落研の経験をどう就活でアピールするか問題(後編)

前編に対して意外と反応をもらえたので、後編も書いている。

気づいたら三千文字くらい書いてしまった前編はそもそもESや面接においてどんなことをアピールするべきなのか、ということについて一般論に近いものを書いた。これは正直言って、本やネット記事などを参考にすれば把握できてしまう内容の焼き直しなので、情報価値として微妙なことを発信してしまって申し訳ない気持ちである。この辺が把握できているなら後編だけ読めば十分かと思う。この記事では前編で明らかになった問題点に対しての解決策を書いていこうと思う。

前編で明らかになった問題とは「落研の経験」というものが
・経験から「社会人として望ましい能力」が発見しづらい
・採用する大人からどういうものか想像しづらい。だから、その説明も難しい
という2点において相対的に不利なものになってしまっていることであった。

さて、この問題を解決するにはどうすればいいのか、という話が後編のねらいである。ただし結局当たり前なことを積み重ねた一般論の応用にすぎないものなので、結末もあまり意外で突飛なものにはならないだろう。そのようなことを期待しても応えることは難しいというのは再度言い訳しておく。記事より好きな映画でも観た方が有益であるのは間違いない。

さて、以上のごたごたを踏まえた上で「落研の経験」から「社会人として望ましい能力」が得られるかどうかをまず考えたいと思う。

まず「社会人として望ましい能力」ってなんだという話になるのだが、これはちょっとググれば色々と出てくる。私がちょっとググった結果だと「主体性」とか「実行力」とか「コミュニケーション能力」とか「論理的思考」などが人気であるよううだ。まあ「問題設定をきちんとして、そこに対して論理的に問題にアプローチして、組織間の利害関係をし、主体的に動きつつ、最後まで頑張って実行できる人」くらいに考えていればいいのではないだろうか。ややこしいなと思ったら、OB訪問などで普通に「どんな人と働きたくなるもんですか?」とか聞けばいいだろう。ただ学生も社会人もさほど「みんなでなんかする時に運営にぜったい欲しいやつ」は変わらないので結局そういうことを書けば良い。以下で思いつくままに書いた「能力」についてコメントしていこうと思う。

ただ、その前に寄り道して、作文とか面接の応答のお作法について軽く触れる。なんとなくノリが掴めている人は読み飛ばしてもらって構わない。

受け答えの仕方のテンプレ

ESや面接の質問は「経験からアピールしろ」という課題なので、作文でも口頭でも念頭におくべき「流れ」みたいなものがある気がする。ダラダラ時系列で説明していると字数も時間も食ってしまう。
ごたくをならべたが基本の型はシンプルなものであり、
「私は〇〇という経験から〇〇のような能力があると論証できます」という流れだ。おなじみのあるある質問三姉妹に再登場してもらい、さらに個別化するとだいたい下のような具合になるだろう。

「打ち込んできたことを教えてください」
落語研究会です。主な活動としては(初見のおっさんにもわかる有益そうな経験)や(初見のおっさんにもわかる有益そうな経験)があります。こういう活動をしていることもあり(望ましい能力)などが得意です。

「困難をどう乗り越えましたか」
落語研究会にいたときに(問題)が起きました。これは(初見のおっさんもわかる詳しい状況説明)という問題です。私はこれに(得意な能力)を活用して(得意な役割)を担い、この状況に対して(解決策)を提案and実行しました。(なので能力があります)

「挫折体験を教えてください」
落語研究会にいたときに(やらかし案件)が起きました。これは(初見のおっさんもわかる詳しいやらかし説明)という問題です。失敗は失敗ですが、ここを取り戻そうと(やらかしのリカバリー)をしました。この失敗から(教訓)を学びました。(教訓)を今では(似たようなことへの対策)に活かそうと心がけています。(なので私はやらかしもリカバリーできるし、学べるやつです)

というような具合だろうか。上が正解というわけではないが、経験からアピールするという行為にはなんとなく独特のノリがあると思えばいい。私はこの『ノリ』に気付くのに時間を要した。

どんな能力がアピールできるか

さてめんどくさい「お作法」にも言及したので、いよいよ落研の経験をどう料理して能力アピールテンプレにつっこめるのか吟味したい。どこでも要りそうな能力を思いつくままに列挙して個別にコメントする。
念頭においているのは
「採用する大人から経験がどういうものか想像しづらい」
という落研のややマイナーさゆえの弱点の克服だ。まず経験をよくわかってないおっさんにも伝わるようにしつつ、さらにそこからうまく説得力を持たせて有能そうだと思われる、〇〇力がありそうだと思われることを目指したい。

お勧めのアピールポイント

・協調性・チームワーク
これは一見すると落研はなさそうに見える。
お笑いの団体でやるコントなどを除き、ほとんどは決まったコンビの漫才やピンのネタなので「協調性」はあまりなさそう、と思われるだろう。一見大きめの組織で動いた経験がなさそうなのだ。たとえば落語などが上手い人ほど落語自体のうまさをアピールにつなげようとして、むしろ「こいつ、スタンドプレーが目立ちそうだな」という印象に繋がってしまったという失敗パターンもあるかもしれない。幸いなことに私は大会でそれほど実績もなかったのでそこへの拘りはなかった(泣)。
これはとにかく組織で何かやったことを探すしかない。探せば意外と出てくるから諦めてはいけない。ただ、なるべく内輪ウケじゃなさそうな組織活動で。これは下のコミュニケーション能力でも触れるが、なるべく自分たちと違う集団も巻き込んだ活動の方が望ましい。恒例行事と化している学祭はちょっと弱そうなので学祭以外がいいと思う。
こう考えるとお笑いの人はお笑いライブを実行した話を絶対にするべきである。落語メインのしょっぱい寄席の会場よりかっこいい会場を借りてうまいことやっている点に関して私はかなり企画・実行力があってすごいなと感心している。お笑いライブのいいところは金をちゃんと取るところだと私は思う。もっとも来ている客はほとんど学生お笑い会の知人だったとしてもそういう内輪感は伏せて、ちゃんと金とってるイベント(赤字だったとしても)が運営できていることは評価ポイントが高そうだろう。私見ではあるが、私はお笑いの連中もやってるのだから学生落語の人もカネとればいいのにと思う。マネタイズできてる風だと組織規模も大きく強そうに見えるからである。

・コミュニケーション能力・営業力
さて、上の協調性・チームワークにも通じる話ではあるが、コミュニケーション能力について言及したい。社会人にとってのコミュニケーション能力というのはどうやら「おもろいこと」を言うというソフトなスキルではなかったようだ(これに気付くのも私は就活がかなり進んでからであった。変にウケようとして滑ったあの日の俺を殺してくれ)。これは「異なる利害関係者の間と交渉できる能力」というのに近いらしい。交渉ができるというハードなスキルの下に「おもろいことを言って人に気に入られる」とかソフトなスキルがぶら下がっているようなので、優先順位を取り違えない方が良さそうだ。オモシロに命をかけている人も多い界隈なので、そこの誤解は多いかと思って書いた。
さて以上を踏まえれば、これをアピールするには学生同士で完結しておらず、社会(おじさんコミュニティ)と接続している感があった方がいい。複数の利害関係者の調整をしながら大きなイベントを仕切った経験はとても有能そうに見える。
これは成功例であるが、志ん喬くんという同期が始めた「西武線沿線寄席」などは素晴らしいエピソードであると思う。私もいっちょかみさせてもらい、運営ヅラして就活に挑みたかった。この寄席の良いところは、地域の利益(地域振興したい)と学生の利益(出番が欲しい)を結びつけて、安価な料金で会場を確保しつつ地域に娯楽を提供するというウィンウィンのイベントにしてしまっている点だろう。こういう営業を仕掛けて実行までやったという話はウケる。こういう点をおじさんに丁寧に説明するべきだろう。
似たようなものとして鍋焼きうどんのPRと寄席を合体させた「キンレイ心染寄席」であるとか、企業の広報活動と学生寄席を合体させた「ヤマシンフィルタ学生落語選手権(現在は中止)」などはいい経験だと思っている。そのような経験がないようだったら参加することをお勧めしたい。

・分析力・論理的思考
これもやりようなのであるが、あまりなさそうと思われがちである。体育会系などの選手を管理して作戦を考えて毎回戦っている奴らと相対的に比較するとあまり得意ではないように見える。「経営学を学んでいたので、マーケティングで習ったアンケートによるセグメント分析を行った結果、こういう層にうけるネタがあたるという仮説を立てて実行しました」くらいのことが言えないと「分析力」までは言えないんじゃないかな〜と個人的には思っている。そういうことをやっていればここをアピるのは良いと思う。
とはいえ、そこまで言えずとも「客層に合わせて当たるネタを書こうとしました。例えば老人ホーム向けなら…小学校なら…」みたいなマーケティング系の分析力の話であればいいかもしれない。これは業界によってウケが変わってしまう気がする。
こういうのは大喜利や学生向けライブが主戦場で「いかに学生界隈で尖るか」に力を注いでいた人にとっては少し難しいことかもしれない。学生やお笑い好きにしかウケないネタを磨いてきたやつだと思われるからである。老人ホームや商店街などでの落語の慰問をやったり、大会でも「策伝は結局テレビウケなので寄せていくぞ!」と思ってネタを作ったりした人にとってはアピールしやすいことだと思う。

あまりお勧めしない(私がスベった)アピールポイント

・クリエーティビティー・発想力
正直なところ純粋な意味においてのクリエーティビティーを評価する会社というのが実際まず少なかった。「クリエーティブ」というような単語がでてくるメディアやマーケティングが得意な会社も受験したが、そことてそうである。概ねそういうのは美大を卒業した専門採用の人に期待しているのではないか、と私は思う(異論は認める)。美大生の就活のことはよく知らないのだが、彼らは制作系の能力があることを証明するための作品ポートフォリオというものを見せながら面接などをするらしい。一見クリエーティビティーを売りにする彼らとて、ちゃんと「この作品はこういう意図でこういう効果をねらってこういう手法で作りました」と説明しないと会社に入れないのである。
大喜利でバチバチにウケた回答などをポンっとだしてクリエーティビティーの証明として持っていきたいという欲もあると思うが、大抵の場合はまともなおじさんから「狂人」と思われるのが関の山である。本当に社会で食っていけるほどのクリエーティビティーがあると考えるならば、芸人などを目指したほうが良い。
さて、上のようにアイデアマン的な売り込み方には否定的に書いたものの、例外はある。たいていの人が「条件付き問題の解としてのクリエーティビティー」ということになれば話は別だ。これは要するに「こういうお客さんはこう言うニーズがあるんだから」という条件を踏まえた上で「じゃあこういうアイデアなら条件を満たすよね」というふうに出てくる発想力である。
 しかしこれは結局上に書いたマーケティング的な分析力・論理的思考の応用みたいな話に近づいてしまうのである。クリエーティビティーをアピールしたいならまず手順として客層を分析した上(分析力)で、それにあうアイデアが出せる人(発想力)、と言うふうにアピールすべきだろう。

・継続的な努力・忍耐力
これもちょっと難しいと思われる。ネタを覚えて公演まで数日、みたいな実態を生きているだけに、日々筋トレなどに励む体育会系に比べると弱い気がする。相手からプロジェクトの単位が短い印象を持たれてしまうとあまり継続性があるように見えない。
ただ、これもアピールのしようである。実際に私の知り合いにもアスリートのように学生落語の稽古をしている人はいる。いわく、何度も自分の姿を写した動画を検証し、大会の制限時間に間に合うように秒単位での台本設計をこなし、ボイストレーニングのために腹筋をしまくり…。というような人は少数ながらいる。また、アイデアを日々ノートに書き溜め、寄席に通ってプロの分析をして、ほうぼうの知り合いにネタを毎週みせてフィードバックを求め…みたいなことをずっとしている人もいるようだ。そういう人なら、そこをアピールするのも悪くないと思う。「落語やお笑いがキツい努力が実は求められるもので、それに見合った成果が出ている」ということがおじさんに説得できるかは未知数である。
落語アスリート以外であれば彼らのキツそうなトレーニングを自分もやっていた風のウソを言ってしまっても構わないだろう。あるいはここはさっさと諦めて別のキツいことに数ヶ月耐えて成果を出したエピソードを探した方がよい。大学の研究など。私はここを落研でエピソード押し切るのはあきらめて、大学の研究でアピールした。

終わりに


就職活動なぞもう二度としたくない(4年を2回やったので2回しましたガハハ)。
ここでのストレスは「行き先を選ぶ・決めるストレス」と「選考そのものへのストレス」に大別されると思われる。
前者の「行き先を選ぶ・決めるストレス」は、〇〇ナビの大量の通知にはじまる情報過剰な状態に放り込まれて「数ヶ月以内(あるいは数ヶ月・数日)に行きたい場所を絞り込んでおけ」と要請されることから生じるストレスである。
後者の「選考そのものへのストレス」はよくわからん形式の試験を中期にわたって受けないといけないためにその形式に合わせてあれこれ対策しなくてはいけないことから生じるストレスである。

お察しかとおもうが、この記事は後者の問題に関してのみアプローチしている。
だが実際は前者のストレスのほうがはるかに大きいだろう。どう振る舞うかなんかより、どこに向かうか決めるほうが何倍も大変なのだと私も思う。

まあ、あまり前者的なことで悩むとウツになるので適当に考えたら諦めて行動に移ってしまうことが肝心だと思われる。ウツにならなくても「自分に本当に向いてること、したいことって…。」的な問いを立てて進路に悩みすぎると、その手の自己啓発手法で食ってる人の餌食にされる可能性がある。たとえば「志望動機」を「人生の意味」みたいなのにやたら結び付けて書かせようとしている本などがあれば距離は取った方がいいだろう。
あれこれ迷走した私の個人的な経験から言えば、落研で培った経験の話というのはブラッシュアップすればわりとどこの業界でもウケた。極論だが「どこでもちょっとずつ向いてる場所はある」ゆえに「どこだって大丈夫」という感じだろうと、今はタカをくくって生きている。

申し訳ない。これに関してはせいぜいこんなことしか言えぬ。私も余裕がないので自分のことで手一杯だし自分が幸せにならんとどうにもならない。だが、すべての落研が幸せなキャリアを歩めることは切に願うばかりだ。
いろいろ嫌になったら好きなお笑いでも見て元気出して欲しい。

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