのいる世界」が強く現れたのがアレフガルドの世界なのである。
この二つの世界は異なる世界であると認識されていたが、正しくは同一世界による「可能性の分岐」が何らかの理由(おそらくゾーマの出現)により、強く分かたれてしまったのだろう。
その証拠に、上の世界と下の世界は別の世界であるとされながらも双方とも「ロト」の伝説が受け継がれているので、元々は同一の世界であったことが示唆されている。
ロトの勇者は「真の勇者」として双方ともに伝わっている
「時のオーブのかけら」について
DQ11Sでは、真のエンディング時に表示される復活の呪文を入力することで、レベル90で序盤から始まるいわゆる「強くてニューゲーム」で始めることができるのだが、これで始めた場合に限りだいじなものとしてして「時のオーブのかけら」というものを所持している。
これはセニカが破壊した時のオーブの欠片である
この復活の呪文はゲームクリア前に入力しても「この呪文は今はまだ使えません」と表示されて使うことができない。
つまり、時のオーブの欠片を入手しているこの世界線は真エンディング後の「セニカが過去の戻りローシュを救った」のちの話なのであるが、イレブンの冒険には一切変化がない(これを所持していても追加のシナリオや内容の変化などは起こらない)。
要は、セニカが過去に戻ってもパラレルワールドにはなっていないし、イレブンの冒険が無になったりはしていない(ローシュが生き残ったことでニズゼルファが封印されイレブンの冒険が無になるのではないかという説があったが、これでほぼ否定された)ということを分かりやすく示している。
堀井雄二はドラクエ11S前夜祭において「セニカ関連は少しだけ分かりやすくした」という趣旨の発言をしているが、この非常に地味なアイテム一つを追加するだけで世界観の秘密を明らかにしているという見事な手法である。
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