舞台化されるってどんな感じ? | 蒼月海里さん原作の『咎人の刻印~ブラッドレッド・コンチェルト~』を鑑賞してきました
自慢ではないが、メディアミックスなら何度もしている。テレビドラマ化も、ラジオドラマ化もしてもらった。朗読もしてもらった。だがまだ果たせてないものがある。舞台化だ。
私は舞台が好きだ。幼いころ、子供に演劇を見せる活動に母親が登録か何かをしていて、定期的に演劇を見せられていた。小学校にたまにくる劇団も好きだった。学芸会も好きだった。もちろん『ガラスの仮面』も全巻持っていた。
高校生になってからは図書館で見つけた『オンリー・ミー』という三谷幸喜のエッセイに度肝を抜かれ、三谷幸喜脚本の演劇を観れるだけ観た。日本芸術大学も受験したくらいだ。だが、大学に入ると私は演劇から離れてしまった。原因はいろいろあるが「演劇はチームワークだ」ということに気づいたからかもしれない。三谷幸喜も『オンリー・ミー』に書いていた。脚本家は俳優やスポンサーやプロデューサーや、いろんな人の要望を要れて書かなければならないのだと。
チームワークは苦手なのだ。会社員のように会社に指示された仕事をチームワークでやるのはいい(責任を負いきれないので、むしろチームワークでやらせてほしい)。だが表現の世界になると……すべてを思い通りにしたいという欲望が勝ってしまう。それには小説が最適だと気づいたのだと思う。
しかし、私は気づいたのですよ。自分の小説が舞台化されれば、舞台に参加するという夢が叶うのではないかと。
もちろん、ドラマと小説が別作品であるのと同じく、舞台と小説とは別作品だ。それでもいい。舞台芸術というものに参加してみたいの!
そんな折、作家友達の蒼月海里さんが告知していたのだ。『咎人の刻印~ブラッドレッド・コンチェルト~』が舞台化されます、と。
キャラ文作家で『幽落町おばけ駄菓子屋』や『幻想古書店で珈琲を』など、どちらかというとほっこりした世界を描いてきた蒼月海里さん。だが、今回の舞台の原作になるのは『咎人の刻印』シリーズ。吸血鬼と殺人鬼が主人公のダークファンタジー。蒼月さんの新境地だ。
蒼月さんと出会ったのは新潮社の山本周五郎文学賞の授賞式だ。授賞式というのは、だいたいの場合、ホテルで行われ、ローストビーフなど豪華ビッフェが展開されている。だが、もともと出版業界に知己が多いのでなければ、身の置き場がないことが多い。担当編集者さんは他の作家や書店員さんたちの対応で忙しい。「ローストビーフ食べてください!」と言い残し、どこかへ消えてしまうことが多い。なので、授賞式に呼ばれると私はローストビーフを皿にとり、隅っこのスタンディングテーブルで壁を見つめてもそもそ食べる。そこへ、もう一人の担当編集者さんがやってきて、同じく隅っこでローストビーフを食べていた蒼月さんを紹介してくれた。同世代で(私のほうがやや年上だが)、元会社員で、科学が好き。話が合いそうだという配慮だったようだ。
その予想は当たり、私と蒼月さんはいきなり盛り上がりはじめた。元会社員作家は使う言語が近い。「会社員をしていたはずが異世界に転生してしまった」者同士、「初職は何で、部署はどこ? 転職は何社?」で始められるので話すのが楽なのだ。授賞式が終わるころには「一緒に博物ふぇすてぃばるに行こう」ということになっていた(実際行った)。書店員経験もある蒼月さんは私より出版流通に詳しい。キャラ文というハードなジャンルで活躍していることもあり、会うたびにいろいろ教えてもらってきた。かなり面白い人なので、もう少し書いていたいのだが、すでに長文になってしまったので、舞台の話に戻ろう。
『咎人の刻印』シリーズが始まったころ、蒼月さんは「こういうものをずっとやりたかったのだ」と言っていた。『咎人の刻印』は新たな人気シリーズになり、コミカライズもされた。友人の「ずっとやりたかった」が叶うのを見るのは嬉しいものだ。さらには舞台化されるという。いいな〜と思っていたら「一緒に観にいきましょう」とお誘いいただいた。
なので行ってきました!
予告動画はこちらから。
いや〜、面白かったです!!
主演の松田昇大さんと赤羽流河さんは若手俳優さん。このお二人が殺人鬼と吸血鬼を演じるのだが、この役で爪痕を残したいというパワーが観ているこっちにも伝わってきた。その周りを固める俳優さんたちも個性があってすごくよかった。この作品、アクションシーンがかなり多い。私は殺陣が好きなので、2.5次元の世界の殺陣をたっぷり観られてすごく満足。
個人的に好きなのは咎人にして刑事の高峯だ。罪を犯し、咎人という人間ではないものになったのに、人間社会に戻って警察組織に所属することになるキャラクター。『ルパン三世』の銭形刑事しかり、『三体』の史強しかり、非現実な世界だからこそ、こういう組織に縛られた、現実的な人が出てこないとね! すごく私好みのキャラクターだった。高峯のアクリルスタンド、買っておけばよかった……
そして生身の俳優さんたちが演じる舞台ってやはりいいですね。公演を通じて若い俳優さんたちが成長していったり、毎回違うアドリブがあったり。私は一公演しか見てないけれど、それでもそういう積み重ねを、観客席の反応から感じる。舞台は上演されるたびに違う。稽古から観ている蒼月さんは誰よりそれを感じていることだろう。ううう、いいなあ、私も舞台化されたいなあと思った。
驚いたのは、会場の物販で蒼月さんの個人誌『咎人の休息』が売られていたことだ。連載を抱え、コミカライズのネームチェックや、舞台化のための仕事や、やることが死ぬほどあったろうに、スピンオフを書いて、自分で個人誌にして物販に間に合わせるとは……。これが過酷なスケジュールをこなし続けなければ生き残れないキャラ文作家の底力ですよ。蒼月海里、恐ろしい子!
『咎人の刻印~ブラッドレッド・コンチェルト~』は、紀伊國屋ホールにて今月26日まで上演されるようです。チケットはまだあるようなので、興味がある方はぜひ。