名前のはなし

「幽霊文字」と呼ばれるいくつかの漢字があり、「彁」はそのうちの代表的なものです。
それが何かと簡単に説明するならば、コンピューターによる漢字入力を実現するために作成された「日本語で使われる全ての漢字の一覧」に偶然混入してしまった実在しない文字です。
「彁」には「か」という読みが当てられています。
お手元のPCやスマートフォンで「か」を変換するだけで、あなたも今すぐ入力することができます。特別な用意は要りません。

「実在しない文字」と言ったのは、正しくないかも知れません。
誰もが普通に入力できて、私もこうして普段から使っている文字は、もはや存在すると言うほか無いでしょう。
というか、存在するなんてレベルではありません。入力してLINEで友達に送ることだって出来るんですから、手で触ることが出来るとすら言えます。
存在を手ずから確かめて確信することができます。トナカイが実在するよりも高い確率で実在します。

そんな"噓から出たまこと"のような経緯で存在を得てしまった幽霊文字ですが、もちろん特に意味も存在意義もありません。
しかし、楽曲の名前などにも使われていて、今更無くなっても困るので消されることも無いでしょう。
私が自分の名前にこの文字を使った理由の一つに、この文字の存在意義を応援したかったということがあります。

話は変わりますが、私はこの文字の数奇な運命を、どこか人間に似ているように思います。
必要もないのに偶然この世に生を受け、存在意義などありません。
しかし生まれた以上は存在して、存在する以上は触れることができ、意義も必要性も後から生まれます。

例えば昔の西洋人であれば、人は神の意志で生まれ、神意に沿って生きることにこそ意義があると考えたでしょう。
しかし、ほとんどの現代日本人に祈るべき神はいません。
人は弱い存在なので神を欲することもありますが、そうした無意味を認めた先に意味を見出せることもあるでしょう。
真っ白なキャンバスに向き合うことは、名画を見るよりも素晴らしい体験になる可能性があります。
きわめて拡大解釈した極端な言い方をすれば、その虚無たる自己こそが祈るべき神です。

こんな考えに至ったのは、長く眠れぬ夜に鬱々と自己愛と自己嫌悪を煮詰めているときでした。
私は夜という揺籃の中で、たくさんの祈りに育まれて神になりました。
夜はフランス語でnuitといいます。ニュイと読みます。なんかかわいいですね。
nightと同じ語源で、慣れないとヌイと発音したくなります。

それゆえに、私は彁神ぬいと言います。

気が向いたときだけ配信をします。
時々VR Chatにもいます。

よかったら触りにきてください。
私はそこにいます。

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