本谷有希子「本当の旅」

【インスタにアップする写真の中でだけ、僕らは“本当の旅”を実感できる。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの狂騒曲。】

読みました。

「【感動。】というタイトルで送ってきた雲の写真とか、勧めてくれる音楽、お下がりでくれる服、紹介してくれる友達、最高だ。
づっちんの見る世界に憧れる。」


そんな【大人びた友達に憧れる高校生】のような事を言っているのが40代のおじさん、というところが痛く、キツい。

40代独身、フリーター&ニートの三人組の、か細い心を支えるような虚勢、薄っぺらで空虚な哲学、虚しい馴れ合い
本当に見ているだけで痛々しい。
全編わたってそんな痛々しさが蔓延しているのがこの作品。

登場人物を嫌味たっぷりに描写する、このじっとりとした悪意が全編を覆っており、作者の意地悪さ(褒めてる)性格の悪さ(褒めてる)が伺える。

ただ一方で、自分もコイツらになりかねないな、という思いもよぎってしまう所がまた居心地が悪い。

例えば観光名所を周る際「朝からずっとノルマを消化しているだけのようなスタンプラリー的な義務感が付きまとっていたからだ。あとで写真を見た時に楽しそうに写ればいいと、実際より何割か増しではしゃいでいる」
や、
撮った写真を見て、
「俺ら、すっげぇ楽しそうだったよね」「うん。楽しそうだった」「仲良さそうだったよね」「うん。うん」
など、旅行中の気持ちよりも「他者視点」としての価値を重要視してしまう気持ちもこのSNS文化蔓延った現代人としてはわからなくもない。

何もかも薄っぺらい三人への「嫌悪感」「親近感」が最悪のバランスで共存してしまい、ただただ不快な気持ちなのである。

現実を茶化し、直視せず進んだ道は、もう取り返しもつかない闇へと進んでしまう。
この三人の結末に不謹慎なカタルシスを感じつつ、本を閉じた。

あー面白かった。

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