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ラノベの歴史や定義についての覚書~ライトノベルの定義(条件)~

ライトノベルの新潮流』を読んで、ラノベの歴史やラノベの定義についての個人的な覚書をまとめてみた。

・少年少女向け市場の萌芽
 1895年 雑誌『少年世界』
 1906年 雑誌『少女世界』
 1914年 雑誌『少年倶楽部』
 1916年 吉屋信子『花物語』

 以上が示すのは、20世紀初頭にすでに少年少女向けの小説市場が生まれていたこと。

 大人の作家が少年少女を教導するという「教導的性格」が強かった
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『少年世界』や『少女世界』などの雑誌は、1950~60年代に廃刊(教導的な性格が時代の価値観に合わなくなった

 20世紀初頭の少年向け小説の特徴
・小学生~中学生向けだった
・教導的性格が強かった・
・物語の架空性はライトノベルほど高くはなかった
・キャラクターは立っていなかったし、造形はアニメ・漫画ベースではなかった

 後に提示するライトノベルの定義とほぼずれる。よってライトノベルの先駆とは言えない。あくまでも、少年向け・少女向けの物語の先駆。
 ちなみに教導性とは、社会や世間を知っている偉大なる先輩&有識者としての大人が、社会のことも世間のことも何も知らない無知なる少年少女に社会の現実を教えて導くという意味。教導は、字義的には「教え導く」で、 辞書によっては「思想に導く」なんて説明されているけど、ぼくがここで言っている教導性は、「社会のことを知っている大人が何も知らない少年少女に社会の現実を教え導く」という意味です。

・ジュブナイル
 70~71年 文庫レーベル・ラッシュ
 73年 秋元文庫
  主人公は学生
  超能力や不思議現象
  キャラクターは重視されていなかった

 ジュブナイルもまた、大人の作家が青少年を導く意図でメッセージを込めていた
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 大人の作家が少年少女を教導するという「教導的性格」が強かった(この頃の少女向け小説も同じ。この潮流に反する形で生まれるのが少女小説)

 20世紀中葉のジュブナイルの特徴
・小学生~高校生向けだった?
・教導的性格が強かった
・物語の架空性はそこそこあった
・キャラクターは立っていなかったし、造形はアニメ・漫画ベースではなかった

 青少年への教導的性格は、後のライトノベルには当てはまらない。キャラクターが重視されていなかったことも、後のライトノベルに当てはまらない。20世紀初頭の少年向け物語よりもライトノベルに近づいてはいるが、教導的性格が引っ掛かる。少女小説でもライトノベルでも、教導的性格はなく、読者と同じ目線で物語が描かれている。また、キャラクターが立っていなかったのも引っ掛かる。この2点は重要な線引きのポイントである。この2つのポイントを重視するのなら、ジュブナイルがライトノベルの前身であるとか先駆であるとは言いがたい。あくまでも、「少年向けに書かれた物語」という箱、位置づけにあったものというだけ。少年向け物語の後継者というだけの話。ライトノベルの先駆ではない。

・80年代の流れ
 ~80年代前半 SF&伝奇
 80年代後半~ ファンタジー

 恐らく80年代前期のSF&伝奇の少年向け作品群が、ライトノベルの前身や先駆と言えるもの。この時点で、教導的性格は抜けている。作品でもキャラクターは立っている。そしてアニメ・漫画イラストが表紙に使われたということは、作品の性格がアニメ・漫画的な側面を幾分持っていて、読者もライトノベルと同じ層が想定されていたということ。対象読者も、後のライトノベルと同じだったと思われる。よって、ライトノベルの前身・先駆と言ってよい。

・ファンタジーの流れを80年代の日本に導いたもの
 84年 ゲームブックが日本で発売
 86年 『ドラゴンクエスト』発売
 87年 『ファイナルファンタジー』発売
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 RPGを通して、ファンタジー世界が多くの青少年に受容されていく→ライトノベルでのファンタジー人気を準備

・黎明期のラノベ=ファンタジー
 88年 『ロードス島戦記』(シリーズ1000万部)
    富士見ファンタジア文庫創刊(ファンタジーを連想させるファンタジアという言葉が冠されていることが、ファンタジー全盛期の時代を象徴している)
 90年 『スレイヤーズ』(シリーズ2000万部。新城カズマ氏は、『ライトノベル「超」入門』の中で、スレイヤーズが始まった1990年がライトノベル元年であり、スレイヤーズが狭義のライトノベルの基本形式を決定づけたと指摘)
 94年 『魔術師オーフェン』(シリーズ1400万部)
 90年代前半まではファンタジー全盛期!

 20世紀初頭の少年向け物語や中葉のジュブナイルやヤングアダルトと違って、大人の作家が少年少女を教導するという「教導的性格」はない! そういう教導的メッセージはゼロクリアーされて、ひたすらエンターテインメント志向

 そして次のような、ライトノベルの基本的な形が提示されていた。

・表紙は漫画&アニメ系のイラスト
・メイン読者は中高生(思春期の少年)かオタク(思春期的ハートをずっと持ち続ける男性)
・キャラクターが立っていて、キャラクターの造形がアニメ&漫画ベース
・物語設定の架空性が高いものが非常に多い
・青少年への教導的性格を持たない

 今のライトノベルの条件(定義)にそのまま当てはまる。よって、この頃がライトノベルの成立期であると断言して間違いない。そして以上5条件を完全に満たした作品となると、『スレイヤーズ』が筆頭に挙がる。新城カズマ氏が指摘する「1990年はライトノベルの元年」という指摘は正しい。
 ちなみに少女小説の世界でも、コバルト小説に切り替わる時に教導的性格が抜けている

・学園へ
 98年 『ブギーポップは笑わない』『フルメタル・パニック!』『マリア様がみてる』……共通項は「学園ものの要素を持つ」
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 ライトノベルが、ファンタジー一辺倒から学園ベースへシフト(奇しくも前年97年に商業エロゲーでは『To Heart』が大ヒット)。学園ベースになっても、架空性の高さはキープ。

・異能バトルの流れが追加
 04年 『とある魔術の禁書目録』……異能バトル。ゼロ年代に突入して時代は「まったり」から「バトルロワイヤル的勝ち残り」へ。その時代の変化(バトルロワイヤル的勝ち残りへのシフト)を受けて成立したものが、恐らく異能バトル。

・ところで、なぜジュブナイルもヤングアダルトも、ライトノベルの名称に向かないのか?

 そもそも、ジュブナイルの対象は子供、具体的には小学生→ジュブナイルは論外。もちろん、ジュブナイルポルノは名称としてもっと論外。子供向けのポルノ、小学生向けのポルノがあるか! ほとんどはまだ精通しとらんわ!

 ヤングアダルトの対象はティーンエイジャー。しかし、ジュブナイルもヤングアダルトも、ともに日常の悩み志向。ラノベは非日常志向(新城カズマ氏が『ライトノベル「超」入門』で指摘)。ジュブナイルもヤングアダルトも、名称としては不適切。

 ライトノベルというジャンルは、次の5つの条件を特徴として持つと言えるのかもしれない。

・表紙は漫画&アニメ系のイラスト
・キャラクターが立っていて、キャラクターの造形がアニメ&漫画ベース(それゆえイラストはアニメ&漫画系と相性がいい)
・メイン読者は中高生(思春期の少年)かオタク(思春期的ハートをずっと持ち続ける男性)→それゆえ彼らにアピールするためにイラストはアニメ&漫画系
・物語設定の架空性が高いものが非常に多い
・青少年への教導的性格を持たない

 ちなみに大ヒット作品の多くは、学園の要素を取り込んでいる。もちろん、すべての作品がというわけではない。

 ただ――10年代後半からラブコメがライトノベル業界で賑わうようになっている。ラブコメ――別名、思春期的な糖分が多めの作品群。各レーベルの新刊のラインナップにも、糖分高めのラブコメが顔を揃える。よって、ライトノベルの条件(定義)は若干変更が必要だと感じる。ライトノベルの条件は次のように書き直した方がいいのかもしれない。

・表紙は漫画&アニメ系のイラスト
・キャラクターが立っていて、キャラクターの造形がアニメ&漫画ベース
・メイン読者は中高生(思春期の少年)かオタク(思春期的ハートをずっと持ち続ける男性)
・物語設定の架空性が高いか、物語の思春期的糖分が高い
・青少年への教導的性格を持たない

2022年現在では、以上5つがそろっているものをライトノベルと呼ぶ、と考えた方がよいかもしれない。

 参考までに、ライト文芸について。ぼくが知りうる限りでは、こんなふうに整理できるかもしれない。

・表紙は漫画&アニメ系のイラスト(男性向け萌え成分はなし)
・キャラクターが立っていて、キャラクターの造形にアニメ&漫画的な要素が
・メイン読者は20~30代OL
・現実が舞台の場合もあり、架空性の高い舞台の場合もあり
・青少年への教導的性格を持たない

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