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四行詩集 科学詩について

「いのちの不思議」尋ねつつ 生き永らえて四行詩
新人 詩人 化石人 苦心惨憺さんたん 備長炭びんちょうたん

 学生時代は生物学や生態学に親しみ、「いのち」の様々な場面に出くわした。新聞社では事件記者、科学記者、医療記者として事件・事故や治療の現場に立ち会い、動物や人間の生と死を見つめてきた。また医学雑誌の編集者として熱心な意思や医科学研究者に教えを請い、救命救急医たちの奮闘にも触れさせていただいた。
 それに先立つ小学生時代の足かけ五年間はもろに第二次大戦期と重なり、米軍機の空爆下を逃げ惑い、戦争の余波で三十六歳の父を亡くした。幸い母は九十六歳まで生きたが、私も生き永らえて間もなく八十路に至る。
 ところで、科学書といえば説明文で成り立っているが、印象深く理解できるように史実や学術成果などを詩で表現できないものだろうか。詩は繰り返して読めば、劇画やイラスト以上に想像力をかき立てる。しかいしま盛んな自由詩は、発想に親しみやコクがあってもキレがなく、リズムに欠けて流れがよろしくない。
 そこで日本古来の定型詩のうち、「感性・詠嘆」を重んじる俳句と「状況説明」が可能な短歌を合体させてみた。音節数「五・七・五」と「五・七・五・七・七」をミックスして並べ替えると、七五調四行にまとまる。
 こうすると専門的すぎる難解な内容も、一気に身近なものとして迫ってくるのではないだろうか。平安末期の『梁塵秘抄りょうじんひしょう』の今様に似た軽快な気分が味わえ、また現代の新聞コラムの軽妙さも期待でき、かみしめながら読み継いでいく楽しみもわいてくるだろう。
 暖かい照葉樹林に自生するウバメガシ(通称バベ)は、重くて堅い材質を誇る。それを焼き上げた備長炭は火力の強い堅炭かたずみとして、おいしい料理作りに役立っている。どんなに難解な研究内容であろうと、一般の人々にも理解してもらえるようにペンで加工するのが科学ジャーナリズムの役割と信じてきた。
 成功したかどうかは疑問だが、ともかく試行錯誤の結果をご披露させていただくことにした。豊かな大自然に包まれて生きてきた紀州和歌山の山国の人々。祖先たちから受け継いだ温和さを科学詩に感じていただければ幸いである。


 2013年7月 横浜・ひたる舎で 児玉浩憲

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