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スターレイル「黄泉」について自称古文オタクがそれっぽく語ってみた

前置き

ごあいさつ

皆さんはじめまして、開拓者のかがみんです!まずはこの記事を開いてくださり、そして読もうと思ってくださりありがとうございます!
この記事では、私がスターレイルの黄泉さんに対して「え、これもしかして……」と、古文オタクが暴発しかけたお話をたんまりと語りたいと思っています。
決して考察系ではないし、ぶっちゃけ1ミリも役に立つ内容ではないと思うので、あまり興味のない方はブラウザバック推奨です。
でももし!もしそれでも読んでくれる方がいらっしゃるなら!どうぞ最後までお付き合いよろしくお願いします!
それでは始めます!!!

巡狩レンジャー「黄泉」について

まずは本題に入る前に。ここらへんはあまり解説しても仕方がないとは思いますが、黄泉の基本事項を確認するため、一応触れておこうと思います。

「巡海レンジャー」を自称する旅人、本名は不明。長い刀を携え、1人で銀河を旅している。
淡白で寡黙。その刃は紫電のように鋭いが、戦う時は常に鞘を使い、刀を抜くことは無い。

ゲーム内、「キャラクター詳細」テキストより抜粋

黄泉はストーリーにて主人公たちと遭遇した際、自らを「巡海レンジャー」と説明してはいますが、その詳細はまだ明白ではありません。決して多くを語らない彼女の姿は謎に包まれており、そんな彼女に魅了された開拓者も少なくはないでしょう。私もそのひとりです。

必殺技―残夢染める繚乱の一太刀
他のキャラとは違った形式で必殺技のゲージを貯め、超強力な4段攻撃を放つことができる。
(筆者はお試しで20万ほどのダメージが出て腰を抜かしました。何より全てがかっこいい)
秘技―「四相断我」はフィールド上の敵をワンパンし、戦わずして勝利を手にすることができる。

圧倒的なアタッカー性能とゲームシステムを破壊しかねない秘技などなど、多くの魅力が黄泉にはありますが、古文オタクとして彼女を見てみたとき、思わず「おやおや~?」と思うことがあったので、今日はそれを書き連ねたいと思います。

古典から読み解く「黄泉」の姿

「黄泉」と「桃」、そして『古事記』

崩壊スターレイル公式によるキャンペーン「#黄泉さま桃のお届けです!」より引用

私がまず「はっ!」と感じたのは黄泉が待機モーションにて桃を食べる動作を見かけたときです。
「黄泉=桃好き」、という突如現れた設定はいわゆる萌えの要素みたいなものでもあり、桃をプレゼントされて喜ぶ黄泉の姿に思わず尊みを感じた開拓者もいるでしょう。
しかしこの何気ない設定も、古文オタクにとっては引っかかる部分でもあったのです。

黄泉比良坂伝説、というのは聞いたことあるでしょうか。かの歴史書、日本最古の書物とも言われる『古事記』に由来する伝説です。

わかりやすくあらすじを説明しましょう。

最古の日本には、日本国土の原型を生み出したとされる伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の夫婦神がいました。二人は日本の島々を創造したり、石・木・海・水・風・山・野・火など森羅万象の神々を儲けたりしますが、妻であるイザナミは火の神を生み出したとき、不意に負ってしまった火傷により亡くなってしまいます。
――亡くなった妻に一目でいいからもう一度会いたい。そんな思いに駆られた夫イザナギは死者の国「黄泉国」へと足を踏み入れます。無事に再開を果たした二人ですが、そこで彼が目にしたのは腐敗して蛆にたかられ、醜く変わり果てた妻イザナミの姿でした。自分の醜き姿を目撃されたイザナミは、逃げるイザナギをとらえようと、黄泉の国の醜女たちに彼を追わせます。そして最後にイザナギを救ったのは、現世と黄泉国に境に生えていた桃の実でした。桃の実の霊力により、彼は命からがら、黄泉国から逃れることができたのです。
それ以降、桃は神聖な果実と言われるようになり、それがあの「桃太郎」の由来ともなっているとかいないとか――。

そうです、「黄泉」、「桃」……。この二つのワードはもう黄泉比良坂伝説を指してるとしか思えません!まあ「それがどうした」と言われればそれまでなのですが、古文オタクとしてこれはニヤニヤポイントの一つでしたね。


涙雨 降りて溢るる 渡川――

黄泉の必殺技ボイス「涙雨 降りて溢るる 渡川」
これだけを聞いて「あっ、五・七・五じゃん」ってなった開拓者もいるでしょう。たぶん多くの人がとっくに気づいているはず。
ただここにも「おおぅ」となるポイントがあったのです。しかしそれは結構後になってのことでして……。

ネタバレを避けて話しますが、ある場面で、黄泉がついに刀を鞘から抜くシーンが出てきます。そのときも黄泉は必殺技のセリフを発するのですが、このシーンでタイトルの句の下の句が初めて明らかになるのです。

涙雨 降りて溢るる 渡川 黄泉路を行けず 常世還らむ

これがタイトルの句のフルバージョンと言えるでしょう。そしてここでようやく私のオタクスイッチが押されることになります。

さて、この句の解説をする前に一首だけある短歌を紹介しなければなりません。それは、かの『古今和歌集』巻十六 哀傷 829番の句、小野篁(たかむら)によって詠まれた句です。

泣く涙雨と降らなむわたり川水まさりなば帰りくるがに

どうでしょう、一目見て黄泉の句とすごく似ているとは思いませんか?
もっとよくこれらの句を理解するため、わたしなりに解説をさせていただこうと思います。

まずは黄泉の句から。あくまで私なりの訳ではありますが、大体の感じで訳をすればこのようになるでしょう。

目から流れる涙が雨となり、三途の川の水かさが増したのならば、あの世に渡るための道も通ることができず、この世に引き返すしかなくなるだろう。

それに対して古今和歌集、小野篁の句。

わたしの目から流れる涙が雨になって降ってくれ。三途の川の水かさが増して、あの人があの世に渡れなくてこの世に帰ってくるように。

双方ともあくまで私の解釈に過ぎないので、誤った意訳も含んでいる可能性がありますが、そこは大目に見てくださいね。

さてどうでしょう。訳を見比べてみてもやはりとても似ていると思います。
「涙雨」、「渡川」……。黄泉という人物を31字で表すにはこれ以上にない表現、そしてオマージュでしょう。私はもう今すぐこの句を考えたライターさんに会って一言「よくやった」とだけ伝えたいです。(何様)
ほんとはもっと語りたいことがあるんですが!めっちゃめちゃに長くなりそうなので割愛します!!!


振り返るな、後ろに道はない

さてさて、この辺りで締めに入りたいと思います。ここまで拙い文章を読んでくださって、本当にありがとうございます。
ここでもう一度復習に入りますが、私が一つ目のエピソードで話した黄泉比良坂について覚えていますでしょうか。この黄泉比良坂、実は今も尚とある地の観光スポットとして残っているようです。
それは島根県、出雲。緩やかな坂を上ったその先、静かな木立の中に、入り口をふさいだ岩を思わせるような大きな岩がそこには並んでいます。私は行ったことはないのですが、ぜひ訪れてみたい場所ですね。

そういえば、黄泉比良坂を通るときには一つ気を付けなければならないことが一つ。

そこでは決して振り返ってはいけない。もし黄泉の国から帰って来られなくなりたくないのならば。

振り返るな、後ろに道はない。


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