80冊読書!10冊目 デジタル時代のイノベーション戦略
前回に引き続き直接的な仕事関連の本を読むことにした。事業計画を考えている特殊なタイミングということで、脱線した内容の読書である。
すでに本だけでなく、様々なDX関連のサイトや動画なども見ているが、まだまだピンとこない。そんな中では経産省の『産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進』はかなりの力作だと感じている。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html
さて、本書がどのような展開で示唆を与えてくれるか、楽しみにしながら読み進めよう。
第1章 なぜイノベーションが必要なのか
「イノベーション」はわが社のビジョンの中にも入っている言葉である。イノベーションは「新しい技術そのもの」によって起こるのではない。新しい技術をもとに、目指すべき理想を構想し、一方で現実をありのままに受け入れ、発想の飛躍と関係する人の意識改革をしていくことによって起きてくるものと考えている。
私たちのお客様の業界ではなかなかディスラプター(破壊者)が出てこない。確かにこれまで細分化されていた市場が統合していき、競争している相手が、自分たちから見ると他業種からのディスラプターに見えるかもしれないが、私のように少し遠目で見ていると、結局同じ仲間うちでの競争でしかない。
市場が小さいわけではないのに、なぜだろうか?「まだ、出てきていない」だけなのだろうか?本章を読みながら、これまであまり考えてこなかったディスラプターについてもう少し考えを深めていきたと思った。
DXを考える上でどのように「分類」を分けたり、「領域」を区切るのか?は重要な意味合いがある。この本では領域を「ビジネストランスフォーメーション」「カスタマーエンゲージメント」「フューチャーオブワーク」「デジタルエコノミー」と4つに分けているが、そもそも「領域」という分け方が良いのか?疑問が残る。最終的に「ITサービス」の話に持っていくのであれば、この「領域」の区切り方は分かりやすい。一方で、このような区切り方はDXの概念を矮小化してしまうように感じる。
今日、たまたま私の会社の担当者(社内でDXの実践をやってくれた)が次のようなことを言っていた。もともとは「課題を解決するためにあるサービスを導入する」ことがスタートだったが、実際に進めてみると「課題を解決するには、どんなサービスの使いこなし方をするべきか?組み合わせるべきか?」を自分が主体性を持って考え抜くことこそ大事だと思った・・・と。
DXを進めていく立場としてはこの言葉にとても共感をした。
第2章 イノベーションによってどこを目指すのか
外部から眺めると、ある業界やある企業がDXを行うべき理由や、その目的、何をするべきかは比較的分かりやすい。ただ内部にいると、眼鏡が曇りやすく見えなくなってしまうことが往々にしてある。そして自社内で十分な理解が進んでいないことが原因で表面的なDXへと進み、やることそのものが目的化することになる。結果、DXって何か違うんじゃないかと、やめてしまうことにもなりかねない。
そういう点で、DXを推進するには自分たちの現状理解と目指すべき方向性の理解は欠かすことができない。コンサルタントの意見ではなく、自分たちでそのことを認識できるようになると、前進するモチベーションが明らかにレベルアップする。DXは「自分たちのものなのだ!」という強い使命感があってこそ結果が出せるのではないだろうか。
経営者のリーダーシップを待っていたのでは、何も始まらない
DXを進めていくには担当者のリーダーシップが重要である。社内でも言っているが、そもそも「おじさん」がイノベーターとなって本質的なDXを進めることなど無理なのである。経営者はDXの現場を見ながら少しずつ概念的な理解を進めていくことが求められる。パラダイムを変えることができる人ならな、どんなに「おじさん」であっても、後からDXを推進する経営者となることは可能だ。概念的な理解が進めば、そこからは一気に経営者の役割は大きくなっていくと思う。ただしそれは事実としても「一歩目」は経営者ではない。
それにしても「今」を語る書籍は、この章のトヨタの事例のように「超巨大企業」や「先進的グローバル企業」の事例を持ち出すのだろうか?DXの流れでトヨタの「自動車メーカーから、モビリティ・サービスを提供していく会社へ変わっていく」なんていうビジョンを聞いたところで、「ふ~ん」としか思われないことを気づかないのだろうか?
もっと人々が知らないことを探索し、表面的ではない「本質的なDX」に気づきを与えられるような事例を持ち出すべきであろう。
と書いた直後に出てきた事例が「グーグル」と「アマゾン」だ。著者の探求心のなさに辟易とさせられる。
第3章 どのようなイノベーションを起こすのか
この章では一般的な四象限(新規/既存の顧客/提供価値=サービス?)でデジタルイノベーションを語っているが、デジタル時代に最も重要なことは「既存×既存」の象限であろう。ここにはあるパラダイムがあり、そこをいかにシフトできるか?がその他の象限への広がりにつながるはずである。単にサービス開発や新規マーケット開拓のことを言うのであれば、「デジタル」の脈絡で話す必要はない。
従来の事業て提供している製品やサービスの価値を、従来の顧客層に提供する領域いおいても、デジタルイノベーションの機会はあります。
「機会はある」のではなく、この部分こそが重要なのだ。まずはあらゆる企業において「データの流れ」と「それに伴う業務」の全体像を明らかにすることが必要である。この章に書いてあるように、マニュアル配布を電子データ化したり、コンタクトセンターでのチャットボット活用などは単なるITツールの導入でしかなく、何のイノベーションでもない。
社内には全体のデータの流れをつかんでいる人はほとんどいない。このことが部署部署でのITツール活用という「部分最適」を生み出し、本来向かうべきイノベーションいならない理由でもある。
・社内にどんなデータが存在しているのか?
・そのデータはどこから来ているのか?
・そこに関わる業務は一体なにがあるのか?
・誰がその業務を行っているのか?
・そもそもなぜそのような業務を行っているのか?
などフラットな目線で見ると、部分最適などやっている場合ではない!と思えるはずである。
ビジネスモデルの転換と言っているが、私が考えるビジネスモデルの転換のポイントは社内にあることが多いと思っている。このパラダイムシフトを体感することができれば、逆に新規顧客に向けたビジネスなど、山のように思いつくことができるだろう。
データに着目した7つのイノベーション
やっと「データ」の話が出てきた。デジタル時代の本質は全てが「データ化」されていることにある。だからこそ「データ」を経営の中核として捉え、経営者自身が積極的にデータについて考えることが求められる。先に書いた「データの流れ」と「それに伴う業務」がイノベーションにつながるというのは、それだけ「データ」を使いこなさなければならない時代になったということである。
この基本的な概念を持っていれば、筆者が書いている「7つのイノベーション」もその一例にすぎないことが理かいできる。
日本もようやくここにきて、急激なキャッシュレス化が進んでいる。現金はアナログであり、電子マネーはデジタルデータである。現金ではそもそも「誰が支払った」のか分からない。電子マネーは全て記録される。これまではオンラインの世界でしかなかったことがリアルな世界でも実現しているのである。これを単なるキャッシュレスということで捉えていては「データ」の重要性の見過ごしである。
ここで少し話が逸れるが、新しいサービス(特にIT的なもの)が活用されるかは、提供する側のメリットではなく、ユーザー側のメリットが重要になってくる。「そんなことは当たり前だろう!」と言われそうだが、実際には新しい概念が提案されるたびに、「提供側の視点」でしかサービスが作られていないと感じることが相当の確率である。
例えばMaaSなどという概念もそうだ。「モビリティ」と言われるが、サービス提供側はデータをとるために必死なだけで、それを使うユーザーはほぼ「スタンプカード」的なメリットしか享受できないということはざらにある。「ポイントあげるからデータ頂戴!」と言っているようなものだ。これでは本当の意味での活用の広がりはない。
キャッシュレスはやっていくうちに「小銭を使わない」ことの便利さをどんどん感じていくものである。わが社の若手もランチを食べにいくときに「現金ないんで・・・」と言うことが多々ある。彼らは普段からキャッシュレス生活を行っている。昔、サラリーマンをやっていた時に「営業マンは最低でも年齢×1000円を財布に入れておけ!」などと指導された身としては時代の変化を感じざるをえない。ちなみに、年齢×1000円の話は昔々社内でもよくしており、「今日2000円しか財布に入っていないんです」なんて社員がいたら「お前は2歳か!」などと冗談で話をしていたものである。
話を元に戻そう。企業側が持ちうる「データ」とは、ユーザーが利用する上で普通に感じられるメリットがあってこそ提供されるものであることを忘れてはならない。だからこそ「現状の事業、サービス」で「どのようなデータが取得できているのか」を真剣に考えることが必要である。
優位な自社業務のサービス化
今、私たちがDX事業を行っていこうと考えているのは、まさに自社でそのことを体感しているからでもある。単にDXが流行りだからとか、儲かりそうとかいう話であれば、決して取り組もうとは思わない。我々の場合、自社業務のサービス化そのものではないが、自社業務の考え方と、提供しているサービスの考え方が一致するということがポイントである。管理系の業務の考え方と販売系の業務の考え方もデジタル時代には基本は同じなんだということをベースにしている。
第4章 デジタルイノベーションのビジネスモデルとは
ここに書いてあるデジタル時代のプラットフォームの考え方は、この前に読んだ『デフレーミング戦略』の感想と似ている。プラットフォーム上で提供者と顧客の縦ラインだけでなく、顧客と顧客の横ラインのコミュニティができることは、今後の大きな流れとなる。これはBtoBサービスでも同様だと考えている。我々も「プラットフォーマーとしての役割は何か?」ということを常に問うていく必要がある。単に目先の売上や利益を追うのではなく、プラットフォーム上で得られる顧客の利益の総和を大切にしなければならないと感じている。
「APIエコノミーはどのようなものか」の項で語られる内容はまさにDXを進める上でのポイントとなっていく。私たちのお客様の業界には現場に複数のシステムが導入されている。この複数のシステムを現場で活用しながら業務を行っているが、それぞれのシステムで最適化を行ったところで、現場は楽にならないし、データの価値も向上しない。今、他のシステム会社とも連携をしながら、「データの流れ」と「それに伴う業務」の最適化を考えている。
ネットスケープ社の開発者で投資家でもあるマーク・アンドリーセン氏が2011年に述べた「産業はデジタル化し、あらゆる企業はソフトウェア企業になる」という予言は、現実となりつつあります。
基本的にリアルでしか仕事ができないような古い業界においても、このことは感じている。その業界で成長している会社はほぼデジタル化を行い、表面的にはアナログに見える仕事も、実は裏側はソフトウェアで動いているものである。
第5章 どのようにイノベーションを進めるのか
ビジネスアイデアの創出については、あまりコンサルタントは語るべきではないと思っている。生まれてきたビジネスアイデアが適当かどうか?を確認するにはコンサルタントは力を発揮するだろうが、アイデアの創出はやはり、「直観」的な領域を出てはいかない。事例をあげつつ理論を構築はできるだろうが、理論を学んだからビジネスアイデアが出てくるとは到底思えない。どうしても芸術的思考が必要だと思ってしまう。
そういう点で、この章は読み飛ばしてしまった。
第6章 どのようにイノベーション創出の環境を整えるか
イノベーション創出の環境とは、そもそも普段からイノベーションを起こしている会社かどうかがまずは重要となる。以前、とある大企業の担当者から悩み相談を受けた。上司である部長は今後縮小する国内マーケット担当である。縮小していくことは理解しつつも、新たな事業である一定割合を補っていくことが至上命題となっている。しかし、その部長からは新規事業創出を丸投げされてしまったらしい。そもそも、事業をつくったことのない人に丸投げされても困ってしまう。大企業の場合は本丸は大きすぎるので、例えば小さな子会社に出向して新しいビジネスをつくることをやってみたほうが、よほどイノベーションを起こす力がつくというものである。そういう点では、これまでお付き合いした中では、日本企業では圧倒的に商社の人はその経験が豊富であると感じる。
今後DXを進められるかどうかは、多くの日本企業では中小企業も含めて「カルチャー」そのものを見直すことが前提となるだろう。人材については、DXの歴史が浅いことから、1~2年真剣に対峙すればそれなりにプロになれるだろう。そういう点では、外部人材よりは社内人材をそこに充てるほうが効果的だと思っている。
この章に書いてある「最初のひと転がり」については思うところがある。我々はDXをサービス化していくことになるが、これまで「お客様の要望をかなえるために、我々が手伝ってきたこと」を極力少なくすることからスタートしていく予定である。DXとは単なるサービスというよりも、企業内の変革なので、自律的・自立的でなければならないと思っているからである。「より手厚く」ではなく「より自分たちで実践する」をサポートすることが重要であると考えている。そういう意味では今までの我々のサービス提供のあり方を根本的に変えていく必要性に迫られている。
第7章 どのように企業内変革を進めるか
おそらくDXとは大企業の内部やその界隈で使われる言葉になっているだろう。しかし我々が相手にするのは中堅企業である。この章にある内容はやはり大企業向けという感じがする。そもそも我々はIT部門すらない会社を相手にするからである。
全社的な視点を持ち、組織横断的な活動が進められる組織を作る
私の会社では、DXを進められるメンバーは単に自分の部門の中だけでの仕事としないようにしている。先に書いたとおり、管理系の知見が販売系の知見へとつながっていくものだからである。「組織」という考え方がどうしても「縦ライン」になってしまうのに対し、これからの時代、それだけでなく「横ライン」の重要性がより高まっていく。この時代の組織づくりについて言えることは、真剣に考え続け、また変化しつづけなければならないということであろう。
さて、今回は前回よりもたくさんの文章を書くことになった。ただ、本の内容や感想はあまりなく、自分の頭で考えていることをつらつらと書き連ねることになってしまった。特に第3章などは、ほとんど自分の言いたいことしか書いていない。それでも、自分の頭の中をアウトプットする時間としては大変有意義だったと思う。「今」を語る本を批判的に書いてしまったが、おそらく自分の活用法が間違っているのだろう。「今」を語る本はインプットするのではなく、そこに触れたときに自分の中から何が出てくるのかというアウトプットを中心に考えるべきなのだと気づいた。そうすれば、どんな本からでも気づきを得られるようになる。
その反省を踏まえて、今後の読書に活かしていきたい。
80冊読書!10冊目 デジタル時代のイノベーション戦略 完
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