ラブレターの見本 「エール」古関金子さんのファンレター

朝ドラのヒロイン、音のモデル古関金子さんのことを書いた本を図書館で見つけました。
このブログを書くネタ探しのつもりでした。
しかし、古関金子さんなんて、全然有名ではないし、そんな本なんてあるんだろうか?
まず、とりあえず検索してみようということで、図書館の検索機能で「古関金子」と検索してみました。
そしたら、約10件が出てきたのです。
その中で、「君はるか」(古関裕而と金子の恋)という本に注目をしました。
「モロ、ラブについてじゃないか」
「誰だろうこんなことを書ける人は?」
何?古関正裕? もしかして、そう、古関夫婦のご長男だったのです。
何と、お父さん、お母さんのことを、しかもその恋愛模様を公表しちゃったのです。
まず、二人の写真に圧倒されます。


まず、小賢しい注釈は抜きにして、ラブレターから転機します。

※※※
「突然お手紙を差し上げるご無礼をお許し下さいませ。この度新聞で貴方様のことを知り、何と素晴らしい才能をお持ちの方がおられるのだろうと、感激し、また羨望の念にかられました…。
 私はオペラ歌手を目指して声楽を勉強しております。自分で申すのも何ですが、声にはいささか自信があります。普段はレコードを聴いたりして、自分で勉強しております。たまに女学校の先生に聴いていただくだけです。本当はもっと良い専門家の方に教えて貰ひたいのですが、家の手伝いしかしてゐませんので、先立つものが中々です。今は三月にちょっとした音楽会があり、そこで歌う予定ですので、自分を鞭打ちながら勉強しております。

 貴方様はどのようにして勉強なさっておられるのですか?新聞によると独学で勉強なさったとのことですが、交響曲をお独りで勉強なさって作曲なさるなんて、どうしたらそんな大層なことがお出来になれるのでせうか?教科書を読んで勉強なさっても、実際に書くとなると…、私には想像出来ません。自分の書いた譜面をオーケストラが奏でると、どのやうなシンフォニーになるのか?私には想像できません。きっと貴方様の頭の中は音で満ち溢れてゐるのでせうね。私のやうな凡人には計り知れない才能をお持ちなのでせうね。私はただ努力するしかありません。毎日発声練習をしようと心がけておりますが…、出来ないときもあります。いつか機会がありましたら、是非一度私の歌を聴ひて頂いて、アドヴァイスを頂けたらと思ひます。世の中には名前ばかり有名で実の伴わない人が沢山ゐます。そんな中で、真の実力のある方(貴方様のような方)に聴いていただけたら、どんなにか嬉しいことでせう。竹取物語は舞踊組曲だそうですが、歌はないのでせうか?もし歌が入ってゐれば、是非歌ってみたいと思ひます。こんなこと素人の私が言ふのは、僭越かもしれませんが…。

 新聞で拝見した貴方様のお写真を見ると、短髪できりりとした眼差し、学生時代のお写真とお見受けしましたが、今でもあのお写真とお変はりないと存じます。写真からでも、性格と云うものは読み取れるものですね。貴方様は誠実で意志の強いお方とお見受けしました。意志を強く持たねば何事も成就出来ませんものね。

 近々渡欧なさるとのこと。叶うことなら私も留学したいのですが、それは夢また夢です。でもいつか世界の舞台で歌って、世界中の人をアッと云はせたい。そんな夢を抱いて勉強してゐます。

 私は女学校を一昨年卒業し、今は家事を手伝ひながら、歌の勉強をしております。私の誕生日は皇后さまと同じ三月六日です。明治45年の早生まれです。私の家族は、母と兄がひとり、そして女姉妹が六人おります。私は上から三番目です。父は獣医でしたが私が十二のときに他界しました。兄は満州の大連で仕事をしてゐます。一番上の姉は結婚して東京におります。ですから家は母と五人姉妹の総勢六人で、いつも賑やかです。私は来週から、東京にゐる姉の所に手伝ひに行きます。姉が病気で入院するからです。もしご返事を頂けるなら、次の住所宛にお送りくださいませ。私は独りで興奮しております。素晴らしい方の存在を知ってです。その興奮のまま、このやうな不躾なお手紙を差し上げた事、どうかお許し下さゐませ…。

※※※
息子の正裕さんによると、金子さんの文章で裕而さんが最も気に入ったのは、写真の容姿についてほめてあることだったようです。何せ、これまで容姿について褒められたことがなかったから。

それから金子さんの手紙は、青い小ぶりの便せん二枚に裏表ビッシリ書かれていたそうです。


また、ファンレターは数通受け取っていました。そしてどれにも、裕而さんは返事を書いたそうです。
ただ、同年代で、同じく夢に向かって頑張っているということで、ぜひ励ましたいと思ったのでしょう。まず、彼女の疑問に答える形で、自分の考える勉強法を書きます。
では、裕而さんの最初のお返事を次の記事に書きます。

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