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小説の書き手はなぜ空間情報が不足するのか?

 非常に興味深いツイートがあった。


 白蔵先生のツイートの内容は「空間情報についての示唆」とまとめることができると思う。
 空間情報――どんな広さや間取りの場所なのか、その場所にどんなふうに登場人物は位置しているのか、その場所で人物はどんなポージングをしているのか。そういう、空間情報、空間的情報を記すように編集から言われる。よって空間情報も含めて隈なくしっかり正確に記すことが、文章力ではないか。そのようにまとめることができる。

 素敵なツイートに触れてぼくが考えたのは、こんなことだ。なぜ、小説の書き手には空間情報が不足している人が多いのか

 理由はこうである。順を追って説明する。

 小説の書き手には、

・文章が真っ先に浮かぶ系(映像は浮かばない)
・会話が真っ先に浮かぶ系(映像はあまり浮かばない)
・映像がしっかり浮かぶ系

と3系統ある(どの系統かを知るには、本田40式認知特性テストが参考になる)。
 そして最初の2系統、

・文章が真っ先に浮かぶ系
・会話が真っ先に浮かぶ系

ではヴィジュアルへの意識、すなわち空間描写が皆無か杜撰になりがちという傾向がある。傾向なので、もちろんその系の人でもちゃんと空間情報を書いている人はいるが、全体的には……。

 ぼくの推測だけど、

・文章が真っ先に浮かぶ系
・会話が真っ先に浮かぶ系

 この2系統の人は、そもそも場所のイメージ資料が非常に少ないかほとんどないんじゃないかと思う。マンションの間取りの資料も住宅団地の資料も不十分か、ない。そういう状態で書いちゃってるんじゃないだろうか。そして日々、それほど熱心には空間的なヴィジュアル資料を集めていないんじゃないだろうか。空間的ヴィジュアル資料、つまり、場所や背景のヴィジュアル資料のストックも少ないのではなかろうか――かつてのぼくがそうだったように。

 小説は内面を拡大して見せる物語メディアなので、登場人物の心理描写が不足していると、「シナリオみたい」「小説じゃない」と批判されてしまう(ぼくも、『高1ですが異世界で城主はじめました』の1巻ではそのように批判された。今読み返すと、批判通りだし、内面描写の量が少ないと思う)。空間情報が不足していても、内面描写の不足時ほど読者から「小説じゃない」と批判されることは少ない

 漫画や映画などのあらゆる物語のメディアの中で、小説は一番多く人物の内面を見せるメディアなので、

・登場人物の心理を見せる
・登場人物のアクションを描写か語りで見せる

という2つのことができていれば、空間情報が不足していても小説として成立するし、読者も小説として読めてしまう。

 これが漫画の場合、ヴィジュアルを提示するのが至上命題(絶対に不可欠)なので――ヴィジュアルを提示せずに済ませられる漫画はほぼ存在しない――小説のように空間情報がクリティカルに不足するということはほとんどない。「この漫画はあまり背景を描いていない」というものはあるけれど、小説と比べた場合、空間情報は豊富である。

 おまけに大友克洋先生が起こしたヴィジュアル革命以来、空間情報をヴィジュアルとして見事に提示すると評価されるというベースが漫画ではできあがっている。

 でも、小説では空間情報を正確に記しても、文章力があるとは読者に認識してもらえないし、あまり評価してもらえない。目に見えない形での評価はあるのだと思うけど、目に見える形での積極的な評価はほとんどもらえない。心を打つ表現がないと、「この人、文章が上手い」とは評価してもらえないのだ。なので、心を打つ表現は不要かと言われると、なければないで文章的な評価は読者からもらえないので、心を打つ表現がないことは決してプラスにはならない。少しなりとも、心を打つ表現はあったほうがいい。
 ともあれ、

・小説は内面を一番多く見せる物語
・それゆえ、人物の内面や行動に一番の興味を持つ書き手が多い
・空間的ヴィジュアルに漫画家なみの熱意を注ぐ書き手は少数派
・ヴィジュアルが真っ先に浮かぶ書き手よりも、文章や会話が浮かぶ書き手の方が多い
・心を打つ表現が「文章が上手い」と言われる
・正確な空間描写は「文章が上手い」と言われる条件にはなっていない

以上の条件から、小説を書いている人には空間情報が不足している書き手が多いのではないか、と推測している。

 本論はここでおしまいです。あとは宣伝なので飛ばしてください。

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